柿喰う客『虚仮威』インタビュー!七味まゆ味×玉置玲央×牧田哲也「演劇にしかできないことをやっている」

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中屋敷法仁率いる劇団柿喰う客が、結成10年を迎えた。本作『虚仮威(こけおどし)』では、2016年に新たに加わった新メンバー6名と共に、メンバー全13名が参加し本公演を打つ。書き下ろし新作は1年2ヶ月ぶりの上演。年末年始を挟み、年越しの瞬間まで劇場で大暴れする。旗揚げ当初からのメンバーである七味まゆ味、玉置玲央、そして新劇団員の牧田哲也に話を聞いた。

柿喰う客『虚仮威』インタビュー

目次

12人中6人が新メンバー

――すでに三重、仙台の公演で公演をされていますが、いかがでしたか?

七味:12月2日(金)に三重で初日を迎えた時に「やっと作品が生み出されたな」と感じました。それから回数を重ねるたびに成長していっていると思います。

玉置:それは俺も感じたな。新メンバーも入って、幕が開くまでどんな舞台になるのか分からなかったから、お客様がどう思うのかすごく楽しみでしたね。

七味:劇団員だけの公演も久しぶりだし、お客様にとっても私たちにとっても「新しいものに挑戦してる」という感覚だったね。柿喰う客の本公演も久しぶりだからワクワクしたし、稽古1日目は無駄にテンション高かった(笑)。でも、結果的に客席の反応がビックリするくらい温かくて嬉しかったな!

――今回の『虚仮威』はどんな作品なんでしょう?

牧田:僕は、「東北の方が書いた東北が舞台の作品」という印象を強く受けました。そして、それが魅力の一つになっていると思います(作・演出の中屋敷は青森県出身)。妖怪や河童や座敷童が登場したりと、東北に伝わる民間伝承のテイストが含まれていますし、大正時代と現代が交差する作品なので、よけいに土地や時代性を強く感じたのかも。

柿喰う客『虚仮威』インタビュー_4

七味:内容もおもしろいし、そこで蠢いている俳優そのものを観にきてほしい作品ですね。中屋敷はよく「俳優が一番輝いている舞台にしたい」とか、「僕は道筋をたてるだけ。その後、作品を深めるのも育てるのも進化させるのも舞台上の皆さんです」とか言うんです。そう言われると、私たちも中屋敷から挑戦状を叩きつけられたような気になるので(笑)。

「おもしろいモノ、観せてやるよ!」って、中屋敷に対しても、お客様に対しても、皆さんが想像する“柿喰う客”に対しても挑戦し続けていきたいんです。だから、この『虚仮威』の見どころは、このメンバーでしかできない何かが生み出されているということ。新旧メンバーが初めて共演するという意味では“旗揚げ公演”であり、初共演は一回きりしかできないという意味では “解散公演”でもあるんです。

――新メンバーの牧田さんは、初の劇団本公演ですね。参加してみていかがでしたか?

牧田:不思議なことばかりでした!まず、最初に配られた台本が、どれが誰の台詞なのか書かれていないものだったんですよ。言葉だけが書き連ねてあって、読んでいるだけじゃ誰がしゃべっているのか分からない。いつの間にか「あれ、これはもしかして別の人が話し始めているのかな?」って気づくような。

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玉置:いつもはちゃんとした戯曲なんだよ。でも、今回は村上春樹の小説みたいなものを渡されたよね。台詞のやり取りが書いてあるんだけど、最初に読んで「何だろう、この純文学みたいなの」って思った(笑)。中屋敷が作品で伝えたいことがバーッと書いてある感じだった。

牧田:誰がどの台詞を口にするのか決まっていないから、稽古の中で「その台詞、今度は別の人が言ってみて」と変えていくこともありましたね。

玉置:中屋敷はよく自分のことを「指揮者」って言うんだけど、たぶん彼はオーケストラを作っている感覚なんじゃないかと思う。僕たち俳優は楽器で、稽古場で音を鳴らしてみて、その音(台詞)をどの楽器が発するのか当てはめていく感じ。

――どの役の台詞にしたら作品の伝えたいことが伝わるのか、稽古で探っていくんですね。

七味:今回は新メンバーが入ったこともあって、配役もいろんな役の台詞を読んでみてから決めたよね。これまでは他の役もやってみるなんてことはしていなかったので、もしかしたら(今回みたいなつくり方は)中屋敷もやってみたかったことなのかも。

玉置:自分の役だけに固執しているより、自分以外の役について考えていってほしいと思ってる気がする。最近よく「共演率を高めて」とか「どう演じれば他の共演者が魅力的に見えるのか考えて」って、すごく言われるから。

牧田:舞台上での一瞬一瞬が成り立っていけば、お客様が作品を感じてくれると信じているんでしょうね。演じている僕だって、最終的にどんな作品になるのか最初は想像がつかなかったけれど、それが稽古を重ねていくとパズルのようにどんどんハマっていって「うわ、こういう風になるんだ」って分かっていく感覚は衝撃でした。

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劇団10年目から、11年目へ

――出演者の半分が新しくなりましたが、これまでと変化はありましたか?

玉置:今まで慣れたメンバーで自由にできていたことが、いい意味で好き勝手にできなくなったかな。これはすごく豊かなことで、おかげでどんな作品になるのかがより未知数になりました。「こいつらと何ができるんだろう?どこまでできるんだろう?」ということが分からないというのは、劇団では久しく忘れてた感覚だったので新鮮でした。

七味:私も、無意識にやっていたことがたくさんあったんだということに気づきました。誰もが新メンバーに対して「そこはその間じゃないよ」といったことをちゃんと伝えていたのには感動しました。皆「ゆっくり追いつけばいいよ」という姿勢ではなかったので、新メンバーの成長を早めていたね。私にとっては、葉丸あすかも永島敬三も大村わたるも後輩なんだけれど、彼らがカッコイイ先輩に見えたことは新鮮でしたね。特に玲央からは一番、新メンバーに対しての愛を感じましたし。私は放任主義なので何も言わないんですけど(笑)。

牧田:いやいや、「私、言わない」と言いながら結構言ってくれましたよ(笑)。

玉置:たぶん七味さんは「柿喰う客のメンバーだから」じゃなくて、「作品のクオリティを高めたい」という意識で発言するから、後輩だとか劇団員だとか関係ない言葉なんだろうなと思う。
俺だったら、目の前のことに熱中しすぎて「なんでできないんだよ」とイライラしちゃうこともあるけど、そういう時に七味さんが広い視点で「誰と誰が揃ってないよ」「ここはこういうシーンだと思ってたんけど、皆は違う?」という疑問をポンと投げてくれる。そうやって、メンバーによって違う感じ方の差をすり合せするのは、楽しかったですね。

――七味さんと玉置さんは客演のご経験も多いですし、牧田さんはD-BOYSにも所属されています。柿喰う客とそのほかの作品での芝居作りに違いはありますか?

玉置:芝居作りについてはあまり変わらないですね。演技の考え方が違うだけだと思います。

七味:私もそうかも。いろんな演劇のテイストを持つメンバーと一つの作品を作っているなという感覚でいるので、稽古初日にテンションあがって空回りする以外は、あまり変わりません(笑)。

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牧田:僕は“柿節”というような独特な言い回しに、やっと耳が慣れてきました(笑)。それから、実際に稽古をしてみて、背筋一つとってもピンと綺麗に見せる意識を強く感じました。自分が見せ物になる感覚に近くて新鮮。でもそれが、柿喰う客の役者さんたちが持つ人の目を惹きつけるオーラに繋がっているんだなと分かりました。

七味:“柿節”か・・・意識してるわけじゃないけど、自然にそうなっちゃうのかも。柿喰う客のメンバーじゃない人が同じ作品を作ったら、まったく違うものになるんだろうな。

玉置:実は、稽古の最初の頃は、柿喰う客独特の演技に慣れない新メンバーに対して「なんでもっと美しくできないんだろう」と思ってしまうこともあったんです。「ここで体の動きを変えたら、台詞の意味が伝わる割合が2~3割も減ってしまうのに」「着地の足音で台詞の一音目を消してしまってる」・・・とかね。

七味:それ、稽古場でもちゃんと皆に言ってたね。

玉置:一俳優としてというより、劇団員として不満に感じた瞬間があったんです。柿喰う客は「中屋敷の作品を上演する団体」だから、俳優の怠慢でそれを阻害する事は許されないんですよ。これはどこの劇団でも同じだと思います。

七味:確かに。プロデュース公演と違って、お芝居だけでなく長期的なメンバー同士の関係を作っている感覚はあります。それから、私にとって劇団は「演劇ってなんだろう」という哲学的なことを考える起点にもなっているかな。

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牧田:柿喰う客って“演劇にしかできないこと”をやっていますよね。集団で作品を作っているから、誰かがちょっとでも流れを外すと一瞬で観ている方が冷める可能性がある。だから、舞台に立つプレッシャーが強い気がします。僕は、この作品の中では物語を客観的に観ている役だから、客席の感覚に近いと思うんだけど、後半はどんどん巻き込まれていく感覚がものすごいですよ。

七味:ぜひ劇場でしか味わえない感覚を体感してもらいたいね。「おもしろいのか、おもしろくないのか、分からないけどまた観たい!」と思えるような、中毒性のある団体でありたいな。

――2016年は、柿喰う客も牧田さんご自身も“10年目”という節目の年でした。

玉置:気づいたら10年経ってたね。10年目、いろいろやったなあ。

七味:驚かせることが好きなので、「10年目だヨッシャー!」という思いがあったかもしれない。今回の『虚仮威』では、年をまたいで年越し新春イベントもやっちゃいますしね。

牧田:僕も俳優デビューして10年が経ちましたが、今年は今後のことを考えた節目でもありました。柿喰う客には、身体表現とか音の表現とか、僕が苦手にしているものを学びたいと思ってオーディションを受けたんです。自分に足りないところを、盗んで学んで、たくさん肌で味わって吸収していきたいです。

七味:まあそれぞれ節目の10年目と言うけど、来年も「11年目だヨッシャー!」ってことをやってるかもよ(笑)。

玉置:そうだね。11年目というより、新たな1年目といった感覚かも。「今年も始まる。また次の10年が始まるな」・・・そんな気持ちです。

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◆公演情報
柿喰う客 2016-2017新作本公演『虚仮威』
【東京公演】2016年12月28日(水)~2017年1月9日(月・祝) 本多劇場
※1月1日、1月2日は休演日)。
【大阪公演】2017年1月19日(木)~1月22日(日) ナレッジシアター

◆年越新春イベント
【開催日】東京公演12月31日(土)21:00開演の回終演後
【内容】柿喰う客メンバーによる「紅白歌合戦」、大晦日スペシャル公演、みんなでカウントダウン、大村わたるの生誕記念祭、結成11周年を祝う座談会、など
※『虚仮威』12月31日(土)21:00開演の回のチケット購入者のみ入場可
※入退場は自由
※条例により18歳未満は入場不可

◆柿喰う客プロフィール
2004年、青山学院大学演劇研究会に所属していた中屋敷法仁が、自身の作・演出作品を上演する演劇ユニット「柿喰う客」を発足。2006年1月1日、観客動員数の飛躍的な伸びを受け、正式に「劇団」として結成。2016年に10周年を迎えた。演劇特有の虚構性を重視した躍動感あふれるパフォーマンスが特長。今回の『虚仮威』は、2015年9月『天邪鬼』以来の新作による劇団本公演となる。

(撮影/エンタステージ編集部)

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この記事を書いた人

高知出身。大学の演劇コースを卒業後、雑誌編集者・インタビューライター・シナリオライターとして活動。

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