舞台版『世界の中心で、愛をさけぶ』や『東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~』、こまつ座&ホリプロ公演『木の上の軍隊』の脚本を手がけ、舞台『まほろば』で岸田戯曲賞を受賞。また、舞台のみならず映画やテレビドラマなど各方面からも注目を集める新進気鋭の作家、蓬莱竜太が全作品の作・演出を手がける劇団モダンスイマーズの新作公演『嗚呼いま、だから愛。』が2016年4月22日(金)より東京芸術劇場 シアターイーストにて幕を開けた。
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深い人間考察に基づいた笑いを織り交ぜ、常に同時代性を反映させる蓬莱が今回挑んだテーマは「愛」。“物語の終わりに信じられる確かな愛が一つだけでも舞台に浮べられたら”という蓬莱の願いがこもった渾身作だ。出演には、10年ぶりの舞台出演となる女優の奥貫薫や川上友里(はえぎわ)を客演に迎え、太田緑ロランス、古山憲太郎、津村知与支、小椋毅、西條義将、生越千晴とモダンスイマーズ所属の俳優が勢揃い。愛憎入り混じるセンセーショナルな注目作の公開稽古の模様をレポートする。
物語の舞台は、しがない麻雀雑誌で4コマ漫画を描く多喜子(川上)とその旦那(古山)が住む1LDK。舞台を囲むように客席は配置され、リアルな舞台美術と相まって緊密で濃密な舞台空間を生み出していた。
本作は、混沌としている現代社会の中で、ごくごく平凡な夫婦のささやか且つ深刻な戦いが描かれる。物語の切り口となるのは「セックスレス」。旦那の部屋で見つかった大量のエロDVDが発端となり、夫婦間で曖昧にしていた性の問題が浮き彫りになる。しかし、旦那はヘラヘラと不誠実な態度を取り、多喜子は苛立ちを募らせる。
ある日、容姿端麗な売れっ子女優である多喜子の姉(奥貫)が、プライベートのトラブルを抱え、二人の家に逃げ込んでくる。さらにこの日は、パリへの移住が決まった信仰心の強いクリスチャンで多喜子の友人夫妻(太田、小椋)の送別会でもあった。プライベートな問題に容赦なくちょっかいを入れる姉の発言に不穏な空気が流れながらも、送別会は慎ましやかに行われていった。
しかし、そこに続々と闖入者が現れる。多喜子の浮気相手である編集者(津村)や才能ある新人アシスタント(生越)、要領の悪い姉のマネージャー(西條)。それぞれの本音や秘密が、酔いと共に露見しはじめ、多喜子を取り巻く人間関係が破裂寸前まで緊迫する。
本作の見どころは、ヘラヘラと曖昧な人間関係とそこに付随する“愛”の問題が、物語が進むにつれ混沌とする世界情勢とリンクしてくる点だ。日本の平凡な夫婦関係に発生するミクロな問題がテロや差別、倫理などスケールの大きな問題と繋がりうることを示す。
また、大貫が「私にとって10年ぶりの舞台になります。いつかまた芝居に関わることが出来るなら、本物の演劇の人たちと本物の演劇の場で、と願っていた」と語るように、俳優の迫真の演技が作品のテーマを軽快にも切実に観客に訴える。『嗚呼いま、だから愛。』とタイトルの通り、“今”だからという蓬莱の切実さに俳優が誠実に呼応する、スケール感の大きい愛憎劇であった。
モダンスイマーズ『鳴呼いま、だから愛。』は2016年4月22日(金)から5月3日(火・祝)まで東京芸術劇場 シアターイーストにて上演。