第1回企画「舞台の仕掛人」<後編>ネルケプランニング代表取締役社長・野上祥子の“人生に一石を投じる提案”

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エンタステージの“いつもとはちょっと違った視点”で舞台を紐解いていこう!という新企画「舞台の仕掛人」。第1回目のゲストスピーカーとして登場してくださったネルケプランニング代表取締役社長の野上祥子さんのインタビュー後半では、「オーディションについて」や「今、抱いている思い」などを伺いました。

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――インタビューの後半では、キャスティングについて別の視点から伺っていきたいと思います。前半では、「オファー」の場合をお話いただきましたが、もう一つ「オーディション」を野上さんがどんな目線で見ているのか、気になっている方が多かったです。「オファー」をする場合と「オーディション」を行う場合には、どんな違いがあるんですか?

これはもう、本当にケースバイケースなので一概には言えないのですが、新しい力を見つけたいという場合は、オーディションを行うことが多いです。

――オーディションを行っていることを多くの方がご存知なのは、ミュージカル『テニスの王子様』(以下テニミュ)でしょうか。

そうですね、テニミュは新しい出会いを求める側面が強く、新人でも原作のキャラクターに近いかどうかを第一として、枠にとらわれない魅力のある役者を求めています。テニミュは今年で15周年になるのですが、15年間、ひたすらオーディションをやってきました。

――原作に近い方を見つけるために、まず野上さんはどんなことをされるんですか?

当たり前ですが、原作があるものはそれを読み込みますし、台本だけの場合はそれを徹底的に頭に叩き込んでイメージします。テニミュに関しては、先ほどお話したように、すでにアニメで先にキャスティングを経験して情報が頭に入った状態でしたから、イメージが湧きやすかったですね。そこで心がけているのは、「こうでなければならない」のではなく、「こうだったらいいな」というプランを立てること。あまり初めから決め込み過ぎないようにしています。

――そのイメージを作るには、どんな力が必要なんでしょうか。

一番必要なのは、読解力だと思います。漫画原作でいうと、台詞と台詞の間や、コマとコマの間に何が動いているのか、自分で読み込む力。何が大事なのかを素早く掴む力。
これは、人を見る時も同じで。オーディションの時は多人数とお会いするので、短い時間の中で何を見なければいけないのか、瞬間的に掴めるものを大事にしています。

――そうやって掴んだイメージを元に、合う人を探し始めるんですね。

キャスティングの第一段階として、募集の際、各事務所さんに役のヒントとなるようなキーワードをお渡します。「身長は○○cmぐらい」「衣裳は袖なし」「カツラをかぶる役」「必要なスケジュールはいつからいつまで」など。このキーワードは、なるべく細かく提示するようにしています。ほかのお仕事との兼ね合いもあると思いますし、何より細かくお願いした方が、事務所さんやご本人が、オーディションを受けるかどうか判断していただきやすいと思うので。

――それは、公演のどれぐらい前に行われるのでしょうか?

公演の1年前には決めておけるとベストですが、ケースバイケースです。早くオーディションを始めるメリットとしては、2.5次元舞台であれば、決まった方にキャラクターに寄せていく作業をしてもらう時間を作りたいからなんです。また、本番を迎えるまでに必要なトレーニングにも取り掛かっていただきたいですし。もちろん、急遽動き出す案件もありますが・・・(笑)。

――オーディション自体は、どれぐらいかけてやるのでしょう?

こちらも公演によるのですが、書類審査から始まって、大体4次審査ぐらいまでやります。決まりきらなくて5次審査までやることもありますね。いい人が見つかるまで続けるので、数ヶ月かかることもあります。

――書類審査には、どれぐらいの応募が来るのですか?

公演にもよりますが、大体500~600人くらいの書類が届きます。その段階で、大変申し訳ないのですがある程度絞らせていただいています。

少し話が逸れてしまうのですが、15年前テニミュがスタートした当初は、なかなか応募が集まらなかったんですよ。こちらの説明も足りていなかったと思うのですが、「漫画」を「演劇」にすることを、なかなか想像していただけなかったんです。各事務所さんにお願いをして、やっとプロフィールをいただけていた感じで。だから、今でこそ「(声をかけてもらって)ありがとうございます」と言っていただけるけれど、こちらとしては、出演を検討してくださったことにとにかく「感謝」しかないんです。15年経った今は、ありがたいことに応募してくれる方が増えてきたので、「やる気がある」「条件が合う」以外の部分でも絞っていかなければならず、身を切られる思いです。

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――より絞り込んでいく要素としては、どのようなことを重視視されるんでしょうか。

2.5次元作品の場合は、「キャラクターに寄せられるか」という部分が大きいので、役者さんの実力だけでなく、身長や年齢にも注目します。例えば、テニミュの越前リョーマの候補として、年齢が上すぎたり、身長が高かったりする場合は、非常に魅力的だったとしても難しいですね。何を優先して求めるかはキャラクターによりますし、さらに、全体としてのバランスも重要視しています。

――例えば、ある公演のオーディションでは受からなかったけれど、後日別の公演で出演が決まるというケースもあるんですか?

もちろんあります。オーディションをやりながら、今回は選べなかったけれど、こういう役なら合いそうだな、といったことは常々考えています。すごくいいものを持っているけれど、キャラクターにハマらず今回のオーディションでは選べなかった、という方もたくさんいらっしゃるので。原作のある作品は、キャラクターという正解があるので、個人の魅力は充分すぎるほどあるんだけど、どうしてもハマる役がないということも出てきます。

どんなにポテンシャルの高い役者が現れても、お客様が納得できないような妥協は絶対にしないので、そういう方が別のところで活躍されているのを拝見するととても嬉しくなりますね。

――2.5次元作品の場合、ハマってるというのは、すごく大きな武器だと思います。

すでに名前が知られているような方にこちらからオファーをして、オーディションに参加してもらうということもあります。オファーだから「ハマらない」ということが発生してしまうといけないので、顔見せオーディションをさせていただいてからバランスを見て最終決定をするといったケースもあります。

キャスティングは、あくまでも主観です。100人いたら100通りの考えがあると思うので、お客様に「ハマってる」と言っていただけることは、とても嬉しいことです。

――オーディションを受ける側でいうと、題材に固執せず、オーディションでは自分のポテンシャルをフルに発揮した方が、後々の可能性にもつながるんですね。

その通りです。オーディションでは、特技などを披露してもらうことがあるんですが、いつもやる前に「自分にとって、それをやった方がベストだと思うことをやってください」と言っているんです。テニミュの場合でも、テニスをやりなさいと言っているわけではないんです。バレーボールでもいいし、サッカーでもいい。特技としてやれることなら、何をやってもいい。それを「自分で考えること」が一番大切だと思います。オーディションは、自分をプレゼンできる時間なので。

――役者さんに限らずですが、自分を相手に“伝える”ために、“知ってもらう”ことは一番重要ですよね。

奇をてらうことでなく、自分自身なりの個性の出し方を考えないと、心に響く形ではなかなか伝わらないものです。だから、いつも「あなたの引き出し見せてください」と伝えています。まずは、その引き出しに何が入っているのか、全部を見せてもらってから、オーディションが進むにつれて、その中身を精査させていただくんです。その時探している役のオーディションではありますが、その出会い一つ一つが今後にもつながっていくので。

――ちなみに、最初からこの人は!とピンとくることもあるんですか?

そうですね。例えばテニミュに関しては、長く携わっている分勘が働くというか、「なんか気になる!」と思う瞬間も多くあります。一方で、部屋に入ってきた瞬間は分からなかったけれど、何かをやり始めた瞬間「これは!」と思う方も。「この役が決まれば全部決まるのに!」というような難航するケースもあったり、何回も受けてくださる方がいたりと様々です。本当にご縁とタイミングですね。

――オーディションで見た、これまでに印象的だった方やエピソードがあれば教えてください。

たくさんいらっしゃるんですけど、テニミュの1stシーズンで跡部景吾役を演じてくださった加藤和樹さんは、インパクトが強かったですね。ファンの方の間でも知られている話かと思いますが(笑)。オーディションの段階で、すでに跡部としてそこにいて、「僕は常に跡部を意識しているので、横断歩道を渡る時も跡部として渡っています」というようなことを言っていて。驚いたんですが、“背負う覚悟”を感じたんですね。それを見て、皆が「彼と一緒に仕事がしたい」と思ったと思います。テニミュの1stシーズンは、まだ2.5次元という言葉もなかった頃でしたし、オーディションから役者の皆の“やってやろう感”が強かったので、印象深いですね。

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――今、ご活躍されている役者さんたちもテニミュ経験者の方が多いので、役者を育てるという意味でも、テニミュのオーディションの意義は深いものになっている気がします。

テニミュがデビュー作になるという方も多いので、出演してくれた皆さんの今後は、いつも気にかけています。中でも、テニミュ卒業後の第一歩はとても大事なので、なるべくたくさん仕事のご提案をしたいと思っています。もちろん、それを選ぶかどうかは、各事務所さんやご本人の判断なんですけど。どの方に対しても、貢献していただいたことに感謝しかないですから。

――アンサンブルを担う役者さんは、どのように選んでいるのですか?

その時々で求めることに違いがありますが、アンサンブルの方をオーディションで選ぶこともあります。ライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」を例に出すと、とにかく身体能力の高さが必要で、かつ、芝居もきちんとできる方を求めているので、オーディションでは台詞を読んでいただいた上で、特技のアクロバットを見せてもらう。ここでも、ハマるかハマらないかは重要です。演出家や振付の方と相談したりして、作品の方向性を見極めながら決めていきます。メインの役以上にやることがいっぱいあるアンサンブルは、すごく重要です。

その中には、次の目標として役で出ることを夢に掲げている方もいらっしゃるんですね。そこを絶対に見落とさないように、役付のオーディションにも声をかけたりして、次のチャンスを用意することは意識しています。

――お話を伺っていると、キャスティングという視点にも“愛”を感じます。

青くさいと思われるかもしれないけれど、私もそう思います。お客様が作品や役者さんを愛しているのと同じように、私たちも常に愛を携えて、と考えています。

――お客様の声は、どれぐらい反映されるものなのでしょうか?

アンケート、読んでいます!最近では、WEBアンケートになっているところも増えてきましたが、ぜひ書いていただきたいです。
お見せしたものをすべて受け止めてほしいというのは、作り手のエゴなので、ご覧になったお客様がどう感じたのか、知りたいんです。お客様の視点には、私たちが気づかないことがたくさんあるので。ただ、お客様個々の捉え方も主観なので、参考にさせていただくけれどそのとおりにするかというと、すべてがそうではありません。こちらのプランに確固たるものがあれば、ブレないようにします。でも、お客様が一生懸命書いてくださる言葉すべてが嬉しいですし、楽しみにしています。

若い役者の皆さんにも、もちろん招待される時もあると思いますが、自分でチケットを買って、お客様の視点で観てほしいと思います。いろんな感想を持って、金額に見合う価値があったかな、自分にとって有意義な時間だったかな、などと考えられる人は、チケットを買ってもらえる役者になると思いますから。

――お客様の中には、ネルケさんの作品で初めて演劇を観たという方も多いようです。

本当にありがたいことで、がんばらないといけないと思います。いい舞台にできるかどうかは、お客様の人生に一石を投じることにつながるかもしれないじゃないですか。
役者さんのデビューと同じように、弊社に入社希望される方の中にも、テニミュや演劇「ハイキュー!!」、セラミュー(ミュージカル「美少女戦士セーラームーン」)を観て影響を受けたという方も多いんです。少なからず、そういった方たちの人生に一石を投じているわけですから、キャスティングもそうですし、舞台を作るということに対して、丁寧さとこだわりを忘れずに取り組んでいきたいですね。

――役者さんだけでなく、舞台に関わる仕事をしたいという方も多くいらっしゃったのですが、一歩の踏み出すためのアドバイスをするとしたら?

キャスティングだけでなく、私は人事としても多くの方にお会いしているのですが、どんなことにも興味を持っていてほしいと思います。舞台も2.5次元作品だけでなくいろんなものを観ていてほしいですし、スポーツでも、アルバイトでも、なんでもいいからこちらが知りたいと思う強みがあるといいと思います。その上で、「○○したい」という思いを持っていることがすごく大事。経験がないといったことは置いておいて、「I want to~」という自己主張ができること。そして、主張した分だけ人の話が聞けること。何においても、選んだ側の責任と同じぐらい、選ばれた側の責任もあると思うので、それを果たす覚悟を持ってきてほしいなと思います。

――野上さんご自身として、今後取り組んでみたいと思っていることや、抱いている思いなどがあればお聞かせください。

進行中の作品をさらに盛り上げていくことはもちろん、小説や絵本などを題材にした作品も、もっと作っていきたいなと思っています。日本の未来を支えていくのは、いつだって子どもたちなんですよね。子どもたちが演じたり、子どもと一緒に観たりできる作品を提案し続けていきたいです。サンリオピューロランドでやっている「ちっちゃな英雄(ヒーロー)」や、東京タワーでやっている『東京ワンピースタワー』などもそうですが、親と子が一緒になって楽しめるものを生み出していくことを、続けていきたいですね。

テニミュも15周年を迎え、いつか3世代で親しんでいただけるものにできるんじゃないかと思っています。その上で、『レ・ミゼラブル』みたいな大作ミュージカルもいいし、「カムカムミニキーナ」のような小劇場もいいし、そして、テニミュもいいよねって言ってもらえたらいいなと。皆さん好みがあると思いますが、食わず嫌いではなく生で観て、体感して、どう感じるのか。たくさんの方にいろんなものを観たいと思っていただける提案をし続けていきたいです。

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◆今後の公演情報
ミュージカル『テニスの王子様』15周年記念コンサート Dream Live 2018
テニミュ15周年を記念し、青学(せいがく)、六角、立海、比嘉のキャスト総勢34名がスペシャルゲストとともに贈る夢のコンサート!
【神戸公演】2018年5月5日(土・祝)・5月6日(日) 神戸ワールド記念ホール
【横浜公演】2018年5月19日(土)・5月20日(日) 横浜アリーナ

【原作】許斐 剛『テニスの王子様』(集英社 ジャンプ コミックス刊)

【チケット料金】6,500円(全席指定/税込)
【一般発売日】2018年4月8日(日)10:00~

【ミュージカル『テニスの王子様』 公式HP】
https://www.tennimu.com/

【ミュージカル『テニスの王子様』15周年記念コンサート Dream Live 2018 特設HP】
http://dl2018.tennimu.com/

事前の質問募集では、たくさんのご参加をありがとうございました!
皆様の聞きたいこと、お伝えできたでしょうか?
よろしければ、記事へのご感想・ご意見などお寄せください。

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(C)許斐 剛/集英社・NAS・新テニスの王子様プロジェクト (C)許斐 剛/集英社・テニミュ製作委員会

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この記事を書いた人

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