3月25日(土)より8月13日(日)までKAAT 神奈川芸術劇場で上演される『オペラ座の怪人』。劇団四季が1988年の初演以来、各地でロングランを続け、’04年には映画化もされた大人気ミュージカル作品だ。首都圏での上演は’13年以来4年振りとなる本作。3月10日(金)に横浜市内で行われた公開稽古の模様をレポートしたい。
13時からの稽古を前に、各自準備をするキャスト候補たち。開始時間が近づくと、稽古場内のポイントでそれぞれのマイクチェックが始まる。
この日の公開稽古は、劇団四季・代表取締役社長、吉田智誉樹氏による報道陣への挨拶でスタート。長らく横浜市に本拠地を置く劇団四季が市内の劇場で長期の公演を行う意義や、同じく横浜でのロングラン公演となった『キャッツ』のエピソード等が語られた。
吉田社長の挨拶の後は、本公演の演出スーパーバイザーである北澤裕輔のリードで実際のシーン公開がスタート。まずは本作の冒頭、時間が過去へと巻き戻り、パリ・オペラ座で上演される「ハンニバル」のリハーサルを行う場面だ。
ここでのポイントはファントム、ラウルを除いた主要キャラクターの個性を短い時間で観客へ提示すること。絶対的プリマドンナとしてオペラ座に君臨するカルロッタとその相手役・ピアンジ、強いこだわりを持つ演出家・レイエや劇場の権利を譲渡したルフェーブル、新支配人となるアンドレとフィルマン、バレエ講師のマダム・ジリー、その娘でバレエダンサーのメグ・ジリー、さらに本作のヒロイン・クリスティーヌと、さまざまな人間関係が凝縮された状態で展開していく。
同シーンを通したところで、北澤から支配人3名(ルフェーブル、フィルマン、アンドレ)の細かい演技についてアドバイスが入り、キャスト候補たちはその言葉を踏襲しながら微調整を続ける。ラウル役として長らく『オペラ座の怪人』に関わった北澤ならではの視点が具体的で頼もしい。
続いて、クリスティーヌが新しい歌姫として舞台に立つ「Think of Me」の場面へ。クリスティーヌ役候補の山本沙衣が柔らかさと強さとを併せ持ったソプラノを聞かせ、ラウル役候補の神永東吾が彼女との幼い日のエピソードを思い出す…非常に美しい場面だ。
そして、3番目のシーン公開として、オペラ座の怪人役候補の佐野正幸が、山本とともに二幕の劇中劇「ドン・ファンの勝利」で歌われる「The Point of No Return」を披露。通常、ファントム(=オペラ座の怪人)は仮面をかぶっている上に、この場面では役者に成り替わって舞台に立っているという設定なので、佐野演じるファントムの繊細な表情を間近で見られる貴重な時間となった。
予定の三場面を通したところで、北澤より「ハンニバルからThink~の終わりまで続けてやってみましょうか。演技的なシーンを返してみたいので」との声掛けが。そこで北澤はさらに細かくカルロッタの怒りの方向性やそれに付随する動き、バレエダンサーたちのリアクションなどについても指示を出していく。
これまでも何度か劇団四季の稽古場に取材で入らせてもらってきたが、今回ほどアットホームで和やかな雰囲気の現場は珍しいと感じた。四季のレパートリーの中でも圧倒的な人気作品であるということ、ベテランキャストが多数参加し、良い意味での安定感があること、演出スーパーバイザー・北澤への信頼感などがその理由だろう。
巨匠、アンドリュー・ロイド=ウェバーの紡ぐ複雑でありながら耳に残る美しい音楽と豪華な衣裳、そして複雑に絡み合った人間模様が交差するミュージカル『オペラ座の怪人』。首都圏には4年振りの帰還となる本作が、また新たな“伝説”を創ることは間違いなさそうだ。
なお、公開稽古当日に登場した各キャスト候補者は以下の通り。
オペラ座の怪人:佐野正幸
クリスティーヌ・ダーエ:山本紗衣
ラウル・シャニュイ子爵:神永東吾
カルロッタ・ジュディチェルリ:河村彩
メグ・ジリー:小川美緒
マダム・ジリー:早水小夜子
ムッシュー・アンドレ:増田守人
ムッシュー・フィルマン:平良交一
ウバルド・ピアンジ:永井崇多宏
ブケー:橋元聖地
劇団四季ミュージカル『オペラ座の怪人』は3月25日(土)より8月13日(日)までKAAT 神奈川芸術劇場で上演される。
(取材・文・一部撮影/上村由紀子)