まもなく開催!演劇・ミュージカル界最高峰のアワード「トニー賞」の魅力は?井上芳雄インタビュー

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演劇・ミュージカル界における世界最高峰のアワード『第73回トニー賞授賞式』が、2019年6月10日(日本時間)に開催される。その様子をミュージカル俳優の井上芳雄をナビゲーターとし、WOWOWが生中継。アメリカ・ニューヨークのラジオシティ・ミュージックホールで行われる授賞式を、井上のスタジオでのオープニングパフォーマンスと共に紹介する。
さらに、スペシャル・ゲストとして堂本光一も出演。井上と堂本はトニー賞授賞式を間近に控えたNYを訪問し、数作を観劇してきた。その時の印象を踏まえ、井上に「トニー賞」の魅力や今年の傾向について語ってもらった。

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目次

トニー賞の魅力は?堂本光一さんとブロードウェイ視察に

――井上さんは、以前から「日本のトニー賞をつくりたい!」と言い続けていらっしゃいますよね。トニー賞のどんなところに魅力を感じますか?

今回、堂本光一くんとニューヨークに行ったんですが、パフォーマーたちから、すごく大らかな雰囲気を感じたんです。「あと10分で開演するけど?!」という舞台裏でも全然ピリピリしていない。「オッケーオッケー、そろそろ始まるね~」と、すごくリラックスしている。そして幕が開いたら、世界レベルのものすごいパフォーマンスを見せてくれるんですよ。彼らの、生きることを楽しむ、いろんな人がいることを受け入れようという大らかなエネルギーが、ミュージカルのハッピーな空気を生んでいるのかなと思います。

日本はどちらかというと稽古場で苦しい思いをしがち。修行のように毎日を耐えて「何者かになるんだ!」と思い詰めてしまう。もちろん日本にもアメリカにもいろんな人はいるんですが、現地で飲みながら「こんなにおおざっぱな人たちからよくこれほど素晴らしい作品が生まれるなぁ」なんて話をしていたら、ニューヨークで仕事をしている日本の人に「だから生まれるんだと思うんです」と言われて・・・考えちゃいましたね。ブロードウェイの技術だけでなく、「とにかく楽しくやろうよ」という気持ちから学ぶことがある。そういう前向きな気持ちを大事にした先に、日本のトニー賞があるんじゃないかという気がするんです。

トニー賞の知名度は、日本ではアカデミー賞やグラミー賞にかないません。けれども、少しずつ認知されていると感じています。WOWOWさんも光一くんも「日本のトニー賞を作りたいね」と言ってくれているので、同じ志を持つ人が集まれば、いつか実現するかな。機が熟したら、僕もそのための力の一つになりたいです。

――井上さんが中継番組にご出演されて今年で6年目になります。ナビゲーターとして2019年の楽しみなポイントは?

過去5年続けてきたことで、日本のミュージカル自体も盛り上がってきているなと感じます。今年はどんな盛り上がりになるのか期待が高まりますね!今年は光一くんと一緒にニューヨークでいくつか作品も観ることができましたし、当日にはゲストとしても来てくれるので、スタジオで授賞式を共に見守ることができます。光一くんが参加してくれることで、より広がるものがあるんじゃないかな。どの作品が受賞するか、ドキドキも含めて楽しみしかないですね。

――堂本光一さんとブロードウェイで数作品をご覧になって、いかがでしたか?

まず一緒に行けることがすごく楽しみだったんですよ。去年『ナイツ・テイル—騎士物語—』でご一緒してから、公私共々仲良くさせていただいているんですが、二人で1週間近くも海外に行くなんてことは初めてだったので。

そもそも、日本でも一緒に作品を観ることもなかったので、それができたことも、とても良かった。毎晩ご飯を食べながらお酒飲んで、その日観た舞台について話しました。光一くんは『SHOCK』を演出していることもあって、舞台裏のことに興味を示していましたね。僕は「この役者さんすごいな」とか「どうやってこの声を出してるんだろう」という点が気になるんだけど、光一くんは「バトンが何本あるんだ」「この装置はどこにしまってあるんだ」という技術面も含めて楽しんでいましたね。

好きな作品も違っていて、『ハデスタウン』は二人とも観て「いいね」と言っていたんですけれど、光一くんは僕は観ていない『エイント・トゥー・プラウド』というテンプテーションズのジュークボックスミュージカルを「すごくおもしろかった!」と言っていました。やっぱり、ショウに近いエンターテインメントとして見せる作品がすごく好きなんだなあと思いましたね。そんな話を毎晩して、ただただ楽しい5日間でした。

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今年のトニー賞の見どころは!?

――2019年のトニー賞の傾向や雰囲気、現地での印象はいかがでしたか?

『ハミルトン』の年(2016年)はもう「これに決まりだ!」という空気だったんです。今年は飛び抜けた超目玉の作品はなく、拮抗してる印象だったので「どれが獲るんだろう」というワクワク感があります。現地で観たものはどれもおもしろかったし、何が獲るかわからないですね。

それから、1年ぶりにニューヨークに行って、すごく多様化が進んでいるのを感じました。作品もLGBTQ関連だけに収まらないから、多様すぎてカバーするのが大変なんだろうなと思う。ダイバーシティキャスティングといわれるものも進んでいて、お父さんと娘の肌の色が違ったり、同じ役で子役と大人で肌の色が違うことだってあり得るくらい、徹底して多様化が進んでいて、素晴らしいことだと思いました。また、『ザ・プロム』という作品はレズビアンの高校生が主人公なんですよね。『オクラホマ!』でも、車椅子の女優さんが、台本では車椅子ではない役を演じていたんです。

もう、一歩も二歩も日本の先を行っている。どっちの国がいいというわけではないんですけどね。ニューヨークではそうしないといけないくらいいろんな人がいて、いろんな問題がありながら融合して生きている・・・だから今の作品がある。そしてそれが当たり前に表現されているから、やっぱり演劇ってすごいなと思いましたね。

――いくつかご覧になった中で、この作品は何かの賞をとるのでは、と思った作品は?

現地の雰囲気や相対的な評価でいうと『ハデスタウン』かな。最近の作品は有名な映画のミュージカル化など、みんなが知っている話が多く、今年ノミネートされている『ビートルジュース』や『トッツィー』もそうです。その中で『ハデスタウン』はオリジナルだし、演劇的な作品で、バランスが良いなと思いました。演出家は『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』と同じ方なので、お客さんと融合するようなところは似ています。内容は神話をもとにしていて少し難しいところもあるんですが、俳優の皆さんも素晴らしく、とてもおもしろかった。

――井上さんは、各作品のどういうところに注目して観劇されたんでしょう?

うまく言えないんですが・・・オープニングはすごく重要だなと。オープニングで惹きつけられないと、お客さんは置いていかれちゃう。それから、出演者の方々が生き生きしている空気も大事。舞台という額縁が埋まっている感じがすると、心を奪われるんですよ。あっちの俳優さんもおもしろいし、こっちの人もかわいいし・・・と、どこを観たらいいか分からなくなる感じはいいですね。逆に、人がたくさん出ていてもスカスカな空気を感じるものにはあまり惹かれないです。

――今回、オープニングが気になった作品は?

コメディで、おもしろい作品が多かったんですよ。『トッツィー』や『ザ・プロム』は始まる瞬間にワクワク感があって、出てくる人たちもすごく個性的で目が忙しかったです。端の方にいる役名がないような登場人物に至るまで、しっかり芝居をしているのは良いなあ。

ただ、ちょうど僕と光一くんが観にいった時期は、トニー賞のノミネーションが発表されてすぐくらいだったんです。たくさんノミネーションされている作品は活気づいていて、アドリブでノミネートのことを入れていたり(笑)。逆に、ノミネートがない作品は客席も空いていたし、ちょっと落ち込んでいるように感じられました。その差は顕著でしたね。

――それほどトニー賞は、ブロードウェイにとって大きな影響のある賞なんですね。

でも、やっている人たちはすごく誇りを持って、良い作品だと思ってやっていることも伝わってきて・・・それも劇場のすごく素敵なところ。僕たちのやっている公演だって、満席の場合もあれば、うまく人が入らないこともある。そこにも、人間ドラマがあります。それを感じるのはとてもおもしろい。

――中でも演じてみたい作品や役はありましたか?

『ザ・プロム』はおもしろかったんですが、メインが女子高生のカップルなんですよ。登場人物の中におもしろいゲイの男性がいましたが、僕がやるには若すぎるかな・・・。ゲイの役もやってみたいんですけどね。

どちらかというと『トッツィー』の主演の方が、まだ演じられる可能性があるかも、と思いました。事情があって女装している男性なんですが、俳優さんが素晴らしかった!男性の時は男の声だけど、一瞬で女性の自然な声になるので、本当に大変だと思いましたが、すごく印象に残りました。彼が主演男優賞の最有力候補です。

彼は作品の製作から深く関わっていたらしく、上演の何年も前から「この役ではこういう衣裳を着たい」「このシーンは絶対この色のドレスがいい」という話をしていたそうなんです。すごく役に思い入れがあるというのも素敵ですね。日本だと、俳優が衣裳に口を挟むことはあまり考えられませんが、ニューヨークの衣裳家の方は「俳優はどんどん言ってほしい」とおっしゃっていたから、そういう作品への関わり方もあるんだなと目からウロコでした。僕は、作品をゼロから創るより、今ある条件でどれほど良いものを創るかということに喜びを見いだしているので、もしやることになっても衣裳にまでは関わらないかもしれませんけれど。

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『生中継!トニー賞授賞式』放送の見どころは?

――出演は6年目、ナビゲーターとしては2年目です。去年の印象や反省点などはありますか?またそれらは今年にどう活かされるでしょう?

司会をしていると、長尺の番組なので最後の方は意識が飛びそうになっちゃうんですよ(笑)。でも本当にありがたいことに、僕はただ好きでこの世界に入ってこの仕事ができているので、大変なこともとにかく楽しい。トニー賞の発表は、この仕事をしていなくても家で観ていたいと思うほど興味があるんです。それが、司会をやらせていただいて、専門家の方に「これはどうなんですか?」と聞きながら発表を迎えられるなんて・・・もうプライベートなのか仕事なのかも分からないくらい、夢中で発表を見守っています。

司会というポジションには、最初はドキドキしましたが、去年は生田絵梨花ちゃんもサポートをしてくれたので、苦しかった記憶はないです。ただ、去年は現地とのやりとりがスムーズじゃなかったんですよね。生中継だと、どうしても映像の遅れが出る場合があるので、テレビを観ていてイライラする方もいると思うんですよ。去年は(宮本)亜門さんと海外との中継での掛け合いをしましたが、本当に難しくて・・・今年は、現地との掛け合いはないかもしれないです(笑)。

――番組でパフォーマンスされることも発表されました。今年はどんなことを考えていますか?

毎年手探りですが、何かしら歌って始まるんですよ。去年は歌をはさみながらの放送でしたが、新曲も歌う前などは大変で全然落ち着かなかったので(笑)。今年は、去年ほどは歌わないかもしれません。でもやっぱり、新作やリバイバルの曲を自分たちなりに歌いたいなあ。

というのも、トニー賞のすごくいいなと思うのは、風刺が効いてるところ。いつも司会者が個性で、替え歌をしたり、パロディしたり、ちょっと毒づいてみたり、批判してみたり、自虐してみたり・・・そういう替え歌がすごく好きなんです(笑)。自分たちもせっかくエンターテイメントのショウに携わっているので、ただ歌うより、自分たちなりの思いを込めたパフォーマンスを披露したいですね。

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◆放送情報
『生中継!第73回トニー賞授賞式』
【放送日】6月10日(月)午前8:00【二】【同時通訳】
【ナビゲーター】井上芳雄 【スペシャル・ゲスト】堂本光一
トニー賞アンバサダー(VTR出演):宮本亜門
演劇監修:影山雄成、コーナーゲスト:勝田安彦、金井勇一郎、VTRゲスト:生田絵梨花(乃木坂46)

【番組オフィシャルHP】https://www.wowow.co.jp/tony/

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この記事を書いた人

高知出身。大学の演劇コースを卒業後、雑誌編集者・インタビューライター・シナリオライターとして活動。

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