2017年10月8日(日)に、東京・アトリエファンファーレ高円寺にて舞台『ウエアハウス~Small Room~』が開幕した。本作は、脚本・演出を務める鈴木勝秀が最も影響を受けた、エドワード・オールビーの『動物園物語』をベースに、サブタイトルを変えながら様々なスタイルで上演してきたシリーズである。初日前に行われたゲネプロより、出演する佐野瑞樹、味方良介、猪塚健太が熱のこもった演技をレポートする。
(以下、物語の一部に触れています)
取り壊しが決まった教会の地下にある“憩いの部屋”で、地域サークル「暗唱の会」のメンバーが活動を行っている。活動内容は、各自がそれぞれ好きな詩や小説、戯曲などを暗記してきて、メンバーの前で暗唱するというもの。近くの出版会社で働く男・エノモト(佐野)もそのメンバーの一人だった。
だが、エノモトはこれまで一度も暗唱を披露したことがない。アメリカを代表するビート派詩人、アレン・ギンズバーグの長編詩「吠える」をただひたすら練習しているだけである。一人になると、ぶつぶつと「吠える」をつぶやく。そこへ、若い男・シタラ(味方)が突然現れる。いきなり英語で話しかけてきたシタラに興味を引かれ、二人は話し始める。
質問ばかりするシタラに戸惑いながらも、いつしかシタラのペースに巻き込まれていくエノモト。さらに新たな男、テヅカ(猪塚)が現れる。エノモトとテヅカは顔見知りのようだが、シタラとテヅカのやり取りはなかなか噛み合わず―。
70人入るかどうか、という小劇場で繰り広げられる3人芝居。ステージ上には両手で納まる数の木製の椅子とベンチのみ。その中で佐野と味方、猪塚が物語を進めていく。ステージと客席の距離が非常に近く、3人の息遣い、細かい表情、額ににじむ汗、指先の仕草などすべてを余すところなく堪能できる環境だ。
物語は比較的穏やかに進行する場面や、思わず笑いがこぼれてしまう場面もあるが、何度となく耳に入ってくる爆音サイズの効果音と、それ以上のボリュームで役者の身体から放たれる台詞の音圧が劇場の壁を貫くたびに、この物語が平和裏に終わるはずがない、と予想させた。
本作の見どころの一つが「長台詞」。「暗唱の会」という設定だけあって、3人がそれぞれに繰り出す暗誦は物語の一節だったり、円周率だったり。しかもただつぶやくのではなく、時には感情を込め、全身で表現しながらまるで歌い上げるように披露することもあった。
自分が話したいことを話すために、相手の言葉を使って話すシタラ。それを悪気なくやっているからこそ、相手の胸の中に何とも言えない「違和感」が徐々に積み上がっていく。シタラ役を演じる味方は、笑顔と言葉から漏れ出す薄気味の悪さを見事に表現していた。
一方、テヅカは緊張感が高まる本作の中で、笑いを誘うキャラクターでもある。とにかく目上に扱ってほしいテヅカが、自分にひたすら反論してくる相手に対してどのような態度を見せるのか。全身を使い振り切った演技を見せる猪塚の姿に何度も笑い声が起きていた。
そしてエノモトは、他人とは極力波風を立てず「皆、仲良くやりましょう!」という、どこにでもいそうな普通の男だ。ただ、シタラとのやり取りで、これまで味わったことのない「何か」が心の中に増殖していくのを感じている。エノモト役を演じる佐野は、個性的なキャラクターを演じる味方、猪塚とのギャップを生み出す存在として、また観客が一番共感しやすい存在として「普通の男」を手堅く演じていた。
この物語を最後まで観ると、人と人とのコミュニケーションは、何をどうすることが正解なのか?という思いを抱かずにはいられない。エノモトがシタラに向かって放ったある台詞を掘り下げていくと、その答えの糸口が見つかるのかもしれないが・・・。ぜひ劇場でご確認いただきたい。
『ウエアハウス~Small Room~』は、11月7日(火)まで、東京・アトリエファンファーレ高円寺にて上演。
(取材・文・撮影/エンタステージ編集部)