竹中直人と倉持裕で描く“極限のプレッシャー”が生み出す恐怖『磁場』公演レポート

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2016年12月11日(日)に東京・本多劇場で幕を開けた『磁場』。俳優・竹中直人と劇作家・演出家の倉持裕が組むプロデュース公演「直人と倉持の会」第2弾となる今回は、出演者に竹中のほか、渡部豪太、紅一点の大空祐飛、長谷川朝晴、田口トモロヲら実力派が揃い、“プレッシャー”が生み出す恐怖による心理サスペンスを描く。

直人と倉持の会vol.2『磁場』公開ゲネプロ_2

高級ホテルのスイートルームに、ある一本の映画を作ることになった3人が集まる。プロデューサーの飯室(長谷川)、映画監督の黒須(田口)、そして演劇界の若手脚本家・柳井(渡部)。誰も“高級ホテル”とは縁がないようなメンバーばかりだ。

直人と倉持の会vol.2『磁場』公開ゲネプロ_3

そこに、映画のスポンサーである加賀谷(竹中)が挨拶にやってくる。資産家の加賀谷は、敬愛する芸術家「マコト・ヒライ」に関する映画のためなら労力を惜しまないと言う。加賀谷は、中でも柳井の才能やセンスを絶賛し「どうぞ納得いかれるまで書いてください」と嬉しそうだ。そんな口ぶりのわりには、本心は純粋なマコト・ヒライの自伝作品を求めているようにも見える。

大スポンサーの言外の気持ちを汲み取って、自分の意にそぐわない、しかも、おもしろくないと感じる脚本を書くか・・・、創り手として全力で納得のいくものを書くか・・・。柳井は、目に見えないプレッシャーに苛まれていく。

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とにかく、竹中直人が怖い。竹中演じる加賀谷が登場するたびに、舞台の空気がガラリと変わる。本心の見えない笑顔の絶対権力者を前に、周囲は「あの人の真意はこうではないか」と先回りをして行動をしたり、真っ向から対立したりする。その結果、気に入られる者もあれば、徹底的に罵倒される者もある。「もし一つ機嫌を損ねたら、すべてが終わるかもしれない」・・・客席にいるこちらにまで、その恐怖がじんわりと広がってくる。

直人と倉持の会vol.2『磁場』公開ゲネプロ_5

今作で描かれる“極限のプレッシャー”について、竹中は会見で「かなり怖いですよね。追いつめられ方が、どんどん重なっていくという脚本の構造になっている」と答えていた。そのプレッシャーに攻めたてられる青年を、渡部は厭味なく素直に演じる。上からの要望と自分の信念との間で苦悩するという、誰もが大なり小なり経験のあるであろう悩みを共感させた。

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また、紅一点の大空は、女性の華やかさとしなやかさをもちつつ、バランス良く男性キャストを引き立てる。唯一、加賀谷と同世代とみられる黒須を演じる田口は、異彩を放ち、物語全体を支えていた。

直人と倉持の会vol.2『磁場』公開ゲネプロ_9

竹中とは何度もタッグを組んでいる脚本・演出の倉持は、コメディの名手と言われることもあるが、今作はむしろホラー。ちょっとずれた脇役として黒田大輔や玉置孝匡を配し、笑いを生み出しながらも、知らず知らずの間に背後から恐怖を忍ばせてくる。

直人と倉持の会vol.2『磁場』公開ゲネプロ_8

また、観客の想像力に委ねられる舞台美術もおもしろい。舞台下手(左側)にかかる絵画は、額縁のみで、そこにあるはずの絵は「ここに男が立っててさ」と何度か会話にのぼるものの、観客には見えず、想像するしかない。想像力というフィルターを通した時、そこにどんな絵画が映るのか・・・プレッシャーが積み重なり追いつめられるほどに、見える絵が変化していく気がしてくるのも、また恐ろしい。

直人と倉持の会vol.2『磁場』公開ゲネプロ_10

直人と倉持の会vol.2『磁場』の東京公演は、本多劇場にて12月25日(日)まで上演。その後、大阪、島根、愛知、神奈川を巡演する。日程の詳細は、以下のとおり。

【東京公演】12月11日(日)~12月25日(日) 本多劇場
【大阪公演】2017年1月15日(日) サンケイホールブリーゼ
【島根公演】2017年1月17日(火) 島根県民会館 大ホール
【愛知公演】2017年1月19日(木) ウインクあいち 大ホール
【神奈川公演】2017年1月21日(土) 湘南台文化センター 市民シアター

(取材・文/河野桃子)
(撮影/エンタステージ編集部)

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