7月15日(土)より全国ツアーをスタートさせた劇団四季の『アンデルセン』。1983年ニッセイ名作劇場として、1987年には『HANS』のタイトルで上演されて以来、長きにわたって多くの世代に愛されるミュージカル作品だ。
舞台はデンマーク。田舎町で靴屋を営むハンス(アンデルセン)は自作の物語を子どもたちに語って聞かせていたのだが、そのことが町の大人たちの不興を買い、弟子のペーターとともにコペンハーゲンへと旅立つ。コペンハーゲンに到着したハンスは偶然出会った王立バレエ団のプリマ・バレリーナ、マダム・ドーロに一目ぼれ。しかし彼女には、振付師であり、バレエ団の芸術監督を務める夫のニールスが寄り添っていた。ドーロのためにバレエシューズを作ったハンスは彼女への思いを募らせ一篇の物語・・・・・・『人魚姫』を書きあげる。ニールスとドーロは『人魚姫』をバレエとして上演するのだがそこでハンスは悲しい現実を目の当たりにして――。
1974年、ロンドンで初演されて以来、さまざまな都市で上演されてきた本作。劇中、アンデルセンが描いたさまざまな童話・・・・・・『おやゆび姫』『はだかの王様』『みにくいアヒルの子』等、さまざまなエッセンスが盛り込まれながら物語が進行していく。
この日、ハンスを演じたのは鈴木涼太。初めて観たミュージカルが『アンデルセン』という鈴木は、ハンスの持つ純粋さとあたたかさ、真っ直ぐな心をあますところなく表現し、観客の心を掴んでいた。
マダム・ドーロ役の小川美緒は、二幕で美しいバレエを披露。また、自身もバレエ団に在籍した経験がある松島勇気は、ニールスが持つ少々の毒気やドーロに対する複雑な感情と愛情、ハンスへの小さなライバル心を見事な間合いでしっかり魅せた。
『アンデルセン』の大きな見どころが二幕のバレエシーンだ。通常、一切言葉を用いず進むクラシックバレエを、ハンスの語りとともに見せる演出は、ミュージカル作品ならではの世界。バレエ経験者と思われる多くのアンサンブルが、ドーロとニールスとともに踊る様子は非常に美しく見応え十分である。余談かもしれないが、クラシックバレエを観て「技術は素晴らしいが、もう少し演技的表現も欲しい」と感じることもままある筆者は、いろいろな意味で目からウロコが落ちる思いであった。
シンプルな構成でありながら、男女の機微や人を想う純粋さと切なさなども描かれ、大人から子どもまでどの世代が観ても胸打たれる本作。フランク・レッサーのシンプルでありながらキャッチーな音楽も耳に残りやすく、劇場を出る際にはつい口ずさんでしまいそうだ。
劇団創立以来、首都圏への文化一極集中を解消しようと積極的に全国ツアーを行ってきた劇団四季。全国公演では俳優たちがみずから装置の建て込みやバラシ(撤収)を手伝い、自分たちで荷物をトラックに乗せて各地を回る。舞台上の華やかな輝きはもちろん、オフステージでの彼らの汗と思いの強さもぜひ劇場で受け取って欲しい。
劇団四季ミュージカル『アンデルセン』は12月21日(木)まで全国各地にて上演中。
(文中のキャストは筆者観劇時のもの)
(取材・文/上村由紀子)
(舞台写真撮影/荒井健)