霧矢大夢と保坂知寿の二人芝居『メアリー・ステュアート』が、2020年2月9日(日)まで東京・赤坂RED/THEATERにて上演されている。
本作は、ドイツの劇作家フリードリヒ・シラーによる同名の群像劇を、イタリアの作家ダーチャ・マライーニが二人芝居として翻案したもの。男性遍歴により波乱の人生を送ったスコットランド女王メアリー・ステュアートを霧矢、生涯未婚を貫いたイングランド女王エリザベス1世を保坂が務めるほか、霧矢はエリザベス女王の侍女、保坂はメアリーの乳母をそれぞれ1人2役で演じる。
日本でもこれまで麻実れい×白石加代子、南果歩×原田美枝子、中谷美紀×神野三鈴などの組み合わせで上演が重ねられている。演出は大河内直子。(翻案元となったシラーの『メアリー・ステュアート』は現在、森新太郎演出にて東京・世田谷パブリックシアターで上演中)
舞台裏のような美術。右にはメアリー、左にはエリザベスが、互いに背を向けて座る。それぞれ化粧台とたくさんの小道具があり、楽屋で出演準備をする二人の女優のようだ。出会ったことのない二人がそれぞれの場所でおのおののシーンを演じるときに、舞台中央の円のなかに出てくる。そこに置かれた大きな鏡が、二人の姿をさまざまな角度から幾重にも見せる。
一方は、幽閉されているメアリー(霧矢)と乳母のケネディ(保坂)。軟禁状態ながらも女王としての威厳を持ったメアリーと、彼女を赤ん坊の頃から育ててきた母親がわりともいえる乳母。
もう一方は、宮殿にいるエリザベス女王(保坂/二役)と侍女のナニー(霧矢/二役)。孤独を抱え、結婚を拒否し、残酷なことを好まないエリザベスと、女王相手にはっきりと意見する勝気な侍女。
二人の女王は離れた場所にいるが、それぞれの傍にいる次女を演じているので、とても近しい存在に感じられる。侍女の姿を借りてお互いを見つめているような錯覚にもなる。
二人の女王の対比が鮮やかだ。背後に、赤と青い旗のはためくメアリーと、赤い旗が印象的なエリザベス。生き方も真逆だ。メアリーは数々の男性遍歴によって人生を左右され、王子を産み、ついには幽閉される。エリザベスは男女問題を政治に持ち込むのを恐れ、生涯独身をつらぬき、女王として君臨し続ける。
対照的だけれど、二人とも無垢で染まらない白のドレスに身を包んでいる。どちらも違う意味で、同じように性と愛にとらわれた女性達だ。二人それぞれの吐露から、女性の尊厳、女性として生きることの苦難が見えてくる。
女王だからこそ言えない本音、持てない感情。口にしている言葉が本心なのかわからないからこそ、彼女達の抱えている複雑さと繊細さが際立つ。女、年齢、慣習、立場・・・それらにがんじがらめになりながらも真剣に生きたメアリーとエリザベス。そして史実では出会うことのなかった二人が夢の中で邂逅することで、ただの女として、立場のある女王として、ひとりの人間として、彼女達の人生が生々しく浮かび上がってくる。
『メアリー・ステュアート』は1月31日(金)から2月9日(日)まで東京・赤坂RED/THEATERにて上演。上演時間は約2時間30分(20分休憩あり)を予定している。
【公式サイト】http://ae-on.co.jp/unrato/
(撮影/交泰、取材・文/河野桃子)