大植真太郎×森山未來×平原慎太郎インタビュー『談ス』全国ツアー「テーマは境界線」

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大植真太郎×森山未來×平原慎太郎『談ス』インタビュー

この不思議なタイトルは、大植真太郎、森山未來、平原慎太郎の3人による「談ス・シリーズ」第3弾だ。2014年に同メンバーで『談ス』を発表した後、第2弾として『忘れろ/ボレロ』を上演。今回は、3年半の時を経て再び集った3人が5月から6月にかけて全国ツアーを開催する。

構成も手がける大植真太郎は、スウェーデンを拠点にダンサー・振付家として世界各地で活動。森山未來は俳優としての活躍だけでなく、2013年には文化庁交流使としてイスラエルで1年間ダンスに打ち込んだ。平原慎太郎は、演劇や現代美術など他分野のアーティストとのコラボレーションも多い注目の振付家・ダンサーだ。この3人の個性がぶつかり合う、ダンスとも演劇とも言えないジャンルレスな作品(タイトル呼び名不明)について聞いた。

大植真太郎×森山未來×平原慎太郎『談ス』インタビュー_2

目次

このタイトル、なんと発音したらいい?

――まずこのタイトル、なんと発音すればいいでしょう?

大植:どう読んだらいいのかわからないですよね。どうしてこんなタイトルになったかというと、きっかけは未來くんが「てりむくり」という言葉を出してきたんです。

森山:そう。もともと日本の屋根は「むくり(起り)」という丸く膨らんでいる建築様式だったんですけれど、中国から「てり(照り)」という屋根が反った様式が伝わってきたんです。それがいつの間にかどちらでもない折衷案として「てりむくり(照り起り)」という新しい様式ができたそうなんです。編集して少しずつ自分たちの様式を確立していくのは、すごく日本らしいですよね。

大植:日本人の中には違うものをかけ合わせてバランスをとっていくという考え方があるんじゃないかと思い、観た人が自由に読めるタイトルにしました。僕たちもタイトルの読み方を決めてないんです。日本語は右からも左からも縦でも横でも読める。それは日本語が中国語や西洋の言葉などいろんなものを取り入れた結果ですから、タイトルには日本のあり方をテーマとして込めました。

森山:とりあえず、今日のところはどう読む?

平原:・・・オスしメスる。

森山:えっ、何て?

平原:オスしメスる。

大植:ああ・・・『雄し雌る(凸し凹る)』ね!じゃあ、今日はそう呼ぼう。凸が男性で、凹が女性ね。

森山:『凸』と『凹』はもともと建築の用語みたいですが、男女の象徴として使われることもありますよね。横浜美術館で開催中の『ヌード NUDE-英国テート・コレクションより』展で僕たち3人が一夜だけのパフォーマンス(※4月5日に開催された)をさせていただくことが決まってから派生したイメージもありますね。

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平原:作品を創るときにはタイトルの「凸」「凹」の形からヒントを得てイメージを膨らませているかもしれない。

大植:「凸」と「凹」がくっついて合わさった時に、その境目には「境界線」がうまれる。その「境界線」という言葉がひとつのテーマになっているよね。子どもの遊びで陣地を取ったり線を引いたりするけれど、遊んでいるうちにその線が曖昧になっていくような感覚を作品から感じていただけたらいい。難しい作品ではありません。

――境界線というキーワードはどうやってうまれたんですか?

大植:ずっと、朝と夜の境目や、どこからが胃でどこからが腸なのかといったことが気になっていたんです。ある場所に線を引くことによって境界がうまれるけれど、「境界線」って具体的な線のことだけでなく、心の壁だったり、人間関係の壁だったり、男女関係においての一線だったりもする。僕たち3人の体を通してそんな目に見えない境界線に触れてもらえればいいなと思います。今は頭の中に「恥ずかしい」というワードも浮かんでいて、それも創作のヒントになりそう。

森山:「恥ずかしい」という言葉は『ヌード展』に出るからイメージしたんだよね。日本にはポルノは多いけど西洋画のようなヌード作品はあまりない。西洋のヌードはアダムとイブがリンゴを食べてしまったことによって体を隠すようになったという象徴で、ヌードは解放であり、罪の意識が逆説的に描かれています。でも日本は全裸に対してそういった宗教的な感覚はないはずなので、あるとすればそれは「恥ずかしさ」じゃないかな、と。

僕が思うに、日本人は集団からはみ出てしまったら恥ずかしいという気持ちが強いような気がします。そのうえで「どこまでなら恥ずかしくて、どこからなら恥ずかしくないのか?」というふうに遊べてもいいなと。そこにあるのも一つの境界線だと思うんです。

大植:あと、モノを構築する過程も見せたいね。『てりむくり』がうまれた当初は「なんだそりゃ」と言う人もいたかもしれないけど、だんだん様式が交わってそれが文化になっていく。そのようにモノができあがっていく様子を1~2時間の作品の中で表現できたらいいですね。今まではお客さんと会話をするように作品を創っていたので、何かを作り上げる瞬間はお客さんには見えなかったんですけれど、今回はその過程も見せてみたい。それがお客さんにどう受け止められるかは分からないですけれど。

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「二人だけで練習させてるとどんどんおちゃらける」(森山)

――どのように稽古(リハーサル)をしていますか?

森山:今は「境界線って一体なんだろう」と考えていますね。例えば、土地を分けた時の境界線は何を意味するんだろう、恋が愛に変わるその瞬間とはなんだろう・・・と、いろんなキーワードを使っています。

大植:能よりちょっと早いぐらいのゆっくりしたスピードでいろいろと試してみたり。話し込んじゃって体を動かさない日もよくありますよ。今思っていることやネットで調べたことを話して「ああでもないこうでもない」と言葉で理解していくことを繰り返しています。基本的には、話しながら創る。それが『談ス』。

森山:以前はとりあえず体を動かして素材作りを優先させることもあったんですけれど、今回は諦めずに話し合って何ができるのかをじっくりと丁寧に探ることが多くなりましたね。あまり乱暴に進めたくない。

平原:でも僕はまったく提案してないですよ。レシーバーなので、来た球を打つ。

大植:僕も打たないので、未來くんがサーブを打って自分で(スパイクを)打ってるよね。

森山:二人だけにクリエーションを任せるとどんどんおちゃらけるからね。

大植・平原:(笑)。

――チラシもずいぶん楽しそうですよね、平原さんが裸にゴザを巻いていて。

平原:あれは・・・チラシ撮影の時、衣装アシスタントの方々がすごく真剣にお仕事をされていて、僕らのやることにニヤリとも笑わなかったんです。ただただ場を温めようと思って待ち時間にゴザを巻いただけです。

大植・森山:(爆笑)!!

森山:カメラマンさんもノリで撮ってたよね。

平原:だから僕はあの写真をチラシに使うの嫌だって言ったんです!でもリーダー(大植さん)が「似合ってるよ」って言うもんだから、じゃあ使ってくれと(笑)。

森山:かなり嫌そうだったね(笑)

平原:最後にはアシスタントの方も「ゴザの人がおもしろかったから舞台観に行きたいです」と言ってくれていたから、まあいいかな(笑)!

――チラシは着物を着て和風ですが、日本がコンセプトですか?

森山:チラシを作る時にデザインのイメージが全然まとまらなかったんですよね。昆虫採集みたいなチラシにしようかなんて意見も出たり。でもコンセプトとしては日本の『てりむくり』があって、皆の髪の毛も長かったり辮髪だったりなので、なんとなく着物とかがいいんじゃないかというざっくりしたアイデアから始めました(笑)。けれど、思いのほか・・・大植さんに着物が似合わなくて。一見侍っぽいから、車夫の格好とか似合いそうですけど、なんか変。それは大植さんが人生の半分以上をスウェーデンで生きているからじゃないかな、と。

離れているからより日本のことを考えているんだけど、ビシッと日本らしくならなかったのはすごく興味深い。日本に生きている僕や平原さんの方が日本については無自覚かもしれないのに、日本のことをものすごく考えている大植さんよりもスッと着物を着られるということがおもしろかった。稽古中は、生きてきた環境の異なる目線を重ね合わせながらいろいろなことを考えていく時間でもあります。

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<しゃべって創るダンス=『談ス』

――『談ス』第1弾、第2弾と比べて変化はありますか?

森山:第一弾『談ス』と同じメンバーですが、あれから3年が経ってそれぞれの異なる経験や積み重ねから生まれてくるものはもちろんあります。基本的には3人の今の関係性や役割をベースにクリエーションは進行していますね。

平原:3人の関係性が3年前より進んでいる感じがしてすごく気持ちいいですね。

――森山さんのみ第2弾に出演していませんが、再び『談ス』に関わっていかがですか?

森山:最初は『談ス』という単体公演だったのに、いつのまにシリーズになったんだ、と(笑)。

大植:いやあ、第一弾のタイトルになった『談ス』という言葉は作品そのものにもぴったりだっただけでなく、しゃべって動いてまたしゃべってを繰り返して作品になるという創り方が言葉として表せたと感じたんです。この『談ス』を継続していけばひとつの形になるんじゃないかと考えて、第2弾の時にシリーズ化したんですよ。

森山:どんなタイトルか、ということは、作品のコンセプトにすごく重要な影響を及ぼすんですけど、最初に『談ス』というタイトルがついた時には大まかすぎてコンセプトが定まらないなと思ったんですよ。でも作品ができあがってみると、『談ス』という言葉は大植さんがやりたいことに非常に近い言葉になんだろうなと感じました。というのも、大植さんの作品は基本的にあまり音楽は使わず、お互いの呼吸などでリズムやメロディを生んだりするから、その呼吸や会話も含めてダンスつまり『談ス』なんだろうな。

それが第2弾となり、僕は出演しなかったけれど栃木で稽古合宿をしているところに遊びに行ったんです。そこで創られている作品は、第1弾の時に3人で創作していたのと同じように、出演者の関係性から生まれるドキュメンタリーのようでした。

平原:未來くんのいない4人のダンサーでは第1弾とバランスが変わって、大植さんの発言の仕方や態度も変化した。僕も発言をすることが多くなったしね。そうやって関わり方や人間性が変化するのはメンバーが固定されたカンパニーではできないことで、大植さんのもとに人が集まる醍醐味。今回再びこの3人になるとまたバランスが変わるので、それが作品に反映されるのは一つのおもしろさですね。

森山:ただやんちゃな男3人が楽しそうにしているだけでなく、作品コンセプトをしっかり前にうち出せればいいね。とはいえ、僕らのラフな空気感は持ったままになるよう丁寧に探っています。

――前回は15ヶ所でしたが、今回は全国17ヶ所弾丸ツアーですね。

大植:この前も楽しかったし、今回も楽しいだろうな。いろんな場所で『談ス』を観ていただけることも良いし、ツアーをすることでもしかしたら地域と地域が繋がるかもしれない。違う地域で観た人が『談ス』を共有することで新たな繋がりみたいなものが生まれるかもしれません。今後もツアーは日本に限らずなるべく実現して行きたいですね。

森山:『談ス』であれ何であれ、この3人を東京でしか観られないわけではない。日本を回っていく中で、前にも来てくれた人たちがまた来るぞと根付いていくのがおもしろいな。『談ス』に限らず、何かを鑑賞する機会は地方の方にとって少ないのは事実でしょうから、それが観られる機会であると共に「あのわけのわからない3人がまた何かやらかしに来たな」と思ってもらえるとすごくいい。『談ス』シリーズはもう3回目ですから、少しずつ各地で存在が根づいていくといいですね。

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◆公演情報
談ス・シリーズ第3弾『凸し凹る』
【東京(中野)公演】5月15日(火) なかのZERO 小ホール
【松本公演】5月16日(水) まつもと市民芸術館 実験劇場
【東京(町田)公演】5月19日(土) 町田市民ホール
【新潟公演】5月20日(日) 新潟市民芸術文化会館(りゅーとぴあ)
【埼玉公演】5月21日(月) 埼玉会館 大ホール
【仙台公演】5月22日(火) 電力ホール
【札幌公演】5月24日(木) わくわくホリデーホール(札幌市民ホール)
【名古屋公演】5月26日(土) ウインクあいち 大ホール
【兵庫公演】5月27日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
【徳島公演】5月29日(火) あわぎんホール(徳島県郷土文化会館)
【岡山公演】5月30日(水) 岡山県天神山文化プラザホール
【広島公演】5月31日(木) JMSアステールプラザ 中ホール
【京都公演】6月1日(金) ロームシアター京都 サウスホール
【大阪公演】6月2日(土) ナレッジシアター
【福岡公演】6月4日(月) 都久志会館
【静岡公演】6月6日(水) グランシップ中ホール・大地
【東京(大手町)公演】6月7日(木)~6月11日(月) よみうり大手町ホール

(撮影/河野桃子)

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この記事を書いた人

高知出身。大学の演劇コースを卒業後、雑誌編集者・インタビューライター・シナリオライターとして活動。

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