“幻の童話作家”ともいわれる大海赫(おおうみあかし)の絵本「ビビを見た!」が、2019年7月に舞台化される。主人公は、盲目の少年ホタル。ホタルは、突然7時間だけ目が見えるようになるが、同時に彼のまわりの人々は光を失ってしまう。大パニックの中、突如、町が正体不明の敵に襲われる。そこでホタルは、やぶれた羽と美しい触覚を持った緑色の少女・ビビと出会う・・・。
その世界観は、よしもとばななさんが絶賛し、Amazonのカスタマー・レビュー驚異の星4.9などの評価も頷けるほど「絵本」という言葉におさまらない。そんな強烈な作品を、作家・演出家・俳優の松井周が独自の視点で脚本化。ホタル役を演じるのは、岡山天音。これが舞台初主演となる岡山に、本作を読んだ強烈な印象や、出演への思いを聞いた。
歪(いびつ)で美しい、悪夢のような物語
――原作絵本を読んでいかがでしたか?
すごく忙しい時期に、撮影現場で読んだんです。しかも、当時撮影していた作品のラストシーン直前という時だったんですが、周りの音が聞こえなくなるぐらい、絵本の世界に飲みこまれてしまいました。もともと絵本が好きで、子どもの頃にいろいろと読みましたけれど、こんなに強く引き込まれたのは初めて、というくらい衝撃的な体験でした。
――「衝撃」とは、どんな感覚ですか?
絵本の世界に引きずり込まれる感覚がとても強い。ビビ役の石橋静河さんが「美しい悪夢のよう」とコメントされていますが、本当にその通り。冷静に考えると現実離れした内容なんだけれど、読んでいる最中は現実としか思えないんです。見たくない物に力づくで向き合わされる感覚のような・・・本当に夢を見ている感じでした。
――イラストもインパクトがありますね。1ページ1ページが力強くて、引力があります。
この、悪夢と距離が測れない感じ。子どもの頃、没入力が高い頃にはそういう近い距離感で読んでいましたが、大人の今になって、すごい力で捕まえられる感覚は、何と言うか・・・言葉にしきれません。
――物語の内容についてはどう思われましたか?
美しさをとても感じました。絵本なので、現実とは違う世界観ではあるのですが、物語から現実的な具体性を引いてみると限りなく現実に近い。僕たちが暮らしている現実の中にある“美しいもの”を描こうとしている絵本なんじゃないかなって思ったんです。歪(いびつ)で怖いんだけど、とてつもない美しさもちゃんとあって・・・怪物みたいな絵本ですね(笑)。
――その“怪物みたいな絵本”を演じることについては、どんな思いですか?
それが、分からないんですよ。舞台は8年ぶりなので、これまで映像の現場でもらった武器で果たして歯が立つのかがまったく想像できないんです。この絵本を人間の僕の肉体で表現するとしたら、どの道をどういう風に歩いて行けばいいのかの見立てがつかない。でも、それはすごくおもしろいことです。ずっと舞台をやりたかったので、ものすごく良い場所をいただいたと感じています。この作品を演じられることだけでなく、この絵本を舞台にすることそのものも最高だなと思っています。
――念願の機会なんですね。
はい、やっと実現できて嬉しいです!前回は10代で初舞台だったので、地に足付かないまま終わってしまったんです。今は、映像の経験も積んだし、大人にもなったので、当時の感覚とはぜんぜん違う気持ちで舞台にのぞめるので楽しみです。今、自分が持ってる引出は全部開けて誠実にトライしたいな。今度はちゃんと地に足をつけて、お客さんに届くように演じたいです。
――今の岡山さんにとって“舞台”とはどういうものでしょう?
一度だけしか経験していないからなんですが、映像とはまったく違う次元にあるものだという気がしています。そこに身を置いたらどうなるんだろう・・・。怖いけど、知らないことをたくさん知ることができるんじゃないかという期待がものすごくあります。舞台は稽古期間が長いので、ちゃんと周りの人を好きになれる時間が用意されていますし。みんなとちゃんと呼吸を合わせて、お客さんの手に届く頃にはクオリティの高いものを用意したいですね。せっかく贅沢な機会に恵まれたんですから。怖さもあるけれど楽しみです。
度肝を抜かしてもらえる舞台に
――台本を読んでの印象はいかがでしたか?原作絵本を「こう舞台にするのか!」と驚くアイデアや解釈が散りばめられている台本だなと思ったのですが。
こんな舞台の表現は観たことない!と感じるものになると思いました。どんな仕掛けがあるのかは、あまり話したくないぐらいおもしろかったです。お客さんとして観に行けたら、もう冒頭からゾクゾクするでしょうね。原作絵本を開いた時の“目が離せない感覚”が台本にもあって、それが絵本とは違う形で表現されているんです。楽しんでもらえる作品になる予感がします。
――絵本とは違って、演劇だからこそできる表現がありますよね。
ですね。舞台って“鑑賞する”のではなく“体感する”という経験ができることが醍醐味だと思うんですよ。その舞台の性質をものすごく利用している作品ですね。それから、登場人物たちがものとてもおもしろいのも見どころかな。
――まずビビが「緑色の女の子」という設定もインパクトがあります。ビビ役の石橋静河さんとは初共演ですね。
はい。映画などを見た印象では、すごく芯のある方だなという勝手なイメージを抱いています。しっかりと立っている感じ。ビビという物語の芯にもなる役を演じる上で、ちゃんと地に足をつけて一つの世界を創ってくださるんじゃないかと期待しています。一緒に舞台に立てることが嬉しいですね。
――演出の松井周さんは「岡山天音さんと石橋静河さんは絵本で考えていたのとぴったりのキャスティング」とおっしゃっていました。ご自身ではどう思いますか?
どうなんでしょう・・・僕の演じるホタルは子どもですが、僕自身にも少年的なところはあるのかな。たぶん、脳みそって大人になるにつれて大人の形になっていくと思うんですけど、僕はうまく大人の形にならないまま大きくなっちゃった感じがしてるんですよ(笑)。「なんか生活しづらいなぁ」という感覚は、少年性からきているんだと思います。それは何が根源にあるのか、この舞台を機に客観的に眺めてみたいですね。せっかく松井さんが「ぴったり」と言ってくださっているので、ちゃんと自分自身を活かして演じられたらいいですね。
――その松井さんとは、舞台に向けてどんなお話をされましたか?
「フラットな状態で稽古に入ってくれたら嬉しい」とは言われました。たぶん、僕が久しぶりの舞台であることも踏まえて、準備に力を入れて役を固めてくることはないよという意味で言ってくださったんだと思います。僕もせっかく松井さんとご一緒できるのなら、ちゃんと松井さんのカラーを自分の体の一部にして本番に臨みたいので、決めすぎず、思い切って飛び込みたいです。
でも、まだゆっくりお話してはいないので、どんな舞台になるのか、どんな稽古になるのかも未知です。松井さんご本人のこともほぼ知らないんですよ。変態だ、っていうのは聞いているんですけど。変態というのは、たぶん舞台表現についてという意味です(笑)。この作品に出ることが決まった時に「松井さんの舞台なんだ、いいな!」と言ってくださる方がとても多かったんです。たぶん、とても個性的で独自の作家性の強い演出家さんなんじゃないかなと予想しています。ご自身でも脚本を書かれますし、俳優もされている方ですから。
――演じる上で、同じく俳優の方が演出されることは心持ちが違いますか?
やはり、共通言語は多いんじゃないかなと思います。客観的に演出をされる方と、実際に主観として俳優経験がある方だと、見てきたものが全然違うと思うので。近い距離でコミュニケーションが取れるのでは、という安心感はあります。
――この作品を松井さんがどう演出されるか、岡山さんがホタルとしてどうその世界を生きるのか、楽しみです。
今、台本の段階ですでに度肝を抜かす材料が揃ってるので、全力で体現していきたいですね。そこに期待していただきたいです。そもそも、歪な美しさを持った、とてつもない力を秘めた絵本が原作です。一出演者が言うと偉そうになってしまうかもしれませんが・・・観てくださった方の人生の選択肢を増やす、そんなポテンシャルを秘めた世界観だと思います。少なくとも僕は、この絵本に出会って衝撃を受けました。
観終わった後も『ビビを見た!』の欠片が胸の中に残ったまま、そのあとの日常を過ごしてもらえるような作品になるんじゃないかなぁと、僕自身も期待しています。だからぜひ、おもしろ半分に観に来てビックリしてほしいですね(笑)。ここまで言ってしまったので、期待に応えられるように、ビクビクしながら全部さらけ出したいです!
◆公演情報
KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『ビビを見た!』
2019年7月4日(木)~7月15日(月) KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
【原作】大海赫(おおうみあかし)
【上演台本・演出】松井周
【出演】
岡山天音 石橋静河 樹里咲穂 久ヶ沢徹 瑛蓮 師岡広明
大村わたる 熊野晋也 岩岡修輝 長尾純子 中島妙子 小林風花
ヘアメイク:森下奈央子
スタイリスト:岡村春輝
衣装/シャツ\33,000、スウェット\33,000(ともにohta/TEENY RANCH)、パンツ\27,000(no./TEENY RANCH)、その他スタイリスト私物
【問い合わせ先】
TEENY RANCH
TEL:03-6812-9341