観月ありさ主演の舞台『悪魔と天使』が、2019年1月19日(土)より、神奈川・KAAT神奈川芸術劇場 ホールにて開幕した。本作は、手塚治虫の生誕90周年を記念する作品。手塚の漫画「ダスト8」を原作とし、平成から年号が変わる時を舞台に、大事故から生還した乗客とある命題を担う事となった男女を巡る物語を描く。監修・脚本は佐藤幹夫、脚本・演出はモトイキシゲキが手がけた。
初日前日には公開ゲネプロと囲み会見が行われ、観月のほか、白石隼也、野村宏伸、黒川智花、鍵本輝(Lead)、中島早貴、黒田こらん、ぼんちおさむ、佐藤B作、高島礼子が登壇した。
【あらすじ】
大事故に巻き込まれた豪華列車。多くの死者が出る中、奇跡的に8人が生き残った。それは“生命(いのち)の山”という不思議な山にぶつかったはずみで山のかけら=生命の石が乗客達にふりかかったから。――死ぬ運命だったものが生き残ってしまったのだ。
8人と共に生き残った海江田沙月と岬慎吾は“天の声”により、8人から「生命の石」を取り返すことが出来たなら、二人の命は助けると約束され、8人の行方を追うこととなる。自分が生きるために誰かの生命を取らなければならない。それでも生き残りたいと強い意志を示す沙月と、どんな理由であれ殺人はいけないという慎吾。そして二人は動き始める・・・。
観月は本作の魅力について「生きるとか死ぬとか、人生を自分たちがどう生きていくのかをテーマにきちんと描かれている舞台なので、観てくださる方は楽しんでいただけるのではと思います」と語った。岬慎吾役の白石は、本作から「生きているということが素晴らしいことなんだ、と感じた」と言い、「日々生きるという意味を皆さんに届けていきたいです」とやや緊張した面持ち。
柏木守役の野村は「ドキドキしています。でも、皆さんプロですから集中していい方に向かっていくと思います」と自信を見せる。九條小百合役の高島は「若い人でも、明日は亡くなってしまうこともあるかもしれません。でも、手塚作品ですから。そういうことを説教くさい感じではなく、どこかミステリー要素を織り交ぜ、悪魔も悪戦苦闘して悩むんだなあと感じていただき、観てくださる方が心に何か一つ持って帰っていただける作品になれば」とコメント。
渋井新役の佐藤は「自分が生きたいと思う生き方と、なかなかそう思ってもうまくいかないのが人生だと思う。そのとき何を幸せに思うか、という事の答えがこの芝居にはある気がします」と人生を振り返るように言葉を紡いだ。
小島忠役の鍵本は「偉大な大先輩に囲まれながら毎日芝居させていただき、本当に勉強の連続だなと思います。千秋楽まで皆さんに怒られないよう、がんばりたいなと思います」と謙虚な姿勢を見せた。吉沢エリ子役の黒川は「この作品には生と死という重いテーマがあるんですが、命の大切さや自分の大切な家族への感謝の気持ちを改めて感じられる作品だと思います」と述べていた。
大前田十蔵役のぼんちは「(芝居中に)観月さんにぱっとにらまれると怖いんです。その迫力をぜひ舞台で観てほしい」と見どころを語り、「僕にとっての悪魔は、漫才でウケないお客さん。天使は笑ってくれるお客さんです!」と笑いを取っていった。有坂瞳役の中島は「劇場も大きいですし、先輩方の存在感もすごいので、埋もれないよう、この派手な衣装を味方につけて挑みたいと思います」と笑顔。
そして小坂徳子役と、“天の声”を担当する黒田は「一人ひとりの思いがこもっている舞台です。千秋楽まではスタッフ、キャストと共に最後までケガなく務めたい」と続けた。なお黒田が演じる“天の声”は、1月12日に逝去された市原悦子さんが当初務める予定だった役。
市原さんへの想いを聞かれると、観月は「市原さんの“天の声”を聴くのが楽しみだったので本当に残念です。市原さんは『悪魔と天使』の脚本を読んで『是非とも“天の声”をやりたい』とおっしゃっていたそうです。その願いはかないませんでしたが、生と死をテーマにしたこの舞台で、市原さんが天から見守ってくれているんだと思いながら、最後までがんばりたいです」と市原に届けるように、空を見つめながら想いを口にした。黒田も「16日、市原さんに別れの挨拶をしたんです。安らかに眠っていらっしゃいましたが、まるで今にも台詞を喋り出しそうな雰囲気でした」と振り返っていた。
物語は、豪華列車・トワイライトエキスプレス号がまもなく発車の時を迎えるところから始まる。楽しい旅行の始まりを笑顔で待ちわびている乗客が次々と乗車するが、走り出してしばらくすると大事故が起き、列車はめちゃくちゃに・・・。骨組みだけとなった車両の中で沙月(観月)と慎吾(白石)が目を覚ます。目の前には無数の死神たちが跋扈し、そのボスの声が辺り一面に響く。
沙月役の観月は悪魔に魂を売ってもいいと言わんばかりの強い意志をみなぎらせ、ボスからの命題を受け入れる。その意志の理由が非常に気になるところだ。死の使いのような観月は悪魔のような真っ黒の服装、一方ためらいが残る白石は白のパーカー姿。この二人の衣裳の色が、2幕に入ると逆転する。何故そういう演出となっているのか・・・その意図は、物語をご覧いただくと分かることだろう。
生き残った8人の前に沙月が現れ「生命の石」を取り返したい、つまり近いうちの“死”を宣告すると、それぞれが心に秘めていた「生きる目的」を露わにする。ある者は助かった命を世のために活かしたいからもう少し時間が欲しいと言い、ある者は死にたくないあまり、自分を信じて疑わない友人に身代わりを願う、病に苦しむ親の世話ができなくなるから死ぬわけにいかない・・・と、様々な人間模様が描かれる。
沙月はそんな人々に触れることで、いつしか彼らの願いを聞き入れ、「生命の石」を取り返すのを待つようになる。沙月が胸に秘めている「生きる目的」と何かが共鳴しているのかもしれない。原作の手塚治虫が、改めて観月たちの身体を通して、人間の生き様、そして生きることのすばらしさを我々に語りかけているようだった。
なお、鍵本は向山毅(SOLIDEMO)とWキャストとなるほか、DISH//の矢部昌暉とSOLIDEMO木全寛幸(Wキャスト)、白木美貴子、咲良、脇坂春菜、成沢愛希、萩原悠、優志、石黒洋平、佐渡稔、梅垣義明、久保酎吉、まいど豊、石井智也、松澤一之が出演。
手塚治虫 生誕90周年記念 原作:手塚治虫「ダスト8」より 舞台『悪魔と天使』は1月19日(土)から2月3日(日)まで神奈川・KAAT神奈川芸術劇場 ホールにて上演。その後、大阪、名古屋を巡演する。日程の詳細は、以下のとおり。上演時間は約3時間10分(休憩20分含む)を予定。
【神奈川公演】1月19日(土)~2月3日(日) KAAT神奈川芸術劇場 ホール
【大阪公演】2月9日(土)~2月10日(日) 梅田芸術劇場 メインホール
【名古屋公演】3月1日(金)~3月3日(日) 御園座
【公式HP】https://www.akumatotenshi.com/
【公式Twitter】@AkumaTenshiJP
※手塚治虫の「塚」は、旧字体が正式表記
(C)TEZUKA PRODUCTIONS/(C)舞台「悪魔と天使」製作実行委員会
(取材・文・撮影/こむらさき)