2020年秋に、世田谷パブリックシアター×東京グローブ座『エレファント・マン』THE ELEPHANTMANの上演が決定した。本作は、19世紀イギリスに実在した人物を題材とした戯曲で、膨張した頭部、著しく変形した身体、その外見から“エレファント・マン”と呼ばれる青年の物語。演出を手掛けるのは森新太郎、主演は小瀧望(ジャニーズWEST)が務める。
1977年にロンドン初演された本作。日本では劇団四季、文学座、ホリプロ制作などで上演され、世界的には1980年にデビット・ボウイが演じて話題となった(同年ジョン・ハートで映画化)。最近では、2014年から2015年にかけてブラッドリー・クーパーが、ブロードウェイとウエストエンドで公演を成功させている。
世界中でビッグスターが演じてきた“エレファント・マン”は、異形ながら特殊メイクをあえて施さず、鍛錬された身体を湾曲させるというスタイルをとることで表現されてきた。かつ、穢れのない精神世界を打ち出し、各時代の演劇史を飾ってきた役どころである。180㎝を超える長身と端正な顔立ちの小瀧が、演出の森と組み、いかに異形の美しき青年を演じるのか、注目だ。
また、“エレファント・マン”と対峙することで複雑な心理をたどる医師トリーヴズ役には近藤公園、彼の勤める病院の理事長役に木場勝己、また“エレファント・マン”に初めて女性の愛らしさを伝える女優ケンダル夫人役に高岡早紀、そして貴族から使用人まであらゆる階層の人々を、花王おさむ、久保田磨希、駒木根隆介、前田一世、山﨑薫が演じる。
【あらすじ】
19世紀のロンドン。
生まれつきの奇形で、その外見により「エレファント・マン」として、見世物小屋に立たされていた青年ジョン・メリック。肥大した頭蓋骨は額から突き出し、体の至るところに腫瘍があり、歩行も困難という状態だった。
ある日、見世物小屋で彼を見かけた外科医フレデリック・トリーヴズは、研究対象として彼を引き取り、自身が務める病院の屋根裏部屋に住まわせることにした。メリックにとっては、その空間が人生で初めて手にした憩いの「家」となった。
はじめは白痴だと思われていたジョンだったが、やがてトリーヴズはジョンが聖書を熱心に読み、芸術を愛する美しい心の持ち主だということに気付く。当初は他人に対し怯えたような素振りを見せていたジョンも、トリーヴズと接するうちに徐々に心を開きはじめ、トリーヴズもまたジョンに関わることで、己の内心を顧みるようになっていく。
穏やかな気質のジョンには上流社会の人々の慰問が続いた。その中に、舞台女優のケンダル夫人もいた。ジョンはケンダル夫人に異性を感じ、ときめく。そして普通の人間のように振る舞いたいという思いに駆られていく・・・。
世田谷パブリックシアター×東京グローブ座『エレファント・マン』THE ELEPHANTMANは、2020年10月から11月にかけて上演予定。公演スケジュール、チケット販売に関しては、決定次第発表とのこと。
【詳細】https://setagaya-pt.jp/news/20200702-83817.html
コメント紹介
◆森新太郎(演出)
作品全体を貫いているのは、劇作家バーナード・ポメランスによる極めて冷徹な文明批評だ。
1880年代、世界経済の覇者として繁栄を誇っていたヴィクトリア時代のイギリス。身体が著しく変形、膨張した“エレファント・マン”ことメリック青年は、解剖外科医のトリーヴズと運命的な出会いを果たす。そして、“科学”や“モラル”という輝かしい旗印のもと、思いもよらぬ特別待遇を受ける。半永久的に病院で保護される身となったのだ。「規律を守るのは自分のため、規律を守れば幸せになれる」と叩き込まれて。救済はすなわち制限と管理と罰をも意味し、作者はその光景を帝国主義国家の植民地支配と重ねてみせる。
「与えているつもりが、実は奪い取っているだけではないのか?」メリックとの交流を通し、己の欺瞞と向き合わざるを得なくなったトリーヴズの葛藤は、最後の最後まで解消されないままである。しかしそれ故に、この作品は今なお世界中で上演される意義がある。私はそう思う。
それにしても、メリックを演じる俳優の苦労はいかばかりだろうか。彼は特殊メイクなど一切用いずに、身体のねじれだけで、観客にメリックを想像させなくてはならない。これは戯曲の要請である。歪んだ外面と歪みのない内面、その両方を同時に表現しなくてはならないのだ。小瀧望は私にとってまだまだ未知の俳優であるが、彼の全身から発せられる知性と感性に期待は膨らむばかりだ。誰よりも気高く、そして無邪気なメリックを生み出してくれるに違いない。
◆小瀧望(出演)
僕にとっては5年ぶりの舞台となります。舞台のオファーを受けた時「やっと舞台をやれる!嬉しい」という気持ちがこみあげて、そして演出が森新太郎さんと聞いて、さらにこれはもうやらないという選択肢は絶対にないなって、本当に飛びついたという感じでした。『エレファント・マン』はタイトルだけは知っていて、昔映画版を見たことがあるという両親からは「すごく悲しい物語だ」という話を聞きました。今、戯曲を読んでみると、僕が演じるエレファント・マンの人生はすごく衝撃的なんですが、彼の心の汚れない綺麗さ、あふれ出る知性という、そうした内面の美しさが、長年にわたってこの作品が多くの人々に愛されてきた理由なんだなと思っています。初めてお会いした森さんは優しくて、作品について色んなお話をしてくださったのですが、菊池(風磨)と、(中山)優馬からは「稽古は覚悟したほうがいいかもな」とは言われています(笑)。ファンの方々には僕の奮闘する姿をぜひ間近で見て欲しいなと思いますし、僕とキャストの皆様全員、そして森さんで作るこの『エレファント・マン』を多くのお客様に届けられるように、全力で、全身全霊でがんばりますので、ぜひ劇場へ足を運んでもらえたらと思います。