数ある井上ひさし作品の中でも傑作との呼び声高い『きらめく星座』。こまつ座による上演が、9月8日より紀伊國屋サザンシアターで幕を開けた。
太平洋戦争前夜、昭和15年の東京から物語は始まる。浅草の小さなレコード屋、オデオン堂には、音楽大好きな小笠原一家と間借り人の広告文案家、学生が暮らしている。しかし長男・正一が脱走兵となったことから、オデオン堂は「非国民の家」と噂されるように。このままではオデオン堂が整理の対象になってしまう、それを避けるため小笠原家の娘・みさをは傷病兵と結婚することに…というストーリー。
場ごとに時は流れ、徐々に日常生活が「戦争」の色が濃くなってゆく様が描かれてゆく。好きな音楽が聞けなくなり、食料が手に入らなくなり、仕事もなくなり……それでも小笠原家は明るい。いつも自分たちの好きな歌を歌っては、みさをの夫・源次郎や憲兵伍長・権堂に怒られてしまう。それでも彼らは歌うことをやめない。さながら音楽が、夜空にきらめく光明であるがことく。
このちりばめられた音楽と井上作品ならではの軽妙なやりとりで、舞台の印象は不思議なほど明るい。特に秋山菜津子演じる小笠原家の後妻・ふじはどんな時でも明るさを失わず、一家を照らす太陽のよう。また、脱走兵としてあちこち逃げまわる長男・正一はストレートプレイ初挑戦の田代万里生が好演。時にトリッキーに登場し、時に苦悩する正一を体全体で演じている。そこに木場勝己、久保酎吉らベテランがしっかりとした存在感で舞台をけん引している。
舞台上で日付がわかるような部分も多々あるので、太平洋戦争前後の年代を頭に入れて見ていくといっそうこの舞台が“伝えたかったもの”が深く感じられるかもしれない。ここに描かれたのは遠い過去のことではなく、いつでも私達に“起こりうる”ことなのだ。
Photo:谷古宇正彦