2017年10月から東京・歌舞伎座にて催される「芸術祭十月大歌舞伎」。この昼の演目として、新作歌舞伎『極付印度伝
マハーバーラタ戦記』(きわめつきいんどでん まはーばーらたせんき)が上演される。本作の製作発表会見が8月30日(水)都内にて行われ、歌舞伎俳優の尾上菊之助、父の尾上菊五郎、そして脚本の青木豪と演出の宮城總が松竹(株)の代表取締役副社長・安孫子正と共に登壇した。
原作は、世界三大叙事詩の一つであり、「ラーマーヤナ」と共にインドの二大叙事詩である「マハーバーラタ」。世界で最長の書物でもある。2014年、SPAC‐静岡県舞台芸術センター芸術総監督である宮城が手掛けた『マハーバーラタ~ナラ王の冒険~』を観た菊之助は「感銘を受けました。そして物語や音楽がアジア全体を思わせるような演出に、これは歌舞伎にできるのでは、と思ったんです」。その後、宮城に相談してこの企画が始まったそうだ。
一方、宮城は「何百年もの蓄積がある『歌舞伎』という演劇が今もなお現役で、そして最前線で活躍していることが嬉しいんです。フランスのコメディ・フランセーズも歌舞伎と同じくらいの歴史を持っていますが、台詞の言い方もこの数十年に一新されていて、今それを観に行っても200年から300年前の演劇の形が残っている訳じゃないんです」と語り、「現代演劇はいつか消えてしまうかもしれませんが、僕が歌舞伎を演出することによって、もしかすると100年後、200年後の演劇人が参考にしてくれるかもと思っています」と大きな夢を口にした。
また、菊之助に脚本を依頼された青木は「話をいただいた時、宮城さんがすでに作られている『マハーバーラタ』を歌舞伎にするのではなく、新しい『マハーバーラタ』を作りたい、とおっしゃっていたんです。ところが原文が長いこともあって、そのまま全部訳されたものがなくて。いくつか訳されたものを読んでいくうちに、迦楼奈(かるな)という人物の目線で書いていくと脚本ができるのではと思い書いていきました。でも本当に話が大きくて、想像もできないような出来事が次々と起きる(笑)。普段の僕は市井の人々を描くことが多く、神々と触れ合うところまでたどり着いたことがなかったんです。宮城さんは、絶えず“世界と演劇”という話をされるので、僕もスケールが大きい人になりたいと、格闘しながら作りました」と振り返った。
そんな息子の動きをひそかに気にしていたのは父・菊五郎。「松竹さんと菊之助がなにやらごそごそと話していて、正直俺はいらないんじゃないか?」という菊五郎の言葉に、菊之助は苦笑い。「今回は(父の力を借りずに)自分でやってみたいと思ったんです」と答えつつ、「・・・菊五郎劇団は昔から新しいものに挑戦していくのが伝統。ワクワクしながらやっていきたいですね」と笑顔を見せた。とはいえ、先日行われた宣材写真用の衣装合わせに触れ「(物語が)神様の場面から始まるんだけどね。“戦記”と書いてあるのに“喜劇”って思ったよ。こんなスカートみたいな長い衣装を着るんだよ、神様だからって。でも同じく神様を演じる(市川)左團次さんもこれを着るのかと思うとね(笑)」と言うと会場からも笑い声が。
今年は日印友好交流年。このタイミングで本作が上演されることは嬉しいと菊之助は語る。「『マハーバーラタ』には、二つの王家の対立構造があり、それはあたかも源平合戦のようです。迦楼奈はどちらにも属し、どちらにも属してない人物。その上、太陽神からはこの戦を止めなければならないというミッションを与えられています。『一枝を切らば一指を切るべし』の熊谷直実のようなことかも?」と歌舞伎の演目に絡め、見どころを解説した。
その横から「日印といえば・・・カレーライス(笑)?」と言う菊五郎の言葉に思わず笑う菊之助。息子を笑わせつつも「日本にインドのカレーライスがわーっと広がったように、『マハーバーラタ』と歌舞伎の様式美がうまく合体したものを、皆さんに観ていただきたいですね」と、きっちりと話を締めた菊五郎だった。
「芸術祭十月大歌舞伎」新作歌舞伎『極付印度伝 マハーバーラタ戦記』は、10月1日(日)~10月25日(水)まで東京・歌舞伎座にて上演される。
(取材・文・撮影/エンタステージ編集部)