大胆にも自身の名前を冠した劇団、月刊「根本宗子」を10代で立ち上げた根本宗子。テイストはポップながら、現代女性の肉声と言えそうなヒリヒリした言葉と感覚を観客に突きつける彼女の作品が、M&O playsプロデュースに注目の初登場だ。
書き下ろしの「皆、シンデレラがやりたい。」は、とあるアイドルの追っかけで知り合った3人の40代女性を中心とした会話劇。その3人を高田聖子、猫背椿、新谷真弓が演じている。それぞれ劇団☆新感線、大人計画、ナイロン100℃に所属するベテラン個性派女優たちの丁々発止のやり取りに、まず見応えと満足感がある。
3人が熱を上げているのは、まだ売れていないアイドル「一ノ瀬陸」(通称りっくん)。3人は神保(猫背)が営むバーに集い、りっくんバナシに花を咲かせるのだが、その会話の端々から、各人の背景が見えてくる。
例えば、ロリータファッションに身を包み何の心配もなく趣味に没頭できるセレブ・角川(新谷)と、「ユニクロ」「しまむら」が定番で神保の店でも水しか飲まない榎本(高田)の、歴然たる経済格差。というように、それぞれの背景は違っても“りっくん”を共通項にみんな仲良し・・・かと思いきや、裏ではしっかりと女同士のマウンティングが行われているのがリアルだ。40代という設定も、イタいところを突いている。古参ファンであるがゆえ、「りっくんをここまで支えてきたのはうちら」という保護者感覚にどっぷりと浸かっているところなど、“いるいる”で“あるある”。根本の筆致はそんな彼女たちに対し、肩入れするでも突き放すでもなく冷静だ。
物語は、中盤から急速に動き始める。りっくんの“カノバレ(彼女の存在がバレること)”が発生し、ツイッターは炎上。その噂の彼女、地下アイドルの三村まりあ(新垣里沙)とそのマネージャー・筒井(小沢道成)が神保のバーにやって来て、3人と全面対決(?)の様相を呈する。さらに神保の義理の娘・赤瀬(根本)も絡み、劇中の台詞「ここにいた人達の間でさ、すげーちっちゃい経済が回ってなかった?」な、誰も予想だにしなかった結末になだれ込む。
根本自身、「後半で急カーブを描いてガクッと方向性が変わるものがやりたかった」と話していたが、まさにその言葉どおりに状況が一変するラストの大仕掛けには、まさに口あんぐりといった状態だった(これから観る方はどうぞ他言無用で)。
ラストシーン、某登場人物の満面の笑顔には「彼を一番好きなのは私だ!」という自信があふれているように見えた。彼女の生き方が、正しいのか正しくないのかはわからない。正しい/正しくないという価値観で測れるのかもわからない。誰かのファンになったことがある人なら、もっと言えば、誰かを好きになったことがある人なら、いろんな刺さり方をする作品であるだろう。
開幕にあたり、高田と根本からコメントが届いている。
◆高田聖子
不思議とあの、青春っぽいんです(笑)。駆け抜ける感じがして、このお芝居自体に青春の熱気みたいなものが帯びているような。それに私自身、青春時代にあんまりキャッキャするようなことはなかったので、若いアイドル(りっくん)を追っかけている榎本さん(役)と一緒に青春を取り戻しているのかもしれません。榎本さんは握手会でりっくんとどんな感じで会話できてんのかなーとか思うとね、ちょっとキュンキュンします(笑)。
稽古でもう何度か観たスタッフによると、1回目と2回目では見え方がだいぶ違うらしいです。なので、よろしかったら何度か観ていただいたらいいかなと。楽しいんですって、なんかいろいろ(笑)。
◆根本宗子
私が一番これ客席で観たいです。聖子さんと猫背さんと新谷さんの3人が揃うことはもうきっとないだろうし。これの第二弾がない限り(笑)。プラス新垣さん、小沢くん、私とキャストが6人しかいないので、始まるとノンストップで、全員で繋いでいく感じが、やっていてすごく楽しいです。
3人の“楽しそうさ”も日に日に増していて、お芝居の中のアイドルが実在するんじゃないかって錯覚するぐらい。これはもちろんフィクションなんですけど、好きな人を追いかけたりファンになったりって気持ちは、どこかみんな経験したことがあると思うんです。世代や性別で見方も全然違うでしょうし、いろんな層の人に観てほしいですね。ネタバレが出ない内の前半がオススメです(笑)。
M&Oplaysプロデュース『皆、シンデレラがやりたい。』は、2月26日(日)まで東京・本多劇場にて上演。
(取材・文/武田吏都)