「もっと気軽に文学と演劇に触れられるものを」と、演劇制作会社CLIEが立案した新企画“文劇喫茶”。その第一弾となる舞台『それから』が、2017年5月に上演される。原作となるのは、夏目漱石の三部作の一つ。このシリーズを、平野良、帆風成海、今立進(エレキコミック)の3人芝居で立ち上げる。異色の顔ぶれの中から平野と今立に、作品について、ビジュアル撮影秘話、本にまつわる様々な話を聞いた。
――今回、“文劇喫茶”という新しいシリーズを立ち上げられました。この企画についてお聞きになった時のお気持ちを教えてください。
平野:文学を元にしていて、3人という少人数での芝居。ついに来たなと。僕、小説がすごく好きなんですよ。俳優二人と女優一人と、バランスのよい座組みで文学作品に取り組めるのが、とても楽しみです。
――平野さんは、少人数のお芝居はお好きですか?
平野:好きですね。大勢には大勢の良さがあるんですが、少数には少数の良さがある。どちらも経験していますが、総合的に見ると大勢で作る芝居の方が多く、少人数でやる機会がなかなかないので、これはすごく嬉しいお話でした。
――今立さんは、普段はエレキコミックとして「お笑い」のフィールドでご活躍されていますが、演劇作品へのご出演は久しぶりですか?
今立:そうですね。演劇作品に出たことはあるんですが、ここまで少人数で作る作品の経験はないので「CLIEさんは博打打ったな!」と思っています(笑)。
共演者のお二人は素晴らしい経験をお持ちなので、足を引っ張らないようにしないと。演じるという点では、普段やっているコントも演劇も、空気感を作り上げていくものだと思うので、1ヶ月近くできる稽古の中で勉強しながら、最高のものが作れたらなと思います。
――お二人がお会いになったのは?
平野:がっつりお会いして話すのは、これが初めてですね。
今立:僕は、共通の友人である宮下雄也くんを介して、平野くんのことは知っていました。雄也が「好きだ」って言っていたから、僕とも似たような空気感の人なのかなと(笑)。会ってみたら案の定、でしたね。
平野:双子のようなね。
今立:それは盛り過ぎだろ~!
平野:俺なのかな?って。
今立:嘘でしょ!せめてもうちょっと信憑性のあるコメントしてよ(笑)!!
平野:ちゃんとお話したのは今日が初めてですが、ビジュアル撮影の時に少しだけご挨拶させてもらっていまして。・・・人って、出会って数秒で(相性が)分かるって言うじゃないですか。その時点で、僕の中で(犬の親愛行動のように)おなかを見せられる人だなと思いました。
――ビジュアル撮影のお話が出ましたが、時代を感じられるとても素敵な仕上がりですね。
平野:このチラシの裏に、木に腰掛けている写真があると思うんですが、これ、本当はまったく座れるバランスの場所じゃなかったんですよね・・・(しみじみと)。
足がぷるぷるしていて、立つ時に後ろに転がってしまいまして。
今立:あらま、物理的におなか出しちゃった!
平野:まさに(笑)。
今立:寒い日の撮影だったよね。一番の年上の僕は、冷え末端から来て大変でした。だから、ちゃんと指先を自分の脇に当てて、温めながら撮影して。
平野:(チラシをまじまじと見つめながら)これは温めているところなんですか(笑)?
今立:はい(笑)。
――素敵なビジュアルにそんな秘話が(笑)。小説の雰囲気がよく表れているなと思ったのですが、お二人は元となる夏目漱石の「それから」は読まれていますか?
平野:さっき、小説が好きだと言いましたが、いわゆる“純文学”と言われているものにはあまり触れていなくて。この出演をきっかけに改めて、という感じです。
今立:僕は、いただいた時に「こころ」と勘違いしてしまって。「こころ」にも、この作品と近しい恋愛が入っていたなと。
――改めてこの作品を読んでみて、演じられる役のイメージは膨らみましたか?
今立:うーん、僕は借金もしないし・・・「借金だけはするな」「連帯保証人にはなるな」と親のしつけで言われてきたので(笑)。でも、常次郎の切羽詰まった感じとかは分かるところがあるかな。最近引っ越したんですが、退出日間際まで洗濯機の処分方法がまったく決まってないとか、鍵を返すギリギリまでCDが100枚残っていたりとか。切羽詰まりながらギリギリで乗り切っていく感じだったので、そういうところに常次郎感があるかな。
平野:僕は、代助とは全然違うと思うんですけどね。努力家だし。しっかりしてるし。
今立:ほんとに~?
平野:ただね、まだ企画段階の時に、今回のプロデューサーさんとお話しする機会があったんです。その時に「それから」ってどういう話なの?と聞いたら「主人公が自分から何もしない。働きもしないで、好きなことばかりやっている。でも、お金はもらえる。自分は何者でもないのに、何故か上から目線でモノを言う。これをやれるのは、平野さんしか思い浮かばない」って返ってきたんです。・・・失礼な(笑)!
今立:これは、ハマり役だと(笑)。
平野:自分で認識している自分と、人から見えている自分は違うので、何とも言えないですよね。とにかく、ぴったりみたいです(笑)。
――「それから」では、一人の女性を巡る結婚が描かれています。結婚と言えば今立さん、最近ご結婚されたということでおめでとうございます!
今立:ありがとうございます!
――ご結婚については、どんな時に意識されたんですか?
今立:元々、結婚はできないんじゃないかと思っていたし、しようとも思っていなかったんですよ。でも、うちの相方(やついいちろう)が結婚したり、年齢も重ねてきて・・・という時に、彼女と出会ったんですよね。なので、付き合う時に「そういうのを前提で付き合おう」って言っていたんです。そんな経緯で。
・・・でも、今回僕の演じる役、嫁を取られる役なんですよね。これは、何を僕に感じさせたいのか。CLIE側の何かしらの意図が・・・!
平野:仲睦まじく、こうならないようにってことですよ(笑)。
――お二人の演じる役は親友という間柄ですが、実際に親友はいらっしゃいますか?
今立:僕は、女の子の親友がいるんですよ。男女間に親友なんて、ドリカムの世界なんて!と思っていたんですが、この歳になると、そういうのも意外とあるんだなって。
平野:僕は、地元に今も仲の良い同級生がいます。そいつ、高校の時に50歳を超えるまで童貞でいて、妖精になるって言ってたんですよ。なのに、20歳くらいの時に彼女を作りまして。その時点で「ん?」と思っていたんですが・・・その彼女と、今年結婚するんです。
今立:普通だな!
平野:あんなに豪語していたのに。急に、夜中に呼び出しメールが来たんですよ。「お話があります」って。薄々感づいてはいたんですが、すごく言いづらそうで(笑)。
今立:あんなこと言ってた手前ね。
平野:一言、「○○、結婚するってよ」って。
今立:何ちょっとなぞらえて言ってるんだよ(笑)!
平野:彼女も知ってる子ですし、もちろんめでたいんです。でも「あ~、ついに行ってしまったか」と、その瞬間、ちょっとだけがっかりというか、寂しさがありましたね。
――ちょっと複雑だったんですね(笑)。先ほど、平野さんが本好きと言われていたので、本についてのお話も聞かせてください。普段はどんな本を読まれているんですか?
平野:村上春樹さんとか、村上龍さんとか・・・。ライトノベルみたいなのは読まないです。文庫でも読まないです。基本的に、ハードカバーで読みたくて。新書とかも多いですね。
――読む本は、どうやって選んでいるんですか?
平野:今まで読んでいる作者のものは、そのまま買います。あとは、表紙とタイトルと帯を見て買ったりすることもあるし・・・。初めての作者のものは、買う前に最初の1ページだけ読みます。書き出しがどう始まっているのか、どういう文体でどういう書き方しているか。それを確かめてから買うようにしています。
――おすすめの1冊とか、あれば教えていただけないでしょうか。
平野:う~ん、いっぱいあるんですけどねえ(悩む平野さん)。
今立:強いて言うなら?
平野:最近読んだものだと、平野啓一郎さんの「マチネの終わりに」。それから、僕が心にずっと持ち続けている作品でケン・グリムウッドの「リプレイ」。すごく昔の小説なんですが、これはぜひ読んで欲しい。“リプレイ”もの、今ではたくさんありますが、それの先駆け的な作品なんです。ここからすべては始まった、というくらい。“生きている一秒が愛おしくなる作品”です。
――本の帯に欲しいコピーですね!今立さんも、おすすめの1冊とかありますか?
今立:最近あまり読めてないんですけど、昔は結構読んでたんですよね~。印象に残っているのは、小学生の頃に読んだ「ゲド戦記」。映画にもなりましたけど、小説と映画は全然違うんです。ファンタジーとして読んでもおもしろいし、人生も感じられるのでオススメです。人間として生きていく上で大切なことを、あの本から学んだ気がします。長いけど読みやすいので、ぜひぜひ。
平野:本、読みましょう。ページをめくる感じがいいんですよね。・・・と、話しているのがWeb媒体さん上なんですが(笑)。
――すみません(笑)。素敵な言葉の数々を、ありがとうございました!最後に、公演を楽しみにしている方にメッセージをお願いします。
今立:本を読んでいない方にも楽しんでいただけるように、僕ら、がんばっていきます。そして、読んだことがある方には「こういったアプローチもあるんだな」と、新しい「それから」像をお見せします。2017年という現代に、この3人でやる意味を、ちゃんとお客さんに伝えられるものになればいいなと思います。
平野:夏目漱石の作品として、難しい、分からないといった先入観はあると思います。でもきっと、そういう心配は観に来てくださったら杞憂に終わるはずです。3人の人間の生き様、純粋に絡み合っていく運命を、ぜひ観に来ていただけたらと思います。そうだ、今日、決め台詞を忘れてましたね。
今立:お、そんなのあるの?
平野:小説でもなんでも、まず最初にタイトルを見ますよね。そして、中身を読む。すべて読み終わった時に、もう一度タイトルを見ると、そのタイトルがまったく違った意味、別の色に感じられると思うんです。この舞台『それから』を観終わった貴方にお聞きしたい。
「あなたの『それから』は何色ですか?」
今立:帯だな~本の帯だな~!帯何個書くんだよ~!!
◆公演情報
文劇喫茶シリーズ 第一弾 舞台『それから』
5月3日(水・祝)~5月14日(日) 東京・俳優座劇場
【原作】夏目漱石
【演出】山田佳奈(□字ック)
【脚本】田中陽子
【出演】平野 良、帆風成海、今立 進(エレキコミック)
【日替わりゲスト】佐藤貴史、藤原祐規、水石亜飛夢、宮下雄也、米原幸佑
※出演日程は後日改めて発表
◆舞台『それから』上演記念イベント
【日時】4月16日(日)18:00~
【場所】HMV&BOOKS TOKYO
【内容】トーク&サイン会 ※トークは30分程度を予定
◆舞台『それから』公演直前イベント~文劇喫茶へようこそ~
【日時】4月26日(水)19:30~
【場所】新宿ロフトプラスワン
【内容】トーク&チェキ会
参加方法や詳細については、公式HPをチェック!
http://www.clie.asia/sorekara/
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