少年社中・東映プロデュース『モマの火星探検記』が、2020年1月7日(火)に東京・サンシャイン劇場にて開幕した。本作は、宇宙飛行士・毛利衛の同名児童文学を原作に、少年社中主宰の毛利亘宏が生み出したSFファンタジー作品で、今回が再々演。2017年の再演に続き、矢崎広と生駒里奈がW主演を務める。初日前には公開ゲネプロと囲み会見が行われ、矢崎と生駒、原作の毛利衛、脚色・演出の毛利亘宏の4名が登壇した。
本作では、人類史上初の火星到達に成功した“モマ”(矢崎)と、仲間とロケットを作りながら宇宙を夢見る少女“ユーリ”(生駒)の二つの物語が交錯する。“モマ”の話は宇宙へ二度行った毛利衛ならではの生命観、地球観、宇宙観を描いた原作が、“ユーリ”の話は少年社中が過去に上演した『ハイレゾ』がベース。絡み合う二つの物語を通して、毛利亘宏が「これからの時代にどんな夢が必要なのか?」「人はなぜ宇宙に憧れるのか?」「人はどうして生まれ、何のために生きていくのか?」そんな普遍の命題を解き明かしていく。
公開ゲネプロで、約2年半ぶりに本作を観た原作者の毛利衛は、「私が原作に込めた思いやメッセージが、期待以上に伝わってきて感激していますし、改めて舞台にしてくれてありがとうという気持ちです。そして、モマとユーリを演じてくださるお二人は本当にすごいなと思いました。感謝です」と感無量の様子。
矢崎と生駒は再演からの続投ということで、作品と向き合う中で改めて感じることがあったようだ。矢崎は「再演のお話をいただいてから、ついにここまで来たんだなという心境です。この作品は、チームで一つになって向かっていかないと届けきれないぐらいのメッセージが詰まった壮大な物語です。劇場に入って、座組がパワーアップしているのを感じるので、最後まで全員でもがいていきたいと思っています」と語った。
生駒は、ゲネプロの中で今回の顔合わせ時のことを思い出していたという。「この作品を知っているからこそ、稽古がすごく難しかったんですが、一方ですごく楽しくもありました。前回ユーリを演じた時は、まだ(舞台や演技のことについて)あまり知ることができていなかったので、経験を積んだ上でやる難しさや先輩方のすごさを実感しながら・・・。でも、ユーリとしてまたロケットを飛ばすことができたので。お客様にも、それを毎日しっかりと見せたいなと思っています」と、今の心境をしっかりと言葉にした。
毛利亘宏も、2年半ぶりの再演ということから「それぞれに、いろんな変化があったんだなと思いました。切磋琢磨してきた仲間が再び集まったことで、新しい『モマの火星探検記』を作り上げることができたという自負があります。観たことがある方も、まったく違う印象を受けるんじゃないかと。期待していただけたらと思います」と自信を見せる。
矢崎も、確かな手応えを感じた様子で「演劇で宇宙を目指す、ということをやってきました。ゲネプロを終えた今、僕たちの“宇宙”がまた一つドンッと広がったなという感覚があるので、僕自身も初日を迎えるのが楽しみです。お客様のパワーが加わったらどうなるんだろうとワクワクしています」と目を輝かせた。
そして、あるシーンにも言及。モマは、劇中で“あること”に玉砕し、壊れたようになってしまうのだが「あのシーンは、初演でも『大丈夫かな?』と思っていたのですが、お客様にたくさん笑っていただけたので自信になったんです。今日のゲネプロでも、結構笑い声が聞こえてきたので、安心して本番に迎えます(笑)」と、こちらにもしっかり自信を得たようだ。
生駒は、前回同役を演じた時はまだ21歳だった。現在は24歳。「そんなに差はないかなと思っていたんですけど、あの頃の私は赤ちゃんだったなと・・・今もそうかもしれないんですけど(笑)」と笑いながら、「再演を経験するのは初めてで、前回すでに最高のものを作ったという思いがある分、その先を目指すことがとても難しかったです。でも、それを把握できている分、少しは成長できているのかなと思いました」と、自身を振り返った。
生駒の成長は、一緒にやってきた矢崎も強く感じているようで「前回も素晴らしかったんですが、ここまでの間にいろんな経験をされてきたんだなと、稽古場でもものすごく感じました。今回のユーリは、ユーリというキャラクターと生駒さん自身が合体してすごいものになっています。それがお客さんにどう伝わるのか、楽しみですね」とコメント。
原作者の毛利衛は「宇宙から実際に地球を見て、40億年に渡る生命のつながりを感じたんですね。そのテーマが、明日がどうなるかという状況の2020年の今見ることですごく響いてきました。私は科学者なので(本の中では)事実に基づく説明しかできなかったんですが、舞台として観ていただけることで、よりたくさんの人と伝えたかった本当の意味を分かち合うことができると思っています。世界中の人に観てもらいたいくらいですね」と夢を広げた。
その言葉を受け、少年者中の毛利亘宏も「気恥ずかしい言い方になりますが、愛がいっぱい詰まった作品になったなと思います。宇宙を描いた壮大な物語ですが、すごく身近な人を大切にしたくなるようなメッセージが、今回の再演では特に強く伝わるんじゃないかなと。マクロからミクロのつながりを感じていただけるのではないかなと思います」と、開幕に向けて改めて作品をアピールした。
(以下、物語のあらすじに触れています)
父との約束を果たすために人類初の火星探検に挑む、宇宙飛行士のモマ(矢崎)。ホルスト(鎌苅健太)、ミヨー(松村龍之介)、ヴェラ(内山智恵)、バルトーク(堀池直毅)、ガーシュウィン(山崎大輝)、船長のタケミツ(小須田康人)、そしてマイクロスコープ(田邉幸太郎)とテレスコープ(鈴木勝吾)という二体のアンドロイドと共に、火星に向かって旅をする中、モマは「人間がどこからきたのか、何のために生きているのか」と考え続けていた。
ところ変わって、北の国に住む少女ユーリは、チキン(諸星翔希)、オカルト(加藤良子)、ハカセ(赤澤燈)、ホイップ(竹内尚文)という仲間と小型ロケット作りにいそしんでいた。何度も失敗するユーリの前に、ある日“おじさん”(井俣太良)が現れた。おじさんはユーリに問いかける。「宇宙の境界線はどこにあると思う?」
おじさんと対話しながら、ユーリは再び仲間たちと小型ロケットの完成を目指していく・・・。
劇団メンバー、前回からの続投キャスト、少年社中初参加の新キャストがぎゅっと集まり、より大きな世界観を劇場いっぱいに広げる。W主演の二人が続投だからこそ、その変化と成長が色濃く見えた。矢崎はより自由に、自分らしさを“モマ”という青年に投影していた。
また、宇宙飛行士たちを含む大人チームは、新キャストによる変化からか、ぐっと大人の重みの効いたチームワークとなっていた。役者は、年齢と経験を重ねていく生き物だ。重ねたからこそ、できる表現があるのだと思わせてくれる。
そして、アンドロイド二人による「スコープス」のショートコントも絶好調。前回も、新型アンドロイドを演じる鈴木の“機械的な”演技に終始目をみはったが、今回同じ“機械的な”演技でも全然違うものとなっていた(今回を初めて観る方にはもちろん、2017年版をご覧になっている方にはさらなる驚きをもたらすのではないだろうか)。生身の人間の動きから科学の進歩を感じる日が来るとは思わなかった。
そして大人チームの重みが、子どもチームの無限の可能性を引き立たせる。子どもたちには、それぞれに大好きなものがある。時に挫けそうになったり、臆病風に吹かれたりしながらも、憧れに突き動かされていく子どもたちの姿には勇気がもらえる。
顕著だったのが、生駒の進化。以前、生駒は前回この作品に出たことで「一歩踏み出す勇気がもらえた」と言っていた。“夢”というのは、本作の中でも大きなキーワードだ。そして“憧れ”という名の力は、その夢に向かう原動力。そして夢は、挑戦してはじめて叶うもの。作品と得た役に背中を押され、踏み出した生駒の姿は、存在感を増して輝き、すべてのことが“全部つながっている”ということから、“だから、生きるんだ”という本作のメッセージを体現しているように思えた。
そして、取材日は奇しくも彼女の大切な古巣、乃木坂46より絶対的エース・白石麻衣が卒業を発表した日。新たな夢に踏み出す盟友に向けて、生駒は「まいやんはこれからもずっと、輝き続けると思います!いつか共演?あると思います!」とメッセージを送っていた。
劇場の入っている建物から一歩踏み出すと、ツンとした冷たい冬の空気が頬をさす。これまでの二度、『モマの火星探検記』が上演されたのは暑い夏の時期だった。きっとこの環境の違いは、きっと観る人の心に何かしらの影響を与えるだろう。前回を観ている方にとっては、自分の中に生まれるその感情の違いも、きっと味わい深いものになる。その時、そこでしか生まれない演劇の醍醐味を、存分に感じられる再々演だ。
『モマの火星探検記』は、以下の日程で上演。上演時間は、約2時間10分(休憩なし)を予定。
なお、本作のDVD(7,800円+税)&Blu-ray(8,800円+税)が8月5日(水)に発売予定。公演会場または東映ビデオオンラインショップで予約した方には、限定特典としてスペシャルDVDが1枚つくとのこと。
【東京公演】2020年1月7日(火)~1月20日(月) サンシャイン劇場
【愛知公演】2020年2月1日(土)・2月2日(日) 岡崎市民会館あおいホール
【大阪公演】2020年2月7日(金)~2月11日(火・祝) サンケイホールブリーゼ
【福岡公演】2020年2月15日(土)・2月16日(日) 福岡市民会館
【公演特設サイト】http://www.shachu.com/moma2020/
【少年社中公式サイト】http://www.shachu.com/
(取材・文・撮影/エンタステージ編集部 1号)