2014年に出版された小説『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』。「ぼく明日」と呼ばれているこの作品は、2016年に映画化、2018年には朗読劇として上演。再演決定後も好評を受け、追加公演が決まるなど、人気を博している。
その追加公演で、高寿(たかとし)役に決まったのが、廣瀬智紀。廣瀬が、朗読劇として本作の世界観をどう出していくのか、また役に対してどのように向き合っているのか、稽古が終わってあとは本番のみという今、感じていることを聞いた。
――昨年夏に上演され好評だった『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』の再演に、追加キャストとして出演が決まった時の気持ちをお聞かせください。
もともと原作を知っていましたし、初演では知り合いの役者さんが出演されていたので気になっていた朗読劇でした。“恋”の話を朗読劇で行うスタイルにすごく興味を持っていたので、今回の再演で追加キャストとして呼んでいただけたことを嬉しく思っています。
――原作をご存じだったとのことですが、脚本を読んでどう感じましたか?
すごく純粋な印象を受けました。普通の恋愛のように、一緒に歳を重ねられる運命にない高寿と愛美(えみ)が出会ってしまったのはすごく切ないですけれど、その一方で二人の幸せが密に1ヶ月間で表現されています。幸せであればあるほど別れは切ないものですが、高寿が歳をとっていくにつれて、切なさよりもいい思い出になっていくと思うんです。人生の中で1ヶ月は一瞬ですが、その一瞬を自分はどう表現できるのかということを楽しみに、今回参加させていただいています。
――高寿はご自身と共通するところはありますか?
僕は高校時代男子校だったので、女子と交流する機会がなくて。だから女性と話すことに苦手意識がありました。僕、結構うぶだと思うので・・・そういうところは、高寿と重なるところがあります。女性に対してとまどったり緊張しちゃったりする高寿を通じて、僕自身の高校時代を思い出します。
――それでも高寿は思い切って愛美に声を掛けました。そこは勇気がありますよね。
高寿がそういう行動をとった気持ちもすごく分かります。一歩踏み出すことによって、違う出会いや、何かが変わる瞬間と出会えるのかもしれません。
――いろいろなご経験をされている中で、朗読劇の難しさや通常の舞台との違いは感じていますか?
これまでにもいろいろな朗読劇をやらせていただいていますが、演出家の方や作風によってガラッと変わるので、一概にここが違うということはあまり言えません。ただ、自分の言葉で情景や景色を伝えなければいけないので、脚本に書かれている文字をより一層大切に、自分の中で摘み取るようにしています。普段だったら台詞を覚えて自分の体にしみこませますが、朗読劇なので台詞を覚えたくないんです。覚えるなら普通に芝居をすればいいと思ってしまうし、だからといって、ただの本読みにしたくない。
意味のある時だけはこうやって(脚本から顔をあげて)相手に話しかけますが、そればかりだと、ただの本読みになってしまいます。基本的に読むことに集中したいという意思がありますし、それによって朗読劇の世界観を舞台上に作りたいです。すごく難しいですけれど、それを自分の中できちんと意識しておくだけで全然違うと思っています。
――今回、演出を手掛けている劇団ロロの三浦直之さんからは、どんなリクエストがありましたか?
相手の方と目を合わせることと、名前を呼ぶことです。今回の作品の中では、手をつなぐとか抱きしめるとかそういった動作がないので、二人の距離を表現する一つとして、名前の呼び方があります。今回も、僕の呼ばれ方は南山くんから高寿くんになって、高寿になっていきます。そういうところで距離感がグッと近づいていることが分かるので、二人の距離感を表現できるように、名前を呼ぶ時は丁寧に大事にしてほしいと言われました。
――高寿と愛美の間にある不思議な時間の流れが物語の軸になりますが、演じていていかがですか?
純粋に僕はこの脚本の中を生きているだけなんですよ。高寿の時間軸をもとに書かれている脚本なので、真実を知らされた時は知らされた時で新鮮なリアクションができますし、それを乗り超えた時に愛美との絆がギュッとなった姿も出せます。芝居をする上では、やりやすい脚本だなと思っています。
――愛美役の吉倉あおいさんとは初共演ですが、稽古を終えて印象はいかがでしたか?またどんな舞台にしていきたいですか?
キャストは二人しかいないので、息を合わせなければいけないというのが前提にあります。吉倉さんが演じる愛美が、僕が想像している愛美にすごく近いので、やりやすいしフラットに入っていけました。彼女自身のキャリアもあると思いますが、すごく安心感があります。二人でつむぐお話ですから、二人で作っているという意識を持って臨めればと思います。
実は、最初にこの作品を映画で観た時は、わりと他人事だったんですよ。「かわいそう、切なそう」と感じるのですが、感情移入をしたり涙が出たりはしなかったんです。僕は普段からどんな作品を観ても、自分の立場に置き換えることがあまり得意ではないんです。
でも、今回自分が稽古を通してこの世界の中に入ったとたん、「つらい!」ってなりました。高寿という役は、すごく重いものがあるなと思いました。先ほども言いましたが、1ヶ月に二人の密な幸せがつまっています。別れが待っている運命ではあるけれど、出会うべくして出会えたということは、すごく素敵なことだと思うんです。
サラッとした恋愛であれば、生で観ているお客様が感情移入できないですし、二人がどれだけ幸せに見えるかによってこの作品の見え方が変わるので、オーバーにこの世界の中に浸ろうと思っています。
――オーバーに、というのは?
自分が翻弄される側なので、低いところと高いところを明確に見せちゃおうかと思っています。また今回のストーリーの軸は高寿の目線です。いつもなら女性に感情移入するところを、女性のお客様も高寿の目線で見ていくことになると思うので、僕が丁寧にお客様を導いてあげたいという気持ちがあります。
――廣瀬さんに導いてもらえれば、より物語が心にしみそうです。
今回はいろいろな分野で活躍されている方々が出演されますが、僕はこれまで舞台で芝居をする経験をたくさん積ませていただいたので、実際にお客様がいらっしゃる空間で舞台を作っていくライブ感を楽しもうと思っています。
極端な話をしてしまうと、舞台上で小さなミスをしたとしても「そんなこと、どうでもいい」と言える世界を作っていきたいです。思い切りその世界に入り込んでいれば、小さなミスくらいそんなに気にならないじゃないですか。・・・もちろん本当にミスをした時の保険として言っているわけではないですよ(笑)!
1回だけの公演ですから、「ああすればよかったな」と後悔しないように楽しもうと思っています。
――最後に、公演を楽しみにしているファンの皆さんへメッセージをお願いします。
女性だったら恋に対して抱いているロマンチックなイメージや、こういう恋があったらいいなという理想がたくさんあると思います。でも僕は、運命の恋というのは、実は男性のほうが感じるところがあると思っていて。僕自身もすごく運命を信じるタイプです。
この作品もそうですが、運命的な出会いを通じて、明日への一歩を踏み出せるということは、皆さんにもあると思います。例えば、私も素敵な恋を探してみようとか、明日からも仕事をがんばろうとか、彼氏にもうちょっと優しくしようとか(笑)。この舞台を観に来たことによって、明日への一歩を踏み出せるような・・・それはどんな一歩でもいいので、踏み出すきっかけに絶対したいと思います。ぜひ楽しみにしていてください。
◆公演情報
朗読劇 恋を読む『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』
2019年3月12日(火)~3月17日(日) オルタナティブシアター
【脚本・演出】:三浦直之(ロロ)
【出演(公演順)】
荒牧慶彦、三森すずこ/黒羽麻璃央、山崎紘菜/細谷佳正、秋山ゆずき/木村達成、清水くるみ/梶裕貴、高月彩良/蒼井翔太、石川由依/松田凌、内田真礼/廣瀬智紀、吉倉あおい
各ペアの最終公演の模様はニコニコ生放送で生中継(3月14日を除く)、さらにテレ朝チャンネルにてTV初放送が決定
(撮影/咲田真菜)