昨年の日本版初演が好評を博したロマンティック・コメディ・ミュージカル『キム・ジョンウク探し~あなたの初恋探します~』が、演出、キャスト、そしてタイトルを一新し、『Finding Mr.DESTINY』として生まれ変わった。劇場もコンパクトなDDD青山クロスシアターに移り、この作品が生まれたソウル・大学路の小劇場さながらの熱気と臨場感にあふれる初日を2017年8月4日(金)に迎えた。そのオフィシャルレポートが届いたのでご紹介しよう。
仕事を失い、恋人にも振られてしまった青年ムン・ミニョクが一念発起して始めたのは“初恋探し株式会社”。その名の通り初恋の人を探してあげる会社。そんなオフィスにやってきたのは、旅先で出会った初恋の人を忘れられない女性アン・リタ。こうして父親から「結婚」のプレッシャーをかけられながらも運命の出会いを信じる勝気なアラサー女子リタと真面目で一生懸命だけど若干空回り気味なミニョクの初恋探しが始まる。しかし調査は一筋縄にはいかない。それもそのはず、手掛かりはその名前“キム・ジョンウク”だけ。しかもこの“キム・ジョンウク”は、韓国ではありふれた名前の代名詞になるほどよくある名前なのだ。果たしてリタの初恋の人は見つかるのか?
この物語を紡ぐのは3人の俳優。
“初恋を探してあげる男”と“初恋の人”の2役を演じるのは、本作がミュージカル初主演となる高田翔(ジャニーズJr.)。頼りなくて、ときどきイラッとさせられながらもどこか憎めないミニョクを表情豊かに演じたかと思うと、キム・ジョンウクではクールな眼差しと魅惑の低音ボイスでそっとささやきヒロインだけでなく、客席の多くの女性をクラッとさせるという離れ業をやってのけた。すでに定評のあった演技力に加え、キャラクターの細やかな心情を乗せた歌声もショーアップされたダンスもミュージカル俳優としての大きな可能性を感じずにはいられない。韓国では本作主演がミュージカルスターへの登竜門と言われていることを思い出させる高田のミュージカル初主演作、これを見逃す手はない。
アン・リタには実力派の玉置成実。歌やダンス、コメディエンヌぶりはいわずもがな。これまでは、その恵まれた容姿のためか、どこかお高くとまった雰囲気をまとった役を演じることが多かったように思える玉置にとって、頑張り屋さんで甘え下手、恋に不器用な等身大の女性は新境地だろう。初恋から7年、新聞記者として男社会で闘うなかで強くなってしまったリタに共感し、それでも彼女の中にある変わらない純粋さに心打たれ勇気をもらった。公演後に耳にした「気がついたらリタのことを大好きになっていた。リタ、いいよね」というリタと同世代と思われる女性客の言葉がすべてを物語っている。
今では韓国創作ミュージカル界ではおなじみとなっているマルチマンが生まれたのもこの作品。今回のマルチマンには坂元健児。マルチマンは、この物語に登場するそのほかの全役を担う。その数はなんと24役。舞台上にいるか、着替えているか、どちらかの時間しかないではないかと思えるほどの目まぐるしさだが、お父さん、お母さん、カフェ店員、インド人ガイドにタクシー運転手・・・など、一つ一つのキャラクターがしっかりと印象付けられる。とくに坂元ならではのお宝シーンでは、劇場全体が大いに沸き、エンターテイナーぶりを見せつけた。また、マルチマンの物理的奮闘のおもしろさにとどまらず、一人の俳優が姿を変えながらラブストーリーに関わっていくという、演劇としてのおもしろさも同時に体現している点も特筆したい。
演出は初演に引き続き菅野こうめい。再演については「初演の経験をベースにするものの、再演という意識ではなく、また新しく作りあげる感覚」と語っていたことを実感。芝居の間やテンポを突き詰めることでラブ・コメディの楽しさは増し、その上に主人公の成長、そして人生に大切なものは何かを見つけ出す“初恋探し”の本質をより鮮明に伝える。また、広崎うらんによる雄弁でチャーミングな振付・ステージング、音楽監督も務めるかみむら周平率いるバンドの生演奏の臨場感、原田愛によるポップな舞台美術とそれを動かす働き者の小人さんのようなかわいらしい装いのスタッフの活躍など、あらゆる要素がしっくりとかみ合うことで非常に密な劇空間を作り出すことに成功した。
初恋の甘酸っぱさが伝わる切ないバラード、難航する初恋探しのドタバタを表現するショーナンバーなど数々のミュージカルナンバーに彩られた“初恋探しの旅”、この夏の素敵な思い出になること請け合いだ。そんな旅の案内人は・・・もちろんマルチマン!
ミュージカル『Finding Mr.DESTINY』は、8月13日(日)まで東京・DDD AOYAMA CROSS THEATER(DDDクロスシアター)にて、8月17日(木)から8月18日(金)まで大坂・ABCホールにて上演。
(取材・文・写真/オフィシャル提供、編集/エンタステージ編集部)