2017年8月5日(土)より東京・紀伊國屋ホールにて上演される戦国御伽絵巻『ヒデヨシ』。本作は、2016年11月に上演された『ソロリ』~妖刀村正の巻~に続く「戦国御伽絵巻」シリーズの第2弾であり、ヒデヨシ役の町田慎吾にとって紀伊國屋ホール初主演作品となる。7月某日、本番に向け創り込みが進む稽古場を取材した。
描かれるのは、前作より時代が進み、ヒデヨシが天下を目指す頃。亡き友と約束した平和な世を夢見て、「人を殺したくない」との信念をその胸に秘めていたヒデヨシが、何故、戦を避けられぬ道を選んだのか?何故、天下を目指したのか?ある戦をめぐり、好敵手であった明智光秀と対立する先に、どんな物語が待っているのか―。
大岩美智子が演出を手掛ける本シリーズは、「殺陣ではなく、ドラマ・心情心理を大切にした時代劇」をコンセプトに掲げている。今回も、ヒデヨシを中心に、明智光秀、竹中半兵衛、徳川家康といった実在の人物たちが、生き抜く姿を“御伽絵巻”として創り上げる。
この日の稽古場には、ヒデヨシ役の町田のほか、明智光秀役の平野良、竹中半兵衛役の藤原祐規、そして、オリジナルキャラクターで剣の達人・シャチ役の佐藤永典らの姿があった。まず始まったのは、殺陣の返し稽古。平野に始まり、佐藤、町田と藤原・・・と、場面を変え空間把握をしながら、動きの確認をしていく。特に佐藤は、シャチの“圧倒的かつ得体の知れない強さ”を表現すべく、何度も同じシーンを繰り返す。
「どうしても、夢中になってしまう・・・」と悩む佐藤に、稽古を見ていた平野が「ギューン、って(動きに)緩急をつけてみたら?」と身体の使い方を実演して見せる場面も。そのアドバイスを取り入れた動きを身体に染み込ませるため、佐藤は「・・・まだまだ練習します!」と休憩に入ってもなお、稽古場の隅で一人木刀を振るい続けていた。
また、藤原が演じる竹中半兵衛は軍師としての才が取りざたされることが多いが、「剣術も強かった」と言われている説を強く出したい、と大岩。「いなす感じが美しいといいね」と人物の“強さ”の形についても、話し合いを重ねられる。太刀筋それぞれに、感情を入れ込んでいく作業が続く。
殺陣返しを終えると、冒頭からシーンごとに通し「誰が問題を抱えているのか」をあぶり出す稽古が始まる。この“戦国御伽絵巻”では、3匹のサル(大岩主弥、福島悠介、及川崇治)が講談調で物語を導いてくれる。つらつらと物語る中で大岩が追求していたのは「何が大事なのか」ということ。役者と対話しながらほんの少し、意識を変えていくのだが、それだけで観る側の中に物語が入ってくる感覚が格段に変わるのが分かった。
ヒデヨシと共にこの物語を動かしていく明智光秀のシーンになると、稽古場の空気が一変。溢れる戦の才と高い自尊心をちらつかせながら、「明智光秀」という人物像を浮き彫りにしていく平野の絶妙なバランス感覚は見事だ。また意見を取り交わす際には、舞台上で観る以上に役者としての広い視野も感じさせた。
そして、町田演じるヒデヨシ。前作『ソロリ』で町田が作り上げた若き日のヒデヨシは、物語の光になるような存在でとても印象的だった。青年となったヒデヨシは、織田信長のもと、変わらず“大ボラ”を武器に戦のない平和な世を望む。一方で、時代は変わりゆく。好敵手となる光秀との関係、半兵衛という優秀な軍師との関係、そして徳川家康(鍛治本大樹)との関係の中で、ヒデヨシが選び取るものを、町田がどう見せてくれるのか・・・。
稽古の合間には、佐藤が「一緒に(写真に)写ろう」と町田を追いかけ(二人はとても仲良し)、それを平野が笑って見守るといった和やかな光景も。稽古中の意見交換の様子も含め、いい距離感を持った座組みの空気を感じた。彼らが、どんな“戦国絵巻”の物語へと誘ってくれるのか、本番を楽しみに待ちたい。
戦国御伽絵巻『ヒデヨシ』は、8月5日(土)から8月13日(日)まで東京・紀伊國屋ホールにて上演される。
(取材・文・撮影/エンタステージ編集部)