元吉庸泰、米原幸佑、板倉光隆の3名による企画ユニット「PUBLIC GARDEN!(パブリックガーデン!)」が、オンラインリーディングとして読『芥川龍之介 地獄変』を“上演”する。これに先駆け、前日にはオンライン公開ゲネプロが行われ、元吉、米原、板倉の3名が、公演に至った経緯、意気込みなどを語った。
本作の出演者であり、元吉が主催する劇団エムキチビートメンバー・若宮亮の司会のもと、オンライン囲み会見が行われた。作品の配信や、オンライン上演はこれまでにもあちこちで行われてきたが、会見がオンラインで行われるのはおそらく初の試みである。
実は、この企画は元吉が「やろう」と皆に声をかけてから、11日しか経過していないという。新型コロナウイルス感染症拡大の状況と政府の緊急事態宣言の延長および地方自治体等の方針を鑑みて、劇場が開けられない現状。それに対し、元吉は「現在の限られた状態の中で、どうやって“演劇作品”というものを世に残していくか、“物語”をお客様に届けていくか、すごく考えました」と心境を打ち明けた。
これを「新しいフィールドを探る」一つの機会と捉えた上で、「俳優という存在が小出しになり、デイリーになってしまっているのが非常にもったいない」という思いを抱いていた。
本作は、タイトルにもあるように芥川龍之介の短編小説「地獄変」を元にしている。説話集「宇治拾遺物語」に収められた「絵仏師良秀」をアレンジして書かれており、芥川の<芸術至上主義>を語る上で欠かせない作品だ。PUBLIC GARDEN!では、元吉の演出で2015年に闇に浮かぶ美しく怖ろしい舞台作品に仕上げた(その冒頭は、YouTube上に公開されているので今も観ることができる)。
このコロナ禍において、<芸術至上主義>をテーマにしたこの作品を、今の世に残すことはできないか。それには、どんな形があるのか。元吉は、芸術としての“演劇”のあり方を模索し、米原と板倉に本企画を呼びかけたという。
会見野中で、米原から二つ返事で元吉のもとに送られた一言が、大変、印象的だった。
「生きがいをください」
演劇に携わるもの、とりわけ、俳優にとっては演じることが、働くことであり、生きがい。そして何より観客と一緒に創造することを、至上の喜びとしている。今回、そんな俳優たちが、初演とほぼ同じ顔ぶれで3人の元に集った。
とは言っても、稽古もオンライン。誰も経験したことがない。俳優たちも戸惑いが大きかったようで、板倉は「Bluetoothやら何やらが本当に難しくて・・・。ほんと、不思議です、みんなと会わないんですから」と笑った。
しかし、慣れてくるとそのやりとりも楽しかったそう。板倉は「表現する媒体は違うけれどもこれはこれで熱い精神を感じます。とても貴重な体験をしているし、このワクワクを皆さんにも届けられるといいなと思っています」と、本番に向けて意気込んだ。
最後に、米原は「PUBLIC GARDEN!を作って5年。新しい、一つの演劇が形になったのではないかと、稽古中もワクワクしておりました。お客様も、オンラインで“演劇”を観ることに慣れていないと思うのですが、そこをぐっと歩み寄っていただいて、観ていただけたら、素敵な時間を届けられるのではないかと思います。ぜひ、たくさんの方に観ていただきたいです」と締めくくった。
オンライン上演では、携帯電話、音の鳴る機器の電源は切らなくてもOK。ただし、(筆者の体験上)もろもろの通知などは切っておくことをおすすめする。その方が断然、作品の世界観に没頭できる。なお、Zoomの機能を使用しているが観劇している側の映像が上演者側に見えていることはないそうなのでご安心を。
ゲネプロ。真っ暗な画面に、米原、板倉のほか、福圓美里(Wキャスト/名塚佳織)、山本侑平、秋元龍太朗、若宮らの画面が次々と浮かび上がる。
彼らは本作を「#電脳地獄変」と呼んでいる。開始と同時に、耳にダイレクトに流れ込んでくる俳優たちの声。もちろん、演じる側も観る側も劇場のような整った環境ではない。しかし、古典文学と現代技術、アナログなプロセスを本質に持つ演劇とオンラインというデジタルが相まって、妙な高揚感を生んでいく。時折、コワコワとする音がより“電脳”感を高めているようで実に、いい。
また、2015年の劇場上演時と同じように、吉田能(あやめ十八番)によるピアノ演奏が「生」で行われている。互いの状態をすべて観ることができない中で合わせていくのはとても高度な技術と集中力を要すると思うが、この試みが演劇の持つ「ライブ」感を支えている。
そして、リーディングなのだが、画面として切り取られた空間の中で、薄明かりに照らされた俳優たちの表情は生き生きと妖しく光る。生きがいを奪われた今、なお「芝居」に魅入られた俳優たちが、絶望と希望の炎を燃やす姿は、まぎれもなく“演劇”であり“芸術”だった。
配信開始時間は23:00(一部21:00)と、オンラインリーディングだからこそ可能な夜の深い時間。体験してみておすすめしたいと思ったのが、ヘッドホンやイヤホンを使用することと、部屋の電気を暗くして観ること。自宅という日常空間を非日常にいざなう約65分に、ぜひ没入を。そして、機能上でコメントを送ることもできるようなので、終演後には惜しみない“言葉の拍手”を贈ってほしい。
【あらすじ】
弔いの言葉、はたまたそれは呪詛か。交わされるその風景。語る人々。
――男の事を語る物語はそうやって始まろうか。
人々は、炎のゆらめきの先に在る物語を見つめ、その世界に成っていく。
「地獄変」
絵師と、愛しい娘と、ゆらめいている人々。
互いに見つめ合い、ただそこに在る。
男は只、それを書き綴る。
夢か現か、その書き手が命の火を消す瞬間に、奈落の底を覗いてしまう。
自らの記した物語を追体験し、「私」は「私」の断片に刺されていく。
レエンコオトの男たちが誘い、物語の井戸から「私」が見た光景とは。
読『芥川龍之介 地獄変』は、「Match-ing!」を通して上演される(1万人が同時に視聴可能とのこと、これは客席が限られているリアルな劇場にはない利点かもしれない)。
上演は、5月16日(土)・17日(日)・22日(金)・23日(土)24日(日)に実施。なお、千秋楽公演には、福圓・名塚が演じる女役として黒沢ともよが参加することも発表された。
また、17日(日)・24日(日)にはアフタートークも配信予定。スケジュールは、以下のとおり。
◆読『芥川龍之介地獄変』
5月16日(土)23:00開演(22:30開場)800円(税込)/名塚
5月17日(日)23:00開演(22:30開場)800円(消費税込)/福圓
【アフタートーク】5月17日(日)24:00開演 500円(消費税込)
5月22日(金)23:00開演(22:30開場)800円(税込)/福圓
5月23日(土)22:00開演(21:30開場)800円(税込)/名塚
5月23日(土)24:00開演(23:30開場)800円(税込)/福圓
5月24日(日)21:00開演(20:30開場)800円(税込)/黒沢
【アフタートーク】5月24日(日)22:00開演 500円(税込)
<利用方法>
・「Match-ing!」内ページにアクセス(https://match-ing.jp/jigokuhen/)
・希望日時を選択し「イベントに参加する」をクリックして購入手続き(切符:800円/クレジット決済のみ)
・Zoomより届くメールの下部に記載されたリンク先から本登録
・本登録完了後に届く、会場への入場アドレスが記載された招待メールを確認
・当日記載された時間に会場入場アドレスをクリック
(取材・文・画像作成/エンタステージ編集部 1号)