意外とふだん意識しないかもしれないが、東京は実は日本国内だけでなく、世界的に見ても有数の“演劇都市”。都内だけで数百もの劇場・ホールがあり、商業演劇から小劇場まで毎日公演が行われているのだから。NYのブロードウェイや韓国の大学路ほど密集はしていないものの、劇場数で言ったらまったくひけをとらないのだ。
では、地方はどうか?
劇団☆新感線らを代表とする関西学生演劇ブームが巻き起こったのは1980年代。以降、大規模な東京以外の“地域発”劇団・演劇ブームは、残念ながら起こっていないのが現状だ。もちろん、それ以降も京都・大阪出身の人気劇団は数多く出てきたし、ヨーロッパ企画のように京都を拠点にしながら全国的な人気を得た劇団もいる。しかし、一方で拠点を東京に移す関西出身の劇団も多く、むしろヨーロッパ企画がレアな形と言えるのかもしれない。
あとは近年のブレイクは、大泉洋や安田顕、戸次重幸ら今やメンバー全員がテレビで活躍中の北海道のTEAM NACSか。でも今や全国区になり、地方劇団というイメージでもなくなってしまった。
じゃあ、地方には面白い劇団はない?
…いやいや、そんなことはない。
独断と偏見で名前を挙げていくと、青森は地方演劇の中でも「北の雄」だろう。
まずは老舗劇団・弘前劇場。劇団民藝や昴など他劇団への書き下ろしも多く、劇作家として近年注目を浴びる畑澤聖悟率いる渡辺源四郎商店。ちなみに畑澤はかつて弘前劇場に所属していたが、同じく弘前劇場出身の俳優・山田百次が立ち上げたのが劇団野の上。こちらは全編津軽弁の作品など前出2劇団とはまた違った形で”青森の劇団ならでは〟の色を出していて面白い。
渡辺源四郎商店『さらば!原子力ロボむつ~愛・戦士編~』東京で上演
「南の雄」は、というとやはり福岡県。かぶりもので物語を語るギンギラ太陽’sは演劇界でもかなり話題となったが、北九州でコンスタントに活動を続ける飛ぶ劇場、若手注目株の万能グローブ ガラパゴスダイナモスと、ベテランだけでなく若手も話題になっているのが嬉しいところだ。
ギンギラ太陽’s本公演は、九州鐵道誕生125周年記念「博多千年モノ語りシリーズ」
万能グローブ ガラパゴスダイナモス、『ボスがイエスマン』を再演!
中国地方で言うなら、鳥の劇場で知られる鳥取だろうか。ちなみに鳥取では2014年の12/20・21にコスチュームアーティスト・大野知英らによる「動く砂像」にプロジェクションマッピングを駆使した『鳥取砂丘アートプロジェクト』が行われる。砂丘でのイベント、多くのマイムダンサーが参加とありなかなか面白そうだ。
そう、地方の劇団はどうしても観客の絶対数や俳優専業での生活が厳しいという事情などから、劇団としてコンスタントに活動を続けていくのが難しくなってしまい、多数の劇団が存在するのもある程度大きな都市に限られてしまう。そういう意味では今年30周年を迎えた岐阜の劇団・ジャブジャブサーキット、こちらも結成30周年を超える名古屋の少年王者舘は頼もしい存在かもしれない。
近年の地方演劇の特徴として、地方自治体や公共ホールが主導で公演や事業を行うケースも増えてきた。宮城聰が芸術監督を務める静岡県のSPAC、主催公演も数多い滋賀県のびわ湖ホール、近年注目を浴びる三重県文化会館など。単に「東京で作った舞台を地方で上演する場所」としてだけでなく、独自の活動や公演を行うこれらの劇場は、ぜひ劇場発信の情報をチェックしておきたい。
そうそう、公共といえば忘れてはいけないのが(ダンスだが)金森穣率いる新潟県のNoism。日本初の劇場専属舞踊団として、唯一無二の存在として活動を続けている。世界的にも評価が高いスタイリッシュな舞台は、ぜひ一度観て欲しい。
地方の劇団は、毎公演は東京公演を行わない劇団が多い。しかし、東京に来た際に観に行き、興味を持ったら旅行がてら地方公演を観に行く…というのもまた東京の演劇ファンならではの楽しみ方の一つ。作品が生まれた都市、空気を知ると、また舞台の楽しみ方が広がることは間違いないはずだ。