ブロードウェイミュージカルの歴史を塗り替えた伝説のロックミュージカル『RENT(レント)』のオリジナル演出版が2年ぶりの来日を果たし、2018年8月1日(水)に東京・東急シアターオーブで幕を開けた。
1996年にブロードウェイで初演され、圧倒的な音楽のパワーと、現代アメリカ社会のリアリティを直視したストーリーが絶賛された『レント』。作詞・作曲・脚本を手掛けたジョナサン・ラーソンは、プッチーニのオペラ『ラ・ボエーム』を下敷きに、AIDS、ドラッグ、同性愛、都市の貧困層排除など90年代のニューヨークが抱えていた問題を扱い、そこに生まれたコミュニティの揺るぎない“きずな”を描き出した。トニー賞やピュリツァー賞など各賞を総なめにした本作は、以来、時代と国境を越えて世界中に熱狂的なファンを生み続けている。
初演から22年経った今、劇中で描かれる当時の“現代アメリカ社会”の一部は、 過去のものとなりつつある。 公衆電話は街角から姿を消し、 かつて“死に至る病”と言われたAIDSは研究開発が進み、適切な服薬・治療次第で通常の生活を送ることが可能になった。だからこそ余計に、初演時のオリジナル演出で観る『レント』は、年月を経ても変わらないもの─大切な誰かを失うことのつらさ、 弱者への差別、人とのつながりがもたらす生き甲斐─を浮き彫りにしてくれる。
そんな中で、今回来日したアメリカカンパニーは、ひりつくような「痛み」や「不寛容」よりも、 劇中の名曲「シーズンズ・オブ・ラブ」に代表される包み込むような「優しさ」や「愛」を、より深く体現しているように感じるのが印象的だ。若くポジティブなエネルギーを醸し出す来日キャスト陣はおそらく、リベラルなオバマ政権下で青春を送った世代。「愛」こそが、度重なる銃撃事件や時代と逆行するような差別問題が続く2018年の“現代アメリカ社会”に対する次世代の若者たちの答えなのではないか、と捉えるのは考えすぎだろうか?
若さゆえか、時折キャラクター造形に物足りなさを感じる部分もあるものの、歌唱力の豊かさはさすが。ローガン・ファリン(ロジャー役)、デヴィンレ・アダムス(コリンズ役)、リンディ・モエ(モーリーン役)、ジャスミン・ローレンス(「シーズンズ・オブ・ラブ」ソリスト)ほか、多様性に満ちたキャスト陣の層の深さを感じさせる。
熱波に包まれた東京で、傑作ミュージカル『レント』が届ける熱いメッセージにぜひ耳を傾けてほしい。
ブロードウェイミュージカル『レント』来日公演2018は、8月12日(日)まで東京・東急シアターオーブにて上演。
【あらすじ】
<1幕>
ニューヨークのイーストヴィレッジに暮らす、シンガーソングライターのロジャーと映像作家のマーク。夢を追い求める人生に現実は厳しく、二人はアパートのロフトの家賃も払えずにいる。ロジャーは、共にHIVポジティヴと知った恋人が自殺して以来ロフトにこもりっきり。一方のマークは、女性弁護士ジョアンとつきあい出した元恋人のパフォーマンスアーティスト、モーリーンに今も振り回されている。
今日はクリスマスイヴ。しかし、ロフトの大家で元ルームメイトのベニーは「家賃が払えないなら立ち退きを」と迫ってくる。ロジャーとマークの親友コリンズは路上で強盗に遭うが、ストリートドラマーでドラァグクイーンのエンジェルに介抱され、共にHIVポジティヴの二人は恋に落ちる。ロジャーはSMクラブのダンサー、ミミに惹かれるが前に進めない。しかし「大切なのは今」というミミの言葉に揺り動かされ、彼女もHIVポジティヴであると知ったロジャーはようやく心を開き、降りしきる雪の中、二人は優しいキスを交わす。
<2幕>
新年を迎え、新しい生活が始まる。ロジャーはミミと、コリンズはエンジェルと暮らし始め、マークは家賃を稼ぐためワイドショーと契約。しかし、ロジャーはドラッグに依存するミミを受け入れられず、AIDSを発病したエンジェルは永遠の別れを迎えた。
季節は巡り、離散する仲間たち。元恋人のベニーと再びつきあい出したミミから逃げるように、ロジャーはサンタフェへ旅立つ。二度目のクリスマスイヴ。マークはついに自分の作品を完成させ、ロジャーは大切な曲を書き上げようとNYへ戻ってきた。そこへ、行方不明になっていたミミが瀕死の状態で運び込まれる。つのる想いを歌にして聴かせるロジャー。命の灯火が消えかけたミミの心に、そのメロディーは届くのか・・・。
(オフィシャル提供:文/武次光世、Gene & Fred、撮影/Tomoko Hidaki)