2018年3月末から4月にかけて東京・シアタートラムにて、中村蒼と美波によるふたり芝居『悪人』が上演される。原作は、芥川賞作家・吉田修一の代表作にして、250万部を記録した超ベストセラー小説。企画・台本・演出は、過去二作『乳房』(伊集院静作)や『檀』(沢木耕太郎作)でふたり芝居を手がけ、高い評価を得た合津直枝が務める。
【あらすじ】
男は、ひとを殺めてしまった。女は、思わず逃げようと言った。
佐賀の紳士服量販店に勤める女・光代は、携帯サイトで知り合った、長崎の港町に住む解体業の男・祐一と恋におちる。ふたりは、つかの間、孤独な魂を寄せ合う。ところが、祐一から殺人を打ち明けられ、ふたりの逃避行が始まる。逃亡の果て、逮捕された祐一は、「逃亡の為に光代を利用しただけ」と語るのだが・・・。
果たして、ふたりの愛は偽りだったのか?祐一は悪人だったのか?
今回の舞台化については「光代をもう少しだけ救ってやりたい」という思いで合津が書き上げた上演台本に、吉田が共感したことから実現したという。2018年は、吉田にとって作家デビュー20周年を迎える節目の年。合津の新たな視点が加わり「悪人」の世界が、ふたり芝居として誕生する。
“哀しき殺人者”祐一役を務めるのは中村蒼、その殺人者を愛してしまった光代役には美波が務める。
以下、原作の吉田、中村、美波、そして、合津のコメントを紹介する。
◆吉田修一(原作)
新しい「悪人」が生まれる
「悪人」は、僕にとって“たいせつ”な作品です。初めての新聞連載でしたが、書き終えた時に、ひと回りもふた回りも世界が大きく見えたことは鮮明に覚えています。作家として世界が広がったと感じた初めての小説でした。
デビューから10年の間に見てきた世界とは、まったく違う光景が広がっていました。映画化(主演:妻夫木聡、深津絵里、2010年)の話をいただいた時は、もう少し「悪人」のそばにいたいと思い、脚本への参加も申し出ています。だから、僕の中で「悪人」は2度完結しているのです。
今年で作家生活20年を迎えますが、このタイミングで舞台化のお話をいただき、正直なところ驚いています。というのも、普段はあまり舞台を見ないのですが、新しい連載(朝日新聞連載中の小説「国宝」)のために努めて劇場に足を運ぶようになった時期でしたから、舞台でも「悪人」を見てみたい、とすぐに思いました。
「悪人」の連載中は、祐一と光代の声がはっきりと聞こえていて、その声をうつし取るように小説を書いていました。舞台の台本を読ませてもらった時にも、祐一と光代の声が、そのまま同じように聞こえてきました。小説と映画と同じ“根っこ”を共有していることが嬉しく、二人の演技も楽しみでなりません。原作にはない言葉が役者から生まれれば、それはそれでいいと思っています。稽古場にもうかがいたい。“根っこ”を同じくした、新しい「悪人」が生まれる瞬間に立ち会えるわけですから。
◆中村蒼(祐一役)
初めてのふたり芝居は未知の世界ですが、今はその不安と期待が入り混じっている感覚です。
小説、映画共に多くの人に愛された作品で今回の舞台もそれに並ぶ、もしくはそれ以上のものになったらいいなと思っています。美波さんと演出の合津さんとコツコツ作り上げていきます。
◆美波(光代役)
私は生きていて、孤独が常に側にいます。それは今まで敵のような存在でした。
逃げようとして、更に深く傷ついた経験もしました。
心の溝が深いほど、愛する喜びも強くなりました。
吉田修一さんの「悪人」を読んだ時、今まで怖くて見れなかった孤独を直視したようでした。
祐一と光代の物語は胸がきつく張り裂けそうになるお話です。自ら進んで覗きたくない心の小箱を開けることになるかもしれません。でもそこには一瞬でもきらめく光があります。
この光を見ることのできる人生は少ないのではないかと思います。
今回、舞台という密な空間の中、皆さんとその希望を見つけ、共有できたら、どんなに素敵なことだろうと思います。
◆合津直枝(台本・演出)
3.11以降、働き方のスタイルを変えた。これまではテレビを中心に活動してきた。「高い視聴率を―」「派手な仕掛けと展開を―」「超人気の出演者を―」と。
しかし、あっけなく濁流に飲まれる家や車の報道を突き付けられ、立ち止まった。「もっともっと」と突っ走ってきたけれど、それでよかったのだろうか・・・。「もっともっと」加えるのでなく、削いで削いでいくことで見えてくる純度の高い創造―ができないだろうか、と昨年から<ふたり芝居>を始めた。
昨年ご一緒した内野聖陽さんは「新しいものを探りあてた」、中井貴一さんは「演劇の新種目だ」と語った。昨年に続く3作目には、吉田修一さんの「悪人」を選んだ。小説は夢中で読み、映画も「見て見て!」と宣伝をかって出たほどだ。しかし、光代のラストにだけ無念が残った。「光代は決してバッドエンディングではないはず」と思ったからだ。「もう少しだけ光代を救ってあげたい」と台本を書き上げ、吉田さんにお目にかかった。果たして、吉田さんは笑顔で受け入れてくださった。
中村蒼くんと最初に会った時、物静かだけれどしっかり目を見て話に耳を傾ける姿が、すでに<祐一>だった。パリで台本を読んだ美波さんからは「『悪人』は愛と孤独の物語ですね」とメールが届いた。
小説―映画―舞台と連なる「悪人」の物語世界に、触れ合う魂の尊さを描ききりたい。
ふたり芝居『悪人』は、2018年3月29日(木)から4月8日(日)まで、東京・シアタートラムにて上演される。チケット一般発売は2018年1月14日(日)より開始。
【公式HP】http://www.tvu.co.jp/product/stage2018/