最近よく目にする「2.5次元舞台」「2.5次元ミュージカル」。これは、2次元で描かれた漫画・アニメ・ゲームの世界を原作として舞台化した作品のこと。現在もミュージカル『テニスの王子様』や、『デスノートThe Musical』『ライブ・スペクタクル NARUTO-ナルト-』舞台版『魔王 JUVENILE RIMIX』などが上演中だ。2013年の延べ観客者数は160万人を超え、すでに固有のジャンルとなった「2.5次元ミュージカル」。この名称で呼ばれるようになったのは数年前からだが、意外や意外、その歴史は古い。改めてこれまでの歴史を振り返ってみよう。
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1974年 ―『ベルサイユのばら』初演
宝塚歌劇団による漫画の舞台化は以前にも岡本一平原作『刀を抜いて』(1956年星組公演、寿美花代主演)があったが、連載終了直後の大ヒット少女漫画の舞台化は1974年に公演となった『ベルサイユのばら』が先駆けと言えよう。男装の麗人オスカルが宝塚の男役にピッタリであったことやフランス王朝を舞台としたストーリーが宝塚の世界観にマッチし、日本国中に『ベルばら』ブームを巻き起こした。宝塚では現在までに、『はばたけ黄金の翼よ』『紫子』『ブラックジャック 危険な賭け』『エル・アルコン』『猛き黄金の国』『JIN-仁-』『メイちゃんの執事』『ルパン三世』など数多くの漫画作品の舞台化を手がけている。
~2003年 ― 漫画原作の舞台の成長期
『ベルばら』以降、宝塚以外でも漫画が舞台化されるようになった。1985年には『小公女セーラ』や、1991年にはデビュー間もないSMAPが全員出演する『聖闘士星矢』などが上演された。また、ミュージカル作品のみならず、夢の遊眠社の『半神』、スタジオライフの『トーマの心臓』、新橋演舞場で上演された『ガラスの仮面』などストレートプレイでも漫画原作の作品が目立つようになる。
この時期に注目されるのは1993年初演のミュージカル「美少女戦士セーラームーン」。「月に代わって、お仕置きよ!」の名文句で知られるセーラー戦士たちの活躍を描くミュージカルは2005年まで続く長いシリーズとなった。また、タキシード仮面役の浦井健治、城田優など、その後のミュージカル界を担うスターを輩出した功績も大きい。なお、2013年より「美少女戦士セーラームーン」の20周年を記念して新しいシリーズがスタート。2015年も新作が上演予定。
ミュージカル「美少女戦士セーラームーン」-Petite Étrangère- (プチテトランジェール)
(c) 武内直子・PNP/ミュージカル「美少女戦士セーラームーン」製作委員会2014
2003年 ― ミュージカル『テニスの王子様』の登場
これまでの漫画原作舞台の流れを大きく変えたのが、ミュージカル『テニスの王子様』の登場だ。ほとんどのシーンが試合で展開されている作品を、筋書きのないスポーツを見ているかのような臨場感で舞台化。さらに原作の持つ世界観を大切にし、登場人物の本質に近い俳優をオーディションでキャスティングした。観客の熱狂的な支持を受け、「テニミュ」という略称で呼ばれるほどに人々に浸透していく。特に、今までまったく舞台を見ていなかった層の人たちが舞台を見に行くきっかけとなったことも注目される。さらに、斎藤工、城田優、加藤和樹、伊礼彼方、相葉裕樹(旧芸名:相葉弘樹)、中河内雅貴、佐々木喜英、馬場徹など「テニミュ」をきっかけとして羽ばたいていった若手俳優も数多い。
ミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズン 青学(せいがく)vs不動峰
(c)許斐 剛/集英社・NAS・新テニスの王子様プロジェクト
(c)許斐 剛/集英社・テニミュ製作委員会
~現在 ― 2.5次元ミュージカルの発展
ミュージカル『テニスの王子様』以降、漫画、アニメ原作の舞台は「2.5次元舞台」「2.5次元ミュージカル」と呼ばれるようになり、一つのジャンルとして確立されようとしている。ミュージカル「黒執事」、ミュージカル『薄桜鬼』、『ROCK MUSICAL BLEACH』、ミュージカル「忍たま乱太郎」、『TIGER&BUNNY THE LIVE』など、数多くの作品が舞台化されている。なかでも、(ミュージカルではないが)舞台『弱虫ペダル』は西田シャトナー演出によるパワーマイムを駆使し、ハンドル一つで自転車競技を再現。演劇ならではのライブな表現が人気を博した。
舞台『弱虫ペダル』インターハイ篇 The WINNER
(c)渡辺航(週刊少年チャンピオン)/「弱虫ペダル」GR製作委員会
(c)渡辺航(週刊少年チャンピオン)/マーベラス、東宝、ディー・バイ・エル・クリエイション
また、『ライブ・スペクタクル NARUTO-ナルト-』は徹底的なまでにビジュアルを再現。プロジェクション・マッピングを使用した忍術シーンが圧巻で、原作ファンからも歓喜の声が上がった。
『ライブ・スペクタクル NARUTO-ナルト-』
(c)岸本斉史 スコット/集英社
(c)ライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」製作委員会2015
『ライブ・スペクタクル NARUTO-ナルト-』はこの後、マカオ、マレーシア、シンガポールの海外公演が行われる。『デスノート The Musical』は『ジキル&ハイド』などで有名なブロードウェイの巨匠フランク・ワイルドホーンが作曲し、日本公演の後はホン・グァンホ、キム・ジュンスら韓国人キャストによる韓国公演が上演される予定。
日本の文化が生んだ独自のジャンル「2.5次元ミュージカル」が目指すのは世界標準。これからもますます目が離せないライブエンターテインメントとなりそうだ。