2015年8月7日(金)より東京・パルコ劇場にて開幕した『ウーマン・イン・ブラック<黒い服の女>』。1989年にロンドンのフォーチュンシアターで初上演されて以来ロングラン公演されている英国発のゴシック・ホラー。日本での上演は、約7年ぶり7度目となり、今回新キャストとして岡田将生、勝村政信が挑んでいる。
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ヴィクトリア様式の小さな劇場。舞台には特別な装置やセットはなくいたってシンプル。そこへ中年の弁護士キップス(勝村政信)と若い俳優(岡田将生)が相次いで現われ、いつの間にか物語は始まっている。キップスは、青年時代に体験した忌まわしい悪夢に囚われ続けていた。悩みぬいた末、彼はこれを家族に打ち明けようとする。あの怪奇な出来事を劇場で語ることによって呪縛から解放されようと、その手助けに若い俳優を雇ったのだ。
「芝居」という形を借りた告白は、俳優が“若き日のキップス”、“当時キップスが出会った人々”をキップス自身が演じるという形で始まった。最初は演じることに戸惑いを見せていたキップスだったが、録音技術による効果音にも助けられ勢いを得て、俳優との過去の再現に熱中していく。記憶の再現が進むにつれ、劇場でも奇妙な変化が起こり始めていた…。
この作品は、二人芝居である。最初から最後まで舞台の上には二人しかいないのに、実にいろいろなものが見えてくるのである…。弁護士のキップスが身寄りのない老婦人が残した書類整理の依頼のため、足を運んだのはイングランドの片田舎。そこは、潮が引いた時にしか他の町と行き来ができない孤立した土地だった。観客は、若き日のキップスがここで経験したことを、俳優の芝居を通して追体験することとなる。
勝村が演じる弁護士キップスは、芝居で経験を語るということに戸惑いを隠せない。言われるがまま、かつて出会った人々の姿を辿っていく。熱が上がっていくにつれ“演じていた”はずだった時間が現在に溶け込み、果たして今目にしていることが記憶の再現なのか、キップス自身さらには観客自身が直面していることなのか…わからなくなってくる。
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俳優を演じる岡田は、あくまでも芝居としてキップスをリードしながら、彼の体験をなぞっていく。しかし、会見で「本当に怖くて、舞台の上で思わずはっ…!としてしまった」と語っていたように、岡田自身も感じているであろう恐怖の気配が、じわりじわりと劇場に満ちていく。観ている側も、思わず声が出そうになり何度も口を覆った。
どんなに進んだ特殊技術よりも、“恐怖”を増幅させるのは人間の想像力。勝村が「全球凍結」と表現した恐怖を、是非劇場で体感してほしい。ただし、カーテンコールは決してしないことをおすすめする…。『ウーマン・イン・ブラック<黒い服の女>』は、8月30日(日)まで東京・パルコ劇場にて上演中。その後、名古屋・新潟・大阪にて地方公演を予定している。
撮影:御堂義乗