2019年も終了へのカウントダウンが始まりました。エンタステージでは、事前に「あなたが見つけた逸材」「あなたが思う新星・ネクストブレイク」「あなたにとっての演劇トピックス」という3つのテーマを設けて、皆さんにアンケートを募りました。充実した演劇ライフが垣間見える熱い回答を多数寄せていただき、ありがとうございました。
2019年は、嬉しいことも、悲しいことも、いろんなことがありました。それでも、Show Must Go On!皆さんから寄せていただいたコメントをまとめながら、この1年を振り返ってみたいと思います。
ミュージカルで活躍する俳優陣、続々とTVドラマに出演
今年は、ミュージカル界のスターたちをTVでお見かけすることが多かったように思います。井上芳雄さん(2020年1月3日放送『半沢直樹イヤー記念・エピソードゼロ』)、山崎育三郎さん(『おっさんずラブ-in the sky-』、2020年連続テレビ小説『エール』)を筆頭に、石川禅さん(日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』)、大貫勇輔さん(『ルパンの娘』『グランメゾン東京』)、古川雄大さん(日曜劇場『下町ロケット』、2020年1月スタート『トップナイフ-天才脳外科医の条件-』、2020年連続テレビ小説『エール』)と、続々と出演が続きます。
音楽番組でも、ミュージカル楽曲を取り上げ、歌われることも増えてきました。以前、山崎育三郎さんは「ミュージカル界の未来へ危機感を抱いたことからテレビの世界の挑戦してみようと思った」といった趣旨の発言をされていました。演劇が閉じた世界ではなく、一部の高尚な楽しみではなく、敷居の高いものではないということを、自分たちを知ってもらうことで広げていこうという心意気が感じられます。行きたいと思ってもチケットが手に入らない(行こうと思っていた人が取りづらくなる)、チケット代が気軽に手を出せるものではない・・・といった問題は残りますが、まずは「知ってもらう」ことから少しずつ裾野が広がっていくことが、豊かな未来に繋がるのだと信じます。
2.5次元俳優の大躍進
日々、演劇にまつわる情報発信をするメディアの者として、以前ずっと引っかかっていることがありました。それは「2.5次元俳優」という表記について。2.5次元という言葉は、2次元の漫画・アニメ・ゲームを原作とする3次元の舞台コンテンツの総称として、ファンの間で生まれた言葉です。しかし、俳優さんたちはあくまでも「俳優」であり、2.5次元専属の役者さんではありません。それ以外の作品にも出ている方もいらっしゃるのに、固有名詞のようにその言葉が冠されてしまうのはどうなんだろうか・・・と。
しかしここ数年、俳優さんたちの実力と「2.5次元」人気の高まりが、その言葉の意味を勝ち取っているように思います。今年は、『テレビ演劇 サクセス荘』(脚本:徳尾浩司、監督:川尻恵太)、『REAL⇔FAKE』(脚本・演出:毛利亘宏)、『Re:フォロワー』(脚本・監督:西田大輔)、『寝ないの?小山内三兄弟』(脚本:じろう/シソンヌ)と、クリエイター陣も含めて舞台で活躍する「2.5次元俳優」(あえてこう書きます)を起用して作られたTVドラマも多数生まれました。俳優さんたちのがんばりと、応援する方々のパワーが世の中を動かす。そんな瞬間が生まれた1年だったのではないでしょうか。
客席の反応と概念
演劇は座って黙っておとなしく観るもの・・・そんな概念を覆す公演が出てきました。2019年はミュージカル『キンキーブーツ』の再演がありましたが、客席の様子が初演と様変わりしていました。日本でこんなにヒュー!ヒュー!言っている場面に出くわすとは。この光景は、ミュージカル『ラヴズ・レイバーズ・ロスト -恋の骨折り損-』でも見られました。『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』Rule the Stage -track.1-では、オーディエンスキットがチケットに付いており、ホーンを鳴らして劇中で参加を求められる・・・なんてことも。
しかし、基本的なマナーは守らなければなりません。劇場内での写真撮影、飲食、録音・録画などの行為は固く禁じられています。上演中の私語も厳禁。そして、携帯電話の電源はOFFに。2時間程度もそれができない方は、残念ながら劇場に来ている場合ではないです。関係者も含めて。劇場が、マナーを守って楽しく盛り上がれる空間であるといいですね。
映像技術の進化とそれによる演出効果の差異
近年、映像演出の技術の進化には、目を見張るものがあります。2.5次元舞台で使用されることが多く見られた映像演出ですが、最近では『レ・ミゼラブル』『エリザベート』などの大作でも用いられ、舞台上により一層の幅と深みを生み出しました。それゆえに「使い方」によって、作品の印象やクオリティを左右することも出てきました。プロジェクションマッピングをただ投映するだけか、それとも投映場所や内容が吟味されているか。作り手の腕も、観客の皆さんはちゃんと見ています。
チケット代値上がり問題
消費税の増税の影響もあると思いますが、チケット代が軒並み値上がりしたと感じる1年でした。ミュージカル作品はもとより、2.5次元作品でも1万円を超えるチケットが珍しくなくなってきました。業界全体の持続可能性を考えると、プラスな面もマイナスな面も双方ありそうだと感じます。チケット不正転売禁止法も成立しましたが、現制度では観客側への負担が大きく、チケットの販売方法についてはまだまだ考える余地がありそうです。
劇場数の減少問題
2019年は、心配され続けていた劇場不足が顕著になってきた1年でもありました。目立ったのは、ライブホールである「品川プリンスホテル ステラボール」で上演される機会が激増したこと。この先のスケジュールを見ると、ほとんど演劇作品でカレンダーが埋まっています。来年は、いくつか新しい劇場が誕生しますが、どうなるか。オリンピック前後の変化も気になります。
キャラメルボックスの活動中止
演劇集団キャラメルボックスの活動中止は、大きな衝撃を与えました。キャラメルボックスと言えば、多くの人が初めて触れる演劇として間口を広げていた存在であり、上川隆也さんや近江谷太朗さんらを排出した劇団です。劇団を存続させることは本当に難しい・・・。しかし、解散ではなく「休止」です。劇団員の皆さんの発信されているメッセージからは、キャラメルボックスへの愛がにじみます。またいつの日か、キャラメルボックスのお芝居が観られる日が来ることを願ってやみません。
森新吾さん、滝口幸広さんの急逝
今年は、あまりにも急なお別れがありました。4月7日にDIAMOND☆DOGSの森新吾さんが心筋梗塞のため37歳で亡くなられていたことが、公式サイトとブログにて発表されました。当時、森新吾さんが振付を担当されていた『ALTAR BOYZ』の公演中だったこともあり、その千秋楽後に明かされることとなりました。お別れ会では、生前から公私共に深く親交のあった植木豪さんの呼びかけにより、ストリートダンサー時代に所属していたダンスチームLockin’onのショー映像から、最新の舞台での活躍の模様までが収録された映像が公開されました。これからもご活躍されると思っていたので、ぜひ直接取材させていただきたかったです・・・。
そして、11月13日には滝口幸広さんが突発性虚血心不全のため、34歳の若さで亡くなられました。11月初には舞台に立っており、直前も次回出演作関連のため、お仕事をされていた滝口幸広さん。今年も年末に楽しいお芝居を見せていただけるとばかり思っていました・・・。滝口幸広さんには、エンタステージも何度か取材させていただいており、いつも気さくで、周囲のスタッフさんなどのことをいつも気にかけていらっしゃる姿をお見かけしておりました。インタビューでは「それはちょっと想定外・・・!」と思う答えが返ってきてちゃんとまとめられるか不安になったこともありましたが、記事にしてみると、ちゃんと滝口さんの色が出るものになり、唯一無二の個性がありました。取材では、いろんな媒体が入れ替わり立ち代わり役者さんの元を訪れるのですが、次の取材が始まっていても私たちが失礼する時には「ありがとうございました」と必ず声をかけてくださる、そんな方でした。
お二方とも、たくさんの素敵な作品の記憶をありがとうございました。ご冥福をお祈りいたします。
日本発ミュージカルの活性化
日本発のミュージカル作品の上演が少しずつ増加してきました。梅田芸術劇場が英国チャリングクロス劇場と共同で企画・制作・上演した、日英共同プロジェクト第1弾となったミュージカル『VIOLET』(演出:藤田俊太郎)は、オフ・ウエストエンド・シアター・アワードで6部門にノミネートされ、藤田俊太郎さんは日本人演出家として「作品賞」候補に選ばれる快挙を成し遂げました。こちらは、2020年4月に日本キャスト版が上演されます。このほかにも、石丸さち子さんや、西川大貴さんが日本発のミュージカル制作に力を入れており、今後の動向が気になります。
また、梅田芸術劇場さんが革新的な企画を次々と打出していておもしろいといった声や、関西演劇祭の盛り上がりにも注目したいところです。80年代から90年代にかけて起きた演劇ブームからは、「そとばこまち」「劇団☆新感線」「南河内万歳一座」「惑星ピスタチオ」「劇団M.O.P」といった人気劇団が誕生し、当時を牽引した演劇人の方々は今なお全国区で活躍しています。東京での劇場不足も相まって、最近は大阪公演からスタートする作品も増えてきました。西の盛り上がりに、期待します。
市村正親さん、卒業したはずの『ミス・サイゴン』エンジニア役に復活!
2020年5~9月にはミュージカルの金字塔『ミス・サイゴン』が全国8都市で上演されます。1992年の初演からエンジニア役を演じてきた市村正親さんは、2016年~2017年の上演時に同役からの卒業を明言していました。しかし、大千秋楽のカーテンコールでは、その撤回をほのめかす発言も飛び出しており・・・結果、今回の上演でもエンジニア役を続投することとなりました。70代に入ってもおちゃめで活力に溢れている市村正親さんが、力強くエンジニアとして作品を生き抜く姿は、きっと観ている私たちに勇気をくれることでしょう。
以上、皆さんが寄せてくださったトピックスをまとめてお届けいたしました。いよいよ、オリンピックイヤーでもある2020年がやってきます。2020年と言えば、囁かれているミュージカルファンのスケジュールが大変問題などもありますね・・・これについては、改めて。
いつもエンタステージをご覧くださる皆様、本当にありがとうございました。1年間、大変お世話になりました。2020年も、編集部とライターさんと、演劇の楽しさをお伝えできるよう、一丸となって取り組んでいきたいと思います。よい年をお迎えください。
(文・まとめ/エンタステージ編集部 1号)