舞台『チック』が、2017年8月13日(日)に開幕した。ドイツ発のロードムービー風舞台が、ついに日本初上陸。主人公となる14歳の二人の少年役は柄本時生と篠山輝信が扮し、二人を取り巻く約20役は土井ケイト、あめくみちこ、大鷹明良によって演じ分けられる。演出の小山ゆうなが自ら翻訳もし直し、日常を一時忘れられて、笑って泣けるあたたかな物語を練り上げた。
開幕にあたり、翻訳・演出の小山、そして全出演者より初日コメントが届いた。
◆小山ゆうな:翻訳/演出
『チック』の原作者ヘルンドルフは、自身に脳腫瘍が見つかった後に、死を強く意識しながらこの14歳の少年二人の物語を書きました。登場人物たちの背景にはドイツの重い歴史がありながらも、若者たちはそれを悲観せずに、ただ生まれつきそうだった現実として受け入れています。その中で人々が生きている姿を描き、ユーモアいっぱいにきっと誰もが共感できるエピソードを積み重ねていったことが、他にありそうでないこの作品の魅力となったのだと思います。
初日、お客様からたくさん笑いや反応をいただいて、それと呼応するように役者たちもさらに生き生きとしていました。柄本さん、篠山さん、土井さんの若者3人がとてもかわいらしく、また大鷹さんとあめくさん演じる大人たちが彼らの世界を大きく包み込んでいます。毎日稽古で見ていたのに、今日も新たな発見があり、魅力の尽きない作品だと感じています。
◆柄本時生:チック(アンドレイ・チチャチョフ)役
(初日を終え)疲れました。でも僕より疲れているのは、台詞の多い篠山さんだと思います(笑)。「何かが壊れたらいい」ということをずっと考えながらやっていて、良い初日でしたが、でも初日ということで構えてしまった自分もいて悔しい思いもあるので、これからも日々試して、壊していきたいです。この作品の魅力は“14歳”というところで、やっぱり思春期っておもしろいです。ちょうど人の琴線に触れるような年齢ですよね。ドイツが舞台の作品ですが、どの国でも14歳って同じなんだなと思います。
◆篠山輝信:マイク・クリンゲンベルク役
登場人物たちは、マイクくんもチックくんも皆、色々なものを抱えていますが、でもそこには常にユーモアがあって、寓話的で、素敵なお話だと改めて感じました。マイクくんはお客様に語りかけながら舞台を進めていくのですが、初日では笑いが起きたり、真剣に聞いてくださって深い沈黙になったり、問いかけたら「うん」ってうなずいてくれた方もいました。お客様一人一人とキャッチボールをしながら、劇場という同じ空間で時間を過ごして、お芝居を一緒につくっていける楽しい役なので、これからも一期一会のお客様との出会いを楽しみたいです。
◆土井ケイト:イザ役/タチアーナ役/看護士役 ほか
本当におもしろいけど不思議な台本で、演出プランも今までに経験したことのないものだったので、どうなるんだろうと思っていたら、お客様の反応がいいこといいこと!「小山ゆうな、流石!」って思いました。この作品に出てくるキャラクターは皆、孤独や偏見の中で必死に生きていて、チックとマイクを取り巻く一人一人にもストーリーがあるので、感情移入できる人物が観る人によって違うと思います。私は、マイクのお母さんが言う「他人なんてクソくらえ、大事なのは自分が幸せかどうか」という台詞に、いつもハッとさせられますし、励まされます。
◆あめくみちこ:母役/フリーデマンの母役/カバおばさん役 ほか
この独特な戯曲の、独特なユーモアと愛を、お客様が入って緊張感もあるなかでどれだけ伝えられるだろう、伝わったらいいなぁと思っていました。そして初日、お客様が楽しんでくださっているということがだんだんと伝わってきて、背中を押してもらったように感じました。一人の役者が色々な役を演じるのもこの舞台のおもしろいところです。お父さんが子どもとして出てきたり、マイクの母役の私がアイスクリーム屋さんや“カバおばさん”を演じて、でも結局アル中の母に戻ったり。そのバランスが絶妙な作品だと思います。
◆大鷹明良:父役/フリーデマン役/フリッケ役/ライバー役 ほか
皆さんには「芝居を創りに来ませんか?」と言いたいです。(初日を終え)今日改めて実感したのですが、このお芝居は舞台上だけで完結するものではなくて、どういう芝居になるか、最終的な道筋はその日のお客様次第です。チックとマイクは、この社会からはみ出したアウトローで、誰からも理解されないと自分たちでは思っていますが、実はいろんな人から興味を持たれています。僕が演じる6歳から100何歳までの役も、それを伝えるためにあると思っています。心を閉ざしてしまった人の交流を通して、最後、人間のるつぼというか、大きなことを言ってしまうと、世界の縮図、生と死の縮図が舞台の上に立ち上がれば最高だと思っています。
舞台『チック』は8月27日(日)まで東京・シアタートラム、9月5日(火)・6日(水)には兵庫県立芸術文化センターにて上演。
(撮影/細野晋司 世田谷パブリックシアター『チック』)