1990年代、長崎――。
2019年6月7日(金)に初日を迎える舞台『黒白珠』は、双子の兄弟が逃れられない運命の中でもがく家族の物語だ。葛藤し、すれ違い、ぶつかり合う双子の兄と弟。脚本は青木豪の書き下ろし、演出は河原雅彦が務める。
本インタビューでは、双子の兄役の松下優也と、この家に不穏な影をもたらす謎の男役を演じる植本純米をピックアップ。昨年新感線☆RS『メタルマクベス』disc1で共演した二人の息の合ったやりとりからは、純度の高い現場の空気が伝わってきた。
かなり笑える舞台です!?
――チラシのビジュアルは一見シリアスですが、実はコミカルな舞台だと聞いています。お二人もかなり笑わせる役だとか?
松下:コミカルですね~。稽古が始まる前は、公演期間中は精神的に落ち込んじゃうかもしれないなと思っていたんですけど、ここまで笑える作品になるとは、僕もまったく想像していませんでした(笑)。
植本:笑えるところがいっぱいあるよね。僕は物語の中心にいる役じゃないから、最高の添え物野菜としてお芝居に彩りを加えていきたいな。
松下:純米さんの演じる薮木(やぶき)は、9人の登場人物の中で最も外部の人間ですよね。でも薮木がいないと、そもそもこの物語は始まらない。
植本:そうだね(笑)。そういえば僕、タイトルになってる「黒白(こくびゃく)」ってやたらと口にするんですよね。それを言われた優也の演じる勇(いさむ)は、まったく理解できずに「コ、コク、ビャク・・・?」って間の抜けた反応をしてる。そういうのがおもしろいんだよね。
松下:勇はバカなんですよ。弟の光(ひかり)はすごく勉強ができて父親と同じ早稲田大学に行ってるエリートなんだけど、勇は正反対。仕事も転々として、家でぼーっとして、性欲高め(笑)。弟と比べられて多少はひねくれながらも、お父さんに甘えて暮らしていますね。
植本:こういう役は今までやったことあるの?
松下:近いのは『花より男子 The Musical』で演じた道明寺かな。ヌケてて、バカで、ボケ具合がちょっと似ています。
植本:ほんと良い意味でのバカで、俺は好き(笑)!優也のおもしろい部分がいっぱい出ている役なので、早くお見せしたいです。優也が舞台のセンターでカッコ良く立ってるんだけど、どこかカッコつけきれない感じがすごくイイ!今回の役をやってる優也は、橋本さとしくんみたいに、カッコいいのかカッコ悪いのか、ギリギリのラインなんですよ。
松下:自分でも分かります(笑)。演出の河原(雅彦)さんにも言われたんだけど、勇が雰囲気を明るくしないと、すごく暗くてしんどい作品になっちゃうんです。だから、勇が出てくるたびに「次どうなるの?」と楽しみに思ってもらえるようにしたいなと。ただ、こんなにバカでいいのかなぁとは思います(笑)。でも勝手にやってるわけじゃなくて、演出なので!
植本:それは、みんなそうやわ(笑)。
――勇と光の兄弟の対比が物語の中心にもなっています。光役の平間さんとは久しぶりの共演ですが、いかがですか?
松下:壮ちゃんは、仲はいいんですけど、僕とまったくタイプが違うんですよね。僕も僕なりに考えていますけど、彼はめちゃくちゃ考えてる。話していると「あれ、俺もそこまで考えんといかんのかな・・・」と思えてきちゃう。
植本:ははははは!確かに壮一は「ここはこう思うんですよ。だからこうなんじゃないかな?」っていつも真剣に話してる。またその時の優也の相づちが「あ、おう、うん、ぉう」みたいに適当なんだよね(笑)。
松下:ちゃんと聞いてはいるんですけど、自分の中にハッキリと答えがないのにその場の雰囲気で言葉を返すのも良くないかなと思うんですよね。俺の場合は考えすぎていいことはないから、壮ちゃんに「考えすぎじゃない?」ってよく言っちゃう。その感じがリアルに光と勇っぽいなと思います(笑)。
植本:ほんとに二人とも役にぴったりだよね。俺も壮一に相談されるけど、壮一の役についてうまい答えはできない。でも、相談することで壮一の中で解決したらいいなと思って聞いてる。本人も話し終わったらスッキリして「ま、いいかこれで!やるか!」ってなってるし・・・真面目なやつだよね。
――今回の役は、皆さん“あて書き”なんでしょうか?
植本:(青木)豪ちゃんは「自分は人がいないと書けないタイプ」だと言っているので、多少なり演じる人のイメージがあると思います。だからかな、優也は今回の勇役にすごく合ってるよね。普段話してても「勇」を感じる。役の上で、俺は勇に高圧的に接される役だけど、普段も優也からそんな印象受けるもん。
松下:普段は高圧的じゃないじゃないですか(笑)!・・・まあでも、お芝居では本気でいきますよ。演技中は純米さんに対しては、高圧的に接しやすいんです。
植本:それは嬉しいな。
世代を超えてぶつかり合う
――松下さんと植本さんと言えば、新感線☆RS『メタルマクベス』disc1で共演されていますね。お互いの印象をお聞きしてもいいですか?
植本:あの時は舞台上ではほぼ絡んでないし、人数も多いカンパニーだったから、よく分からなかったんだよね。優也は王子様の役だったから「近寄らないで」オーラが出てた気がする。
松下:出してないですよ(笑)!どっちかというと、先輩ばっかりの中でどうしたらいいか分からなかったんです。俺は「せんぱーい!がんばりましょー!」とか、人懐っこく言えるタイプじゃないので・・・興味はめちゃくちゃあるんですよ。
植本:俺は優也に近づこうとしてたよ。優也が楽屋に置いていたリラックスグッズが気になって、じろじろ見てたりした。でも優也は、俺のこと女装好きのおじさんだと思ってただろ(笑)?
松下:ないない、思ってないですよ(笑)!むしろ、役で女性の格好してるんだろうなと思ってたのに、純米さん自身が柔らかい方だったので、そこに意外性を感じていました。
――今回の舞台での絡みは?
植本:舞台上では多い方ではないんだけど、出演者が9人しかいないから、普段のコミュニケーションは多く取れているね。やっと優也のことが分かってきた。優也って、分からないことがあると先に進めないところがあるよね。それはとても正しいことで、無理して前に進まないのはすごくいいと思う。
松下:え、俺は前に進んでるつもりなんですけど・・・。
植本:あははは(笑)。壮一は「これはこうかな」って口に出して悩むんだけど、優也は立ち止まって考えてるように見えるんだよ。そういう時、頭の中では何を考えているの?
松下:例えば、河原さんに演出をつけていただいた時に、言われた言葉だけじゃなくて、河原さんがもっと深いところで何を考えているのかを知りたいんです。どういう風にすれば河原さんがイメージしているところに辿り着くんだろうって考えている時に、フリーズしているように見えるのかも。「とりあえずやってみろ」ができないので、一回自分の中にストンと落ちてくるまで考え込んでしまいます。
植本:なるほどなぁ。
――河原さんの演出はいかがですか?特に、純米さんは同世代としてずっと同じ小劇場界にいらっしゃいましたよね。
植本:30代くらいから、お互いに知っていましたね。河原くんは舞台上で全裸になって大騒ぎするような劇団の主宰だったから、今一緒に稽古してると「あそこからこういうところに来たんだな」と歴史を感じて感慨深い。本人は毒舌だし皮肉屋なんだけど、「本番までに間に合うかな」なんて言いながらも腹をくくっているなと感じるんです。みんなを安心させようと気遣ってくれてるよね。
松下:今回の座組は、大先輩ばかりなので、どんな無茶苦茶なことをしてきた人たちなんだろうという興味があります(笑)。
――平田敦子さんもまた同世代ですね。
植本:あっちゃんとは知り合って長いんですが、初共演なんですよ。稽古場でもそりゃもうパワフルで・・・さすがです!彼女もすごく真面目で、稽古場で悩んでる。優也も壮一もあっちゃんも、みんな分からないところはちゃんと突き詰めてやろうという俳優が集まっている現場だなと思います。
松下:皆さんが悩んでいる姿を見て、「俺も悩んでいいんだ」って思えたんですよ。これほど長く俳優をやってこられた方でもそんなに悩むなら、俺が無理して分かったフリをすることはない。もし分からなかったら素直に分からない自分を受け入れようと思いました。稽古は、悩んでいてもいい時間なんだなって。
――20代から70代まで、幅広い年代の方がいる座組ならではの刺激ですね。
松下:皆さん超越しすぎていて、もう先輩という概念ではないんです。そう・・・宇宙と一緒ですね。
植本:宇宙(大爆笑)!?
松下:ええ、宇宙と一緒です!僕の理解を越えているので、無理に理解しなくていいんだと思ってます。むしろ無理やり分かろうとするなんておこがましい。こう考えているので、もしかすると、皆さんには心の中でいろいろ思われているかもしれませんが・・・僕は僕で、一生懸命がんばるのみ。皆さんに対する一番のリスペクトは、自分に与えられたことを全力でやることだと思っています。
植本:いや、先輩方はすごく楽しそうだよ。風間杜夫さんも高橋惠子さんも村井國夫さんも、若い子たちの芝居を本当に楽しそうに見てる。惠子さんなんてニコニコしながら稽古を見ていて、時々俺と目が合うと口パクで「おもしろいね」って言うんだよ(笑)。
――皆さん、本当にお芝居が好きなんですね。
植本:そうなんだよねぇ。同世代同士でバチバチと火花を散らすことはあるけど、この作品は幅広い世代がぶつかっていく。すごくいい環境です。それから、優也も壮一も歌って踊れるのに、それを封じてストイックに芝居をしてる。その様子もおもしろい。
松下:今や、歌やダンスがないのは当たり前になってきたので違和感もないです(笑)。それに、ここは芝居の現場なので、歌やダンスのことはあえて忘れて演技に専念ですよ。
――芝居の魅了を楽しめる舞台になりそうですね。
植本:個人的には、先輩3名のお芝居をぜひ観ていただきたいですね。やっぱり、すごいんですよ。長く芝居をやってきた方たちだけある!という力強さを感じます。そして、それに若手が堂々と立ち向かっていく。いろんな世代の人が、あて書きされた自分のための役を演じて、舞台上で精一杯生きている。そんな芝居の良さが詰まっている作品です。だから稽古がすごく楽しい。どんどん台本が追加されて覚えるのは大変なんですけど、それすらも楽しいんです。この楽しさはきっとお客さんに届くので、ぜひそれを感じに来ていてだきたいですね。
松下:お芝居については、先輩方の演技を堪能していただきたいですね。僕個人としては、コメディではないけれども、なるべく笑って帰ってもらえたら嬉しいなと思っています。この『黒白珠』は、生きてきた人生や環境を振り返って考えられる作品です。終わった後に「あれはどういうことだったんだろう」といろいろ考えてもらうのも、楽しいと思います。最後までじっくり見てもらえるよう、がんばります。
◆公演情報
『黒白珠』KOKU BYAKU JU
【東京公演】6月7日(金)~6月23日(日) Bunkamura シアターコクーン
【兵庫公演】6月28日(金)~6月30日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
【愛知公演】7月6日(土)・7月7日(日) 刈谷市総合文化センター アイリス 大ホール
【長崎公演】7月10日(水) 長崎ブリックホール 大ホール
【久留米公演】7月13日(土)・7月14日(日) 久留米シティプラザ ザ・グランドホール
【脚本】青木豪
【演出】河原雅彦
【出演】
松下優也、平間壮一、清水くるみ、平田敦子、植本純米、青谷優衣、
村井國夫、高橋惠子、風間杜夫
【公式HP】https://kokubyakuju2019.wixsite.com/official
(撮影/河野桃子)