井上芳雄、生田絵梨花らで日本初お披露目!『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』開幕レポート

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2019年1月5日(土)に東京・東京芸術劇場 プレイハウスにてミュージカル『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』(以下、『グレート・コメット』)が開幕した。前日には囲み会見と公開ゲネプロが行われ、井上芳雄、生田絵梨花(乃木坂46)、霧矢大夢、小西遼生、武田真治が登壇し、意気込みを語った。

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会見で井上は、猫背気味でぼそぼそと話す。作品について話し始めても、しばらく報道陣と目線を合わせず「劇場は見たことのない作りになっていますし、日本のお客さんに初めて観ていただくのでドキドキしますが、おもしろく出来上がっていると思います。早くお見せしたい。幸せな稽古の道のりでした」とコメント。それもそうと、今回井上が演じるのは、冴えない男ピエール。生田は「芳雄さんは稽古場でも自前の眼鏡、髪はボサボサで。THE オフという感じで、普段から役に寄せていました」と明かした。

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井上が語ったように、このミュージカルは特殊な客席が設けられている。舞台上には“コメットシート”という埋め込み型の客席が5ヶ所作られており、前後左右を動き回る俳優を見ながら、ドリンクも飲める。これは、本作が2012年にオフブロードウェイで誕生した際、食事をしながら楽しめるショー形式だったこと、2016年にブロードウェイに進出した時も、劇場全体をレストランのように見立て着席した観客の間を俳優たちが行き来する形をできる限り踏襲している。華やかで試みに満ちた作品は絶賛され、2017年のトニー賞で最多12部門ノミネートされた。

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日本では今回が初上演。霧矢は、ブロードウェイの舞台を観ており「大きな感動を覚えたんですが、日本版は日本版ですごく誇らしい仕上がりになっています」と自信ありげだ。俳優たちは、“コメットシート”だけでなく、通常の客席通路やサイド席にも登場する。劇場全体がステージとなり、2階席でも立見席でも、その席にしかない楽しみ方ができる。運が良ければ、思わぬお土産をもらえることも?!

原作は、世界10大小説として名高いトルストイの「戦争と平和」。金持ちで意志の弱いピエール伯爵を主人公に、ナポレオン戦争(1803年~1815年)のロシアにおける約10年を描いた全4巻の超大作だ。『グレート・コメット』では、そのうち2巻5部にフォーカスを当てている。全体の流れは、あらかじめ人物関係を頭に入れていくとより楽しめるだろう。劇場でも相関図が配布されている。見どころがあまりにも目移りしてしまうので、簡単なストーリーも知っておいた方がより作品を堪能できるとおすすめしたい!

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会見で、井上は「ピエールは原作だと太っているんですね。だから、カッコいいところが出ないように気をつけています・・・どうしても冴えてしまうので(笑)」と笑わせつつ、「・・・と言いながらも、結構しっくりきているんです。冴える部分は小西(遼生)くんに任せて、自分の役をまっとうしたいですね」と役作りについて語った。“冴える”部分を任された小西は「冴えてる井上さんのファンをかっさらおうかな(笑)」とニヤリ。すると、井上は「そう上手くいくかなぁ?冴えない男子ファンも多いかもしれないよ(笑)」と応戦。

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また、武田は話題となっている“筋肉”について、舞台上で披露されるのかと訪ねられ、“聞かれると思った”という顔で苦笑い。横から井上が「あります!ないわけがない!触れあうシーンでは(腕の筋肉が)すごいんです。(武田さんの)テンション上がったら脱ぐかもしれませんね」と調子良くしゃべると、武田が「・・・座長!」と一喝。「すみません、これに関しては、ないです!」と断言すると、即座に井上も「ないです!」と手の平を返し笑わせた。恐縮しながらも、武田は「最近、筋肉を取り上げてもらうことが多くて本業を見失いそうに・・・(笑)。この作品でしっかりと爪痕を残し、シフトを正しく戻したいです」と意気込んだ。

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生田は10代の無垢な少女ナターシャを演じる。彼女について、井上は「眩しいですね。今の年齢のいくちゃんだからこそ出せるナターシャの輝き。それぞれの年齢の輝きがあるけれど、今しかないこの輝きは、やっぱりまばゆい」と目を細める。

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ピエールの妻・エレン役の霧矢は、今年の4月で芸能生活25周年を迎える。「上半期はわりと悪女続きなんです。これまでは良い人の役が多かったので、今年は“悪女”で行くぞ!」と力強い。今回はお金目当てで結婚した悪妻という役どころだが「やっぱり悪い役って演じるのがすごく楽しい」そうだ。確かに、黒い衣裳を身にまとい、貫禄の悪女っぷりを見せる霧矢の姿はカッコいい。

会見の最後、井上は「ミュージカルが注目されるようになって、ここ2、3年は追い風です。良い風に乗りつつ、日本の文化としてミュージカルが定着していくといいなと思います。2.5次元に負けないように、共存して、がんばっていきたいですね」と締めた。

以下、複雑な人間関係を少し補足しながらゲネプロの様子をレポートする。会場でも人物相関図が配られているので、ぜひ開演前にお目通しを。

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上演時間が近づくにつれ、鮮やかな衣装のキャストたちが客席の通路を軽快に行き交う。頭上には、煌めく星屑のような金色の飾りと、大きく、不吉だが美しい球体。その下で人々は、ロシア民謡を歌い、音楽が劇場を包み込んで・・・いざ、開幕だ。

物語の舞台は、タイトルにもあるように1812年のロシア。ヨーロッパ全域をゆるがすナポレオン戦争真っ只中で、ロシアは強靭な軍隊を各国に派兵していた。そんな中、ピエール(井上)は莫大な財産を持ちながらもエレン(霧矢)と愛のない結婚をし、自堕落な生活を送っていた。

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ある日、ピエールの親友で士官のアンドレイ(武田)は、父親の命令で、婚約者のナターシャ(生田)を残して一年間の旅に出る。美しい彼女は恋人の帰りを待つが、エレンの実兄でピエールの義兄である快楽主義者のアナトール(小西)が彼女を見初めてしまう・・・。

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生田演じるナターシャは素直で、初々しく、少女から大人になっていく純真さと艶やかさを同居させる。井上が会見で言ったように「今しかない輝き」に溢れている。伸びやかな声もまた、恋を歌うのに心地よい。そこに、実直で眼差し鋭い武田演じるアンドレイと、美しく色気を振りまく小西演じるアナトールという、対になる二人が恋の鮮やかさを体現する。

ピエールは、旧友マーリャD.(原田薫)が名付け親をつとめたナターシャのことを深く案じ、親友アンドレイとの婚約関係を見守っているが、妻エレン(霧矢)は兄であるアナトールの恋を応援しようとする。霧矢が歌う複雑なメロディは、悪女の強さと美しさたっぷりの魅惑的なナンバーだ。

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また、社交界の女王エレンと不倫関係にあるドロホフ(水田航生)の粗野な魅力も、華やかな霧矢の隣で引き立つ。ドロホフはアナトールの友人でもあり、水田と小西が並ぶとまた、対照的な男の色気が堪能できる。

また、ナターシャの従姉妹であり親友のソーニャ(松原凛子)、アンドレイの妹マリア(はいだしょうこ)なども力強い歌を聞かせ、物語の幅をぐっと広げる。

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入り乱れる思惑と恋路。一人客観的に見守るピエールは、時々客席に座って展開を見ていたりと、観客のようでもある。しかしその立場は、登場人物全員と繋がっている当事者。繰り広げられる恋のドラマとは別に発されるピエールの思いは、井上のまっすぐな声に乗って、この世の葛藤を私たちに鋭く投げかける。

音楽は、作曲家が「エレクトロポップ・オペラ」とも言っているように、ロック、エレクトロニックダンスクラブミュージック、民謡など多彩で、複雑な音程の変化がスピーディに繰り広げられる。さらに、登場人物の関係性やバックグラウンド、感情の動きや行動の詳細までも語る歌詞。仲が良くない二人のデュエットでは、関係性そのままに不協和音が響き渡る。また、劇場通路の至るところを俳優が駆け巡る。歌と踊りと客席がすべて一体になり、身を委ねて飲み込まれる心地よさを感じる、豪華な舞台だ。

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タイトルにある「グレート・コメット」とは、大きな彗星のこと。当時1811年には地球に大彗星が近づいており、その彗星に勝利の予兆を感じたナポレオンは、翌年にロシア侵略をしたと言われている。原作の「戦争と平和」の背景にあるナポレオン戦争にとっても、彗星は大きなターニングポイントの象徴だった。

前半にも述べたが、これは「戦争と平和」という物語のうち、1812年にまつわるほんの一部だ。登場人物たちには、その前にも後にも約10年の物語がある。もしこの舞台の登場人物らに惹かれたのなら、原作の世界にも手を伸ばしてみると、この1812年の彗星のような輝きが、より深い色を纏うのではないだろうか。

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ミュージカル『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』は、1月27日(日)まで東京・東京芸術劇場 プレイハウスにて上演。上演は、第一幕70分、休憩20分、第2幕60分の計150分を予定。

【公式HP】https://www.tohostage.com/thegreatcomet/

(取材・文・撮影/河野桃子)

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