『この熱き私の激情』松雪泰子インタビュー!「美しい言葉が突き刺さってくる」

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2017年11月から12月にかけて上演される『この熱き私の激情~それは誰も触れることができないほど激しく燃える。あるいは、失われた七つの歌』。本作は、2009年9月に36歳の若さで自らの人生に幕を閉じたフランスの女性作家ネリー・アルカンの4編の小説を元に、女優であり演出家のマリー・ブラッサールの翻案・演出で描いたもの。

ネリー自身が小説に綴った、女であることへの戸惑い、怒り、コンプレックス。生きているから感じる辛さ、悲しみ、無力感・・・それらを、6人の女優と一人のダンサーが表現する中で、彼女が“死”へ向かう姿を演じる松雪泰子に、作品について聞いた。

『この熱き私の激情』松雪泰子インタビュー

――7人の出演者で一人の女性の精神世界を描く複雑な作品ですが、出演を決められた時のご心境をお聞かせください。

アーティスティックな作品であるが故に「日本でこれが出来たらどうなるんだろう」という未知の領域を感じたんですね。当然、難しいことも分かっていたんですが、未知の領域だからこそトライしてみたいという気持ちになりました。

――オファーを受けた時は、ネリー・アルカンさんのことはご存知でしたか?

いえ、存じ上げなかったんです。お話をいただいてから戯曲も読ませていただいたんですが、出てくる言葉に、美しく、繊細でありながら、強烈なインパクトを感じました。すごく難解ですし、すぐに理解できるものではなかったんですけど・・・、後で小説を読んだら、腑に落ちることがたくさんあって。今になって「どうしよう、大変だ」って思ってます(笑)。

――演出を手掛けられるマリー・ブラッサールさんとのコミュニケーションはいかがですか?

すごく順調にいっています。彼女がおっしゃることは、ストレートで、すごく綿密で、高度なことなんですけど、出演者全員でいろんな可能性を試せているんですね。だからきっとモントリオールの公演とはまた違う、日本人キャストならではのものができるのかなと、マリーさんともお話していて感じます。

また、俳優全員がアーティストで、皆でクリエーションしていくんだ、ということをマリーさんはおっしゃっています。表現者としての私たちのクリエーションも大切にしてくださる環境の中でお芝居を構築していくのは、大変でもあるんですが、すごく楽しい作業です。

『この熱き私の激情』松雪泰子インタビュー_3

――この戯曲は、ネリーの遺した作品の中で「ピュタン」をはじめとする4つの作品を再構成して作られたと聞いています。また、出演者全員でネリー・アルカンという人物の人生を描いていくそうですね。

マリーさんから教えていただいたんですが、この戯曲はモントリオールで初演する時に、出演者の方たちにマリーさんが「ネリーのどの部分に興味があるか」ということを聞いて、それに対し出てきた答えをコラージュして作られたそうです。出来たのがクリスマスの直前だったこともあり、マリーさんはそれぞれの女優さんにこの戯曲をクリスマスプレゼントとして届けたんですって。そこからこの作品が始まったともおっしゃっていたので、作品が作られる段階から、皆でセッションして作っていったという感じだったみたいです。

――登場人物は全員、ある意味でネリー・アルカンの違った側面を表しているとのことですが、ほかの共演者の方々とは、何かディスカッションをしていのでしょうか。

この舞台は、10の部屋が舞台上に設けられていて、芝居に入るとお互いの顔を見ることもできないんです。稽古も今のところ、「パーソナルに作っていきたい」というマリーさんの希望もあって、それぞれの部屋の部分はマリーさんと1対1で作っています。部屋ごとに何が語られているのか・・・お互いに分からないんですよ。でも、秘密があることもそれはそれで楽しいし、実際のセットの中に入ってどうなっていくのかも楽しみです。

『この熱き私の激情』松雪泰子インタビュー_4

――今回、松雪さんは「影の部屋の女」を演じられます。ネリーが死に向かう重要なパートですが、このシーンについてはどのようにとらえていらっしゃいますか?

戯曲の中に抜粋されて表現されているパートがどのような意味合いを持つのか、そしてそれが彼女のどの側面を表現しているのか。彼女が生きてきた時間を知るために、まず最初のワークショップで話し合ったのですが、私が表現するのは彼女の最期の時間になるので、そういう意味ですべての領域のことを持っていないといけないと思いました。

彼女の内面的な世界、精神性、生き方を考え、何に対して怒りを持っていたのか、どんな痛みを抱えていたのか、なぜ死という道を選択することしかできなかったのか。一つ一つ、深く考察しながらお稽古している感じです。小説の「ピュタン」を読み進めていく中でも、あまりの苦しさに読めなくなってしまって何度も本を閉じたりしたくらい、知れば知るほど苦しくて。深く突き刺さる鮮明な言葉の意味を、考えています。

『この熱き私の激情』松雪泰子インタビュー_2

――ネリーの人生に共感する部分は多いですか?

苦しくなるのは、自分の中にある痛みと彼女が抱えていた痛みが、共鳴する瞬間なのかなと。置かれている状況はまったく違いますが、彼女が感じていたであろう感覚が、自分の中にまったくないわけではないと思うので。でも、考察すればするほど、理解できない領域もあります。

――それはどういった部分に感じますか?

死に至るほど苦悩しなくてはいけなかったのかなとか、その苦悩をもっと受け入れたり消化したりできなかったのかなとか、もっと違う道がなかったのかなとか・・・、そんな思考の渦に閉じ込もらず、視点を変えればもっと違う世界が見えたかもしれないのにと思うことももちろんありますが、彼女がすごく苦しかったということだけは、本当に深く理解できるので。

その苦悩の瞬間について、マリーさんは「怒り」で表現したいということをおっしゃっています。ただ「悲しい」というのではなく、「本当は死にたくない」ということが根底にある。だけど生き続けることもできないし、死を選択していくストロークはある種の強さがないとできないことなんですよね。

――すごく矛盾した感情ですね。

強さともろさと怒り、それをコントロールできない混沌、両親から受けた傷とそれによる悲しみ、憎悪と同時に愛していたかった、愛していたという感情・・・すごく複雑なものが交錯していくんですよね。交錯していく中でも、意識や感情が、瞬時に変わっていくというか、スイッチし変わっていき、まとまることがないんです。混乱の一つとして表現できたらいいのかなと、今思いながらお稽古しているところです。

『この熱き私の激情』松雪泰子インタビュー_5

――「影の部屋の女」は死の魅力について語りますが、松雪さんご自身は死の魅力をどう見ていらっしゃいますか?

説明には“魅力”と書いてあるんですが、魅力というよりは、大きな闇にあらがおうとしてるんだけど、しきれず崩れていくようなもののように感じています。でも、死を目前にしている瞬間にはすでに“決意”があるので、精神的な部分で見ると、もちろん崩壊してるんだけど、同時にそれを俯瞰で冷静に観察しているような感覚があるので。

強さと同時にずっと恐怖心も抱えているし、本当は死にたくないけれど、もうこのままでは、これ以上は生きられない。そんな中でもがいている最期って、演じていてもすごく苦しいんですよ。本当にたまらない。この作品の中でもものすごく強烈な瞬間なので、観てくださる皆さんがどう感じるのか、興味深いです。

――皆さんがどのような表現で一人の女性の生涯を見せてくださるのか、とても楽しみです。

それぞれの部屋の出来事も見応えがありますし、舞台美術も、音楽もすごく素敵です。コンテンポラリーダンスのような身体表現もたくさん出てきますし、私たちの部屋と部屋をつなぐブリッジというシーンでは、“失われた歌”といって、ポエティックな台詞と歌で表現する声のセクションもあります。その歌の部分の稽古は、バンドのセッションをしているような感じで。表現者としてかなり難易度が高いと思いますが、それがすごく楽しいものでもあるし、きっと観てくださる方も、様々な要素でお楽しみいただけるんじゃないかなと思っています。
何より、言葉がとても美しいので、聞いているだけで突き刺さってくるものがたくさんあると思います。“女性が生きる”ということについて、すごく考えていただけるんじゃないかな。それは女性だけでなく、男性にも観ていただきたい部分ですね。

『この熱き私の激情』松雪泰子インタビュー_6

◆公演情報
PARCO Production『この熱き私の激情~それは誰も触れることができないほど激しく燃える。あるいは、失われた七つの歌』
【原作】ネリー・アルカン
【翻案・演出】マリー・ブラッサール
【出演】松雪泰子 小島聖 初音映莉子 宮本裕子 芦那すみれ 奥野美和 霧矢大夢

【東京公演】11月4日(土)~11月19日(日) 天王洲 銀河劇場
【広島公演】11月23日(木・祝) JMSアステールプラザ広島 大ホール
【福岡公演】11月25日(土)・11月26日(日) 北九州芸術劇場 中劇場
【京都公演】12月5日(火)・12月6日(水) ロームシアター京都 サウスホール
【愛知公演】12月9日(土)・12月10日(日) 穂の国とよはし芸術劇場PLAT主ホール

(ヘアメイク/石田絵里子【air notes】)
(スタイリスト/安野ともこ【コラソン】)
(撮影/舞山秀一)

<衣装>
<アイテム/ブランド名(カナ表記)/価格(税抜)> ※△は半角あけ
ドレス/Hanae Mori manuscrit(ハナエ モリ マニュスクリ) ¥450,000
ピアス/NAGI NAKAJIMA(ナギ ナカジマ) ¥45,000
バングル/NAGI NAKAJIMA(ナギ ナカジマ) ¥100,000
リング/NAGI NAKAJIMA(ナギ ナカジマ) ¥500,000
シューズ/cuerpo(クエルポ)

<問い合わせ先>
Hanae Mori manuscrit Show Room/03-6434-7117/URL:http://www.naginakajima.com
Nagi Nakajima Design Studio/047-411-4497

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