グッドディスタンス『朝、私は寝るよ』レポート――年ぶり再演は新たな演出でフェアに深化

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東京・下北沢の小劇場 楽園にて、グッドディスタンスによる『朝、私は寝るよ』が上演されている。本作は、2021年夏、コロナ禍真っ只中に上演された二人芝居。綱島郷太郎(劇団青年座)と今泉舞に深井邦彦(HIGHcolors)が書き下ろした戯曲を、西沢栄治の新たな演出で、人と人が正常な距離感を取り戻した今、改めて丁寧に紐解いていく。稽古場での話を交えながら、本公演を紹介する。

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グッドディスタンスの思い――なぜ今、新たな演出でこの作品を上演するのか

物語は、あるマンションの一室の中で完結する。そこは、陽葵(今泉)という女性の部屋のようだ。外から聞こえてくるのは、大きなセミの声と夕焼け小焼けの音楽。切り取られた部屋の中で、寝て、起きて、何の気なくつけたテレビからはスポーツ中継が流れている。彼女の、連綿と続く日々の1日。

そこへ、男が帰ってくる。訪れた、というのが正しいか。「話をしにきた」という男だが、女はテレビで見て興味が湧いた話題を振る。久しぶりに会った男女の会話はかみ合わない。

「僕らのせいで一人の人間が死ぬかもしれない」

二人の関係は、いわゆる不倫である。秘められた関係に一石が投じられた時、二人の会話には愛と憎悪が入り混じる。言葉を投げつけ合い、罪悪感の置きどころを探しながら、閉ざされた部屋の中で時間だけが平等に進んでいく・・・。

グッドディスタンスは、コロナ禍で演劇の灯を消さないために俳優の本多真弓がプロデューサーとして2020年に立ち上げた企画。本作は、その一つとして書き下ろされた戯曲で、深井が綱島と今泉に対して宛て書きしたそうだ。

演劇が“日常”を取り戻して以降、グッドディスタンスは、演劇の“非日常”の中で生まれた作品を丁寧に再構築している。プロデューサーの本多がこの作品をもう一度上演しようと考えた際、綱島と今泉の生み出す人間関係を照らすため、違う演出家の手に委ねることを決めたという。

綱島郷太郎と今泉舞が語る“変化”――西沢演出がもたらした新たな視点

西沢の新たな演出を受け、綱島は「西沢さんの演出はとても具体的で分かりやすく、上手いこと役に乗せていただきました」と語る。今泉も「すごく細かく丁寧に掘り起こしてくださったので、同じことやっているはずなんだけれど、見え方が全然違います」と、新たな作品創りへの手応えを明かした。

初演の際は、「男が悪い、それでいいと思っていました」(綱島)、「純度100%、ただただ男のことが好きで、観てくださったお客様に『本当にひどい男だね』と言われて『そうなんだ!』と気づく感じでした」(今泉)と言うように、不倫関係においての「悪」は圧倒的に男側に傾いて見えていたそう。

しかし、西沢の演出に変わり、違う視点から戯曲にアプローチしたことでそのパワーバランスは大きく変化した。会話の中で重心は移動すれど、男女の関係は徹頭徹尾フェアに見えた。

その変化は、初演時が綱島と今泉の初共演だったということもあるかもしれないが、コロナ禍で人が“潔癖”になっていたことも影響しているのかもしれない。演じる側も観る側も、その時の心の在り方によって見える光景が違うものだ。それは、ブラックボックスのような「人には言えない関係」の中であっても。

演出の西沢は「観てくださった方が思うまま感じてくださればいいんですけど、ダメな人たちを見せたいなと思います。ダメな人間を肯定できることが、演劇の一つのおもしろさだと思っているので」と言っていた。通し稽古を観ながら、動物的感覚と人間が持つ倫理観の狭間で、タイトルを嚙みしめた。逃げる人にも、追う人にも、傍観する人にも、平等に来るのが朝なのだ。朝に寝たとしても、そこにあるのは、できれば希望であってほしい。

上演時間は約50分。綱島は「僕は、深井さんの作品の中でこれが一番の傑作だと思っているんです(笑)。楽園っていう小さい空間で、しかも二人芝居。手軽に濃密を観ていただけると思います」、今泉は「初演を観てくださった方は、同じものを観て自分の感じ方にどう変化があるのか楽しんでいただけたら。初めて見る方には、笑ってもらえたら一番嬉しいです!」と語っていた 。

4年という時の流れと、新しい演出家との出会いが、同じキャストによる濃密な二人芝居にどのような深化と変化をもたらしたのか。ぜひ小劇場という、そこに居合わせた者しか共有できない秘め事を覗き見てほしい。

『朝、私は寝るよ』は、6月8日(日)まで東京・下北沢 楽園にて上演中。

(取材・文・撮影/エンタステージ編集部1号)

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