ももいろクローバーZの5人が主演した『幕が上がる』の原作や、『ちはやふる』での演技ワークショップなど、近ごろ話題の映画で名前を見ることの多い、劇作家・平田オリザ。最近では、アンドロイドと共演する演劇など、時代の最先端を取り入れた試みをおこなっている。その平田が、2016年6月23日(木)より、ホームである自身の劇団青年団で8年ぶりとなる新作『ニッポン・サポート・センター』を上演する。
「コメディなので笑いに来てもらえれば」と平田が言う今作、その内容と、実際の稽古場のようすを覗かせてもらった。
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出演するのは、テレビドラマなど映像での活躍も多い志賀廣太郎(ドラマ『半沢直樹』『3匹のおっさん』カップヌードルCM「壁ドン編」など)をはじめ、山内健司、松田弘子など、正式な劇団メンバーばかり。
物語の舞台は、NPOのオフィス。そこには、生活困窮者やドメスティック・バイオレンス(DV)の被害者などが一時避難してくる。
貧困やDVの話は出てくるものの、思わずクスリと笑ってしまうシーンだらけ。誰が誰を好きだとか、市役所のキャラクターの着ぐるみはどれが人気だとか、しょうもない話で盛り上がる。一方で、NPO幹部職員の家族の不祥事や就職難民などの問題もある。あたりまえのような、ボランティア団体の日常だ。そこでは、いろんな事情が入り交じり、みんなの善意が空回り、さまざまな喜悲劇が繰り返される。
稽古場では、つねに台本が書き換えられていく。「そのセリフもっと後にしよう」と演出の平田の声が飛べば、役者たちがすぐに台本に書き込んでいく。「喋る前にもう一拍あけて」など、その指摘は細かい。
平田の演劇では、まるでふつうに友達と喋っているような自然な演技が特徴だ。役者が前を向くことも、声を張り上げることもない。セリフも「はいはい」「なるほど」「ええ?」などの、まるで日常会話が続く。休憩時間になると役者同士で「さっきのシーン、「あ」だっけ?「ああ」だっけ?」など、細かなセリフの確認が続く。
普通に人々が喋っている空間は、まるで自分もNPO施設のオフィスにいるみたいだ。そこで本でも読んでいたら、たまたま入って来た人が喋りはじめたかのように、自然に役者たちの芝居が始まる。たとえるなら、カフェで隣の席の会話が聞こえてしまい、思わずニヤついてしまう感覚に似ている。
ちなみにこの日は、初の通し稽古の前日。休憩時間には「最後まで通したらどれくらいかかるか当てよう」「1時間40分?」「2時間10分!」「強気だね~」と和気あいあいとしたやりとりが始まった。当たった人には、平田が焼き肉をおごるらしい(本当だろうか)。
平田は「より良いものを書き残すのが、僕の最大目標」と、新作にかける意気込みは大きい。10年前から構想を練っていたが、当時は珍しかった貧困やDVを扱った作品も、今では数多くある。そこで平田は、物語の中心人物を当事者ではなくサポートするNPOスタッフたちに変更した。視点を変えることで、過去ではなく“現代”が抱える問題を描こうとする。コメディではあるが、“人を助けるとはどういうことか”という普遍的な命題に正面から取り組む意欲作だ。
最近では、映画界でも活躍する青年団。5月には、劇団員の深田晃司が監督した映画『淵に立つ』(主演・浅野忠信)がカンヌ国際映画祭・ある視点部門で審査員賞を受賞して話題になったばかりだ。また、今回の出演者である堀夏子は、韓国の映画監督キム・ギドク(カンヌやヴェネチアの国際映画祭で多数賞を受賞)の最新作『STOP』で主演をつとめている。ほか、映画やテレビ、CMで味のある脇役として出演する劇団員も多い。
彼らのホームである劇団での8年ぶりの新作公演は、映像などの経験を経て、どんな“現代”を切り取るのか。
新作『ニッポン・サポート・センター』は、6月23日(木)~7月11日(月)吉祥寺シアターで上演される。
(取材・文/河野桃子)