2023年9月12日(火)に東京・よみうり大手町ホールにてミュージカル『アンドレ・デジール 最後の作品』が開幕した。初日当日に公開ゲネプロと取材会が行われ、ウエンツ瑛士、上川一哉、上山竜治、小柳友が登壇した。なお、公開ゲネプロではWキャストとしてウエンツと上山が出演した。
本作は、作・高橋亜子、音楽・清塚信也、演出・鈴木裕美と日本のミュージカル界を代表する3人がタッグを組み、創り出した“共鳴”をテーマとするオリジナルミュージカル。1960年代のパリを舞台に、20世紀初頭に不慮の死を遂げた大画家アンドレ・デジールを信奉していた2人の青年、エミールとジャンの人生の交差と、愛と真実を描く。
エミール役をウエンツと上川、ジャン役を上山と小柳のそれぞれがWキャストで務め、そのほかに熊谷彩春、綾凰華、藤浦功一、柴一平、戸井勝海、水夏希といった実力派が様々な役を演じる。
囲み取材では、演じるエミールについて、ウエンツは「人が大好きで誰か頼りたい、いつもそばにいたい人を求めているような人物です。だけど、なかなかそれを言葉にしたりとか態度で表すことができない、ちょっと卑屈な面も持ち合わせている才能豊かな天才的な画家です。大好きな人に正面切って大好きだと言える人は少ないと思うんです。そこに恥じらいがあったり、向こうはそう思ってなかったらどうしようとか。だから卑屈という言葉も額面通り受け取るということよりかは、本人的にはすごく繊細な面があるという役柄として演じています」と解説。
ウエンツとWキャストでエミールを演じる上川は、ウエンツの言葉を受けて「以下同文です」と笑いを誘い、改めて「でも本当に素直で真っ直ぐでピュアな部分があるからこそ、すごく昔に負った傷に捕らわれた部分があって、自分を押し殺して、その中で出会ったジャンという青年をきっかけにいろんな思いをして、いろんな愛を感じながら彼は進んでいくんです。観る方にどこか共感していただける部分はすごくあると感じているので、その感情を大切にしながら、お客様と一緒にこの作品の旅ができたらと感じています」と役柄への思いを明かした。
ジャンを演じ、Wキャストでウエンツとペアとなる上山は「同じ役でも全然作り方が違っていて、別々の出来になっています。ジャン・コルディエという役自体、自分がこういう友達が欲しいなという存在です。とにかくエミールの才能に惚れて、『お前は絶対、大丈夫だ』と背中を押してくれる存在です」と熱くコメント。
ミュージカル初出演で、上山とWキャストでジャンを演じる小柳は「ジャン・コルディエは（上山と）作り方が違うのが本当に不思議だなと思うんですけど、Wキャストも初めてなので、自分のセリフを人が言っているというのも不思議な感覚です。その中で、すごい人好きで、人を楽しませることが好きで、人の笑顔が好きな人なんだなと思うと、そこはすごく自分に通ずる部分があるなと思うので、やっていてもすごく楽しいですし、これからもっと楽しくなるんだろうなと希望があります」と役柄を自分に照らし合わせて語った。
本作の魅力について、ウエンツは「キャスト全員で常に入れ替わり立ち替わりして、2人だけでいる瞬間も本当に少ないぐらい、本当にこの人数でカンパニーやっていのかと思うぐらい、舞台上がすごく豊かになっているシーンがたくさんあります。テーマとして、僕らそれぞれの“共鳴”という部分はあるんですけど、ステージ上だけで言えば、キャスト全員が共鳴し合って、お互いに何か補完しあって、与え合って、豊かになっているという瞬間はすごく魅力的で、たくさんあります」と本作のテーマに絡めて挙げた。
同じく小柳も「絶対に共鳴しなきゃいけないという部分もあるんですけど、ミュージカルが初めてで何も分からないまま初めて稽古場で歌った時に、ニヤニヤしちゃって歌えなくて（笑）。上川さんとこんなにハモって、こんなに歌うことが楽しいんだということを上川さんに教えていただいて、これが共鳴なのかなと思いました。だから、これを2人で共鳴して、お客さんとも共鳴してということができれば一番いいなと思っています」とテーマに合わせて魅力を語った。
オリジナルミュージカルとしての見どころについて、上川は「清塚さんの音楽にはいろんなナンバーがあります。一幕でお腹いっぱいになるぐらい、すごくいろんなジャンルがあって、でも、ストーリー上の心理がちゃんと乗っかっていて、それが立体的になるのがすごく大きいです。歌っていても楽しいですし、とにかく早く聴いていただきたいナンバーがたくさんあります」とアピール。
上山もミュージカルナンバーの見どころとして、「原作のない国産ミュージカルということで、日本語に合わせて清塚さんが曲を作ってくださっているんです」と挙げながら、「本当に素晴らしくて、僕も大ファンになっちゃったんですけど、何より前提に、素晴らしい本をもとにお芝居を大事にして鈴木さんが演出されていて、ミュージカル超えたお芝居を観ているような感覚になれると思うので、そういったところは見どころだと思います」と作品全体の見どころを訴えた。
囲み取材の最後に、4人からメッセージが送られた。小柳は「小柳友、35歳、ミュージカルデビューです。まさか35歳で新しい世界に行くとは思っていませんでした。ミュージカルという世界が僕に合っているかは初めてなので正直分からないんですけど、これから続けてほしいと言ってくださる意見もあって、できるかなと考えています。でも、共演の皆さん、スタッフさんも含めて、また皆さんにお会いしたいから、僕は続けたいなという風に思える作品になりました」と自信を見せた。
上山は「とにかくこの信頼関係なので、そこで何が起きるのかは初日に幕が開かなきゃ分からないです。瑛士くんは、いつも違うことをしてくるような（笑）、その場で生まれたライブというものをすごく大事にしてお芝居をされる方なので、そこに一緒に乗っかっていって、とにかくお客様もすごいところに連れて行きたいなと思いますので、ぜひ舞台に劇場に足を運んでください」と呼びかけた。
上川は「やっぱりテーマが“共鳴”ということで、お客様との共鳴、相手役との共鳴、カンパニー内の共鳴、たくさんあると思うんですけど、それをちゃんとキャッチしてお客さんに伝えるというのが、僕の今の課題だと思っています」と気を引き締め、相手役の小柳を見つめながら、「ミュージカルデビューした彼が歌い、踊り、一緒に稽古しながら学ばせていただけることがたくさんあったので、僕も楽しかったです。まだまだこれから2人でいろいろと共鳴し合いながら、深めていきたいなと思います」と胸の内を明かした。
ウエンツは「とにかく来てほしいというのが一番です。オリジナルミュージカルとなると、何かまったく分からないというところから、お客様がチケットを買わなきゃいけないという難しい状況ではあると思うんですが、とにかくチケット代の価値があって、僕らは間違いなくそれ以上のものを舞台上で産むと約束できるので、とにかく一度来ていただいて、オリジナルってこういうことがありえるんだとか、清塚さんが作った音楽で、日本語の歌詞だからこそ今まで伝わらなかったことも伝わるかもしれない。そういことも含めて未知なるものにお客様には飛び込んでもらわなきゃいけないので、僕らが地に足をつけて、自信を持って、しっかりやっていきたと思います」と会見を締めた。
物語の舞台は1960年代のパリ。20世紀初頭に不慮の死を遂げた大画家アンドレ・デジールを信奉していたエミールとジャン。2人は運命に導かれるように出会い、一緒に絵を描くようになる。しかし、その絵の素晴らしさゆえに巧妙な贋作ビジネスに巻き込まれ、アンドレ・デジールの『最後の作品』を描くように依頼される。その作品を巡り、別の時代に生きるデジールとエミールの人生が交差した時、思いも寄らない愛と真実が浮かび上がる……。
美術館でたたずむ80代のエミールによる1960年代パリへの追想から始まる本作。純粋に自分の絵を描くことができなくなった若きエミール、陽気で絵画オタクのジャン。2人の心の共鳴がエミールの創作意欲をかき立て、一緒に絵を描きはじめる。
エミールとジャンの心の機微を、緻密に、そして繊細にステージという名のキャンバスへ描く友情物語を軸に、贋作に関わるサスペンスなど起伏のあるストーリーが展開。その物語を、様々なジャンルのミュージカルナンバーと情感あふれる詞が盛り上げ、2人の運命の出会いから時を超えた共鳴の物語が紡がれていく。
加えて、エミールが絵を描く時には、その絵のモチーフがステージ上に具現化されて絵画のバックストーリーが流れ、ステージ中央の額縁のようなスクリーンに絵画が映し出されていく演出は秀逸だ。シンプルなセットでありながら、まるで絵画の世界が飛び出したかのような美しい演出も印象的で、作品に芸術的な彩りを添えている。
公開ゲネプロでエミールを演じたウエンツは、ナイーブで悩みを抱え込みながらも、ジャンと出会うことで心が開放されていく様を熱演。そして、純粋に鮮やかで伸びのある歌声でエミールの心情を歌い上げる。
そして上山は、楽天家で明るい性格のジャンをコミカルさも交えながら軽妙に演じつつ、陽気に華々しく踊り歌いながらも、贋作ビジネスに関わり始めることで変化していく姿を丁寧に演じ、しっとりと歌い上げる。
その2人の演技と心が重なることで生まれる共鳴と、2人を取り巻くカンパニーと奏でる共鳴が劇場に満ちあふれる時、2人を通して言葉の向こうの景色が見えてくる、そんな新たなオリジナルミュージカルとなっている。
ミュージカル『アンドレ・デジール 最後の作品』は、9月12日（火）から9月23日（土）まで東京・よみうり大手町ホール、9月29日（金）から10月1日（日）まで大阪・サンケイホールブリーゼにて上演。
（取材・文・撮影／櫻井宏充）
ミュージカル『アンドレ・デジール 最後の作品』 公演情報
上演スケジュール
【東京公演】2023年9月12日（火）～9月23日（土） よみうり大手町ホール
【大阪公演】2023年9月29日（金）～10月1日（日） サンケイホールブリーゼ
スタッフ・キャスト
【作】高橋亜子
【音楽】清塚信也
【演出】鈴木裕美
【出演】
ウエンツ瑛士／上川一哉（Wキャスト）、上山竜治／小柳友（Wキャスト）、
熊谷彩春、綾凰華、藤浦功一、柴一平、戸井勝海、水夏希
SWING／中野太一・傳法谷みずき
あらすじ
20世紀初頭に不慮の死を遂げた大画家アンドレ・デジール。
共にデジールを信奉していたエミールとジャンは、運命に導かれるように出会い、二人で一緒に絵を描くようになる。二
人の魂は共鳴し合い、一人では到達できない芸術の高みへ登っていくことができた。
だがその絵の素晴らしさゆえに二人は巧妙な贋作ビジネスに巻き込まれる。アンドレ・デジールが不慮の事故死の直前に
描いたであろう「最後の作品」。それは事故で燃えてしまっており、絵画ファンの間で永遠の幻とされていた。その「最後
の作品」を描くように依頼されたのだ。
アンドレ・デジールの「最後の作品」を巡り、別の時代に生きるデジールとエミールの人生が交差した時、思いも寄らな
い愛と真実が浮かび上がる。そしてエミールとジャンの関係は大きく変わっていく――。
公式サイト
【公式サイト】https://www.andredesir.art
【公式X（旧Twitter）】@ADesir2023
