大学のダンスサークルからスタートし、物語とダンスを融合した幻想的なステージで熱狂的なファンを獲得しているダンスカンパニーDAZZLE。その結成20周年を記念し、2016年10月14日(金)より新作『鱗人輪舞(リンド・ロンド)』を上演する。主宰で、本公演の演出も手掛けるDAZZLE主宰・長谷川達也に、DAZZLE独自のカラーが生まれたきっかけから新作についてまで、今後の展望も交え話を聞いた。
――今年で結成20周年を迎えたDAZZLEですが、改めて、結成のきっかけをお話しいただけますか。
それには、僕がダンスを始めることになったきっかけからお話しないとですね(笑)。僕がダンスに興味を持ったきっかけは、中学生の時に観ていたTV『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』の人気企画「ダンス甲子園」でした。ヒップホップダンス、ストリートダンスを観て、「ダンスってすごい!これやりたい!」と思ったんですけど、その時はダンスを習う環境がなかったので、見よう見まねで踊っていました。
本格的にダンスを習ったのは、1995年に大学に入学してダンスサークルに入ってからです。そこで先輩が、日本最大のストリートダンスコンテスト「Japan DANCE DELIGHT」という大会のビデオを見せてくれたんですね。「これはすごい、ここで踊りたい、ここで入賞したい!」と思って、そこで1996年にDAZZLEを結成したんです。
――音楽とか映画とか、エンターテインメント好きな少年だったんですか?
いえ。中学生時代はゲームと漫画が大好きなくらいで、エンターテインメントに特に関心があったわけではありませんでした。でも、ダンスは見た瞬間に悔しくなって「これをやりたい!」って強く思ったんですよね。それまで、そんな熱くなったことはなかったんですけど。
――DAZZLE結成後、2001年にはついに「Japan DANCE DELIGHT」で準優勝されるわけですが。そこからはDAZZLEでずっとやっていこうと意識されたんですか?「ダンスでやっていくぞ」みたいな。
そうですね・・・。ダンスを始めた当時も、大学を卒業する時も、プロのダンサーとして活動していくことは選択肢としてまったく考えていなかったんです。当時、ダンスを職業にする人はほとんどいなかった時代なので、僕もプロのダンサーになれるとは思っていなかったですよ。僕よりもうまいダンサーは山ほどいましたけど、皆就職していきましたし、当然、僕もそうなると思っていたんです。でも、就職活動で面接に行っては落とされ「本当に就職する気があるの?」と言われたりすると、確かに就職して働く気はないなと・・・。それからは、アルバイトしながらダンスコンテストの入賞を目指すようになっていきました。2001年に「Japan DANCE DELIGHT」で準優勝した時、『ダンスは僕にとって人に誇れるものだ』と思えるようになって、その誇れるものをやめるのは間違っている、これからはダンスで生きていこうって決意しました。
――DAZZLEといえば、物語とダンスの融合した幻想的な世界観が特徴的ですが、そのカラーは、結成当時から変わっていないんでしょうか。
変わっていないと思います。ストリートダンスの世界で名を上げたいと思って結成しましたが、すでに上手いダンスグループがたくさんいらっしゃるわけで。そういう方たちに勝つにはどうしたらいいんだろう、その方たちより抜きん出るにはどうしたらいいんだろうって考えた時に、僕は“独自性”が大事だなと思ったんですね。独自性はそう簡単に手に入れることはできないものですが、とにかく人がやらないこと、気が付かないところはなんだろうと考えました。
その時、ダンスは踊るものだけど、それだけじゃなく、音楽やファッション、構成、空間などいろんな要素をどう選んで組み合わせてくかっていうことで自分たち“らしさ”を出せるんじゃないかと思ったんです。それは、自分たちの足りない技術を埋めるためのアイデアでもあったんですけど、やがてそれが作品としておもしろいってことに気が付いて、そこから独自性に繋がっていった感じです。
また、漫画やゲームに加えて、大学生の時に映画にもハマりまして(笑)。そういった他の文化にある物語性をダンスに加えることも、僕の中で必然だったんです。ストリートダンス側からすると、「お前たちのダンスはストリートダンスじゃない」と言われることもありましたけど、逆に“独自性”というものを意識できるようになりましたね。
――和のテイストが入っているところも、この“独自性”に繋がる感じでしょうか?
そうですね。もともとヒップホップって、アメリカから1970年代に日本に入ってきたものです。僕はヒップホップが好きで練習していく中で、アメリカのダンスを日本人の僕が踊ることに、少し違和感を持った時期があったんですね。それが、僕が「長谷川達也」という人間の表現をしたいと思うことに繋がりました。自分を表現する上で、和テイストの作品に挑戦してみたいと思い作ったのが、『花ト囮』(2009年初演)でした。
――なるほど・・・。長谷川さんの作品はどのような過程で作られていくんですか?
『花ト囮』の当時は、僕の頭の中で出来ている作品を、イメージや言葉でいかにメンバーに伝えて具現化していくか、という作り方をしていたんですが、その作業がものすごく大変でした(笑)。今も基本は変わりないのですが、20年も経つと僕がすべてを言わずとも「こういうことでしょ?」ってメンバーが分かってくれるんです。少しのアイデアを渡すだけで、メンバーが表現を広げてくれる。だから以前に比べたら効率も良いですし、皆で協力して作っている感じがします。
――この20年の中で、転機となる作品を挙げるなら?
やっぱり『花ト囮』ですね。2009年に「グリーンフェスタ演劇祭」最優秀作品賞をいただいたのですが、僕らにとってそれは予想もしていなかったことだったんです。ダンス公演が、演劇祭で賞を取るなんて全く考えていなかった。その頃の僕らの作品は、ストリートダンスではないという評価も受けたりしていて、DAZZLEとしての活動場所を模索しているところだったんですね。「自分たちはどこで表現するのが一番いいんだろうか」と考えていた時に、「もしかしたら舞台なんじゃないかな」と思ったんですが、演劇ではないし・・・。でも、演劇祭できちんと評価していただけて、初めて「ここで表現していいんだ」って実感できたんです。それがきっかけで海外公演にも繋がっていきました。
実は劇場で公演を始めた10年前、「5年後には海外に行って、10年後には国際フォーラムだな」という話をスタッフと冗談で言っていたんですよ。叶うか叶わないはあまり意識していなかったんですけど、それが実現して「ああ、夢って叶うんだなと」。
――多少の入れ替えはあったとしても、ほぼ同じメンバーで20年間活動し続けていくことってなかなか大変だと思うんです。主宰としてメンバーを率いる上で、心がけてきたことはあるんでしょうか?
メンバーが「これ、おもしろいね」「このアイデアいいじゃん」っていうものを僕が常に提示することは、意識しています。僕がおもしろいものを提示できなくなってしまったら、きっと皆ついてきてくれないと思うから。それからDAZZLEというグループが、ダンスに興味がない人が見ても“おもしろい”って思ってもらえる作品作りを常に考えています。
――若い方がDAZZLEの公演を観てメンバーになりたい!って来たりしないんですか?
DAZZLEに入りたいのかな?と、匂わせてくる子はいます(笑)。でも、技術と人間性、報酬を分け合い、過酷な練習に耐えられるか、ということを考えるとなかなか難しいところですね。新メンバーを入れることも考えていったらいいんだろうなって思ったりもするんですが。
――年齢を重ねて、変化していきたいことはありますか?
肉体的なピークは、28歳ぐらいだったなと思うんです。でも、年齢を重ねて体力面は下降していくけれど、考え方は成長していますし、肉体としてではなく表現として、新しいものを見つけていけると思っています。かつての僕は、40歳になっても踊っているなんて想像もしてなかったんですけど(笑)。50、60歳になっても、その年齢なりの表現ができるんだって、今では思えますね。
――さて、改めて今回の20周年記念公演『鱗人輪舞(リンド・ロンド)』について伺います。今回のコンセプトはどこから着想を得たのでしょうか?
世の中には“不朽の名作”と呼ばれる作品がありますけれど、僕もそんな作品を作りたいと思ったんです。“不朽=永遠”という言葉が頭を過ぎり、それをテーマに作品を作れないかなと、いろいろ調べてみて、日本の伝承で人魚の肉を食べる「八尾比丘尼(やおびくに)」の話に行き着いたんです。
――タイトルも長谷川さんがお考えになったんですか?
そうです。永遠を生きる者の“輪舞=ロンド”というイメージで。それは踊りの意味するものでもあるし、輪廻の意味でもある。そんな思いを込めてつけました。
――今回は、二つの異なるエンディングを観客が選ぶ「マルチエンディング方式」など、新たな挑戦にも挑まれるんですね。
「マルチエンディング方式」は、以前からやりたかったんですよね。演劇ではありましたが、ダンスでは珍しいんじゃないかと。作る労力もかかりますし、大変かなと思ったんですが、20周年ということで新しい挑戦をしたいなと思って決めました。最初にお話した「ゲームが好き」ということに由来するんですけど、ゲームには、自分で選択して結末を変えられるものがありますよね。あのおもしろさを取り入れて、観客の皆さんが作品の一部となり、結末を変えることができたら、より作品に入りこんで楽しんでもらえるんじゃないかなって思ったんです。
――マルチエンディングの他に、本作で新たに挑戦していることはありますか?
ダンスシーンをより細かく展開を見せるということにも、挑戦していますね。それから、昨年、坂東玉三郎さんに演出していただいた舞台(『バラーレ』)で、もっと感覚を内側から外側に広げていくということを学んだので、それをもっと取り入れて、ダンスの感情的表現を意識して成長に繋げていきたいと思っています。
――20年の集大成として、また新たなDAZZLEの姿が見られる公演になりそうですね。最後に、改めて公演を楽しみにしている方々へメッセージをお願いします。
ほとんどの皆さんは、日頃喜びや幸せな感情を得たいと思っているでしょうが、そのためにはいろんな感情を得ることが大事だと思っています。現実世界では味わえない感覚をこの舞台で疑似的に体験して、日常の喜びや幸せに気付いたり、心が豊かになったと感じてもらえたら、とても嬉しく思います。
そして「DAZZLEってこんなにすごいことをやっているんだ!」というものを提示して、ダンスのおもしろさ、ダンスの可能性を伝えたいと思っています。僕らの作品はダンスの価値観を変えられると思っていますので、ぜひ観ていただいて、いろんな感情を抱いてほしいです。
◆公演情報
DAZZLE20周年記念公演『鱗人輪舞(リンド・ロンド)』
10月14日(金)~10月23日(日) 東京・あうるすぽっと(豊島区立舞台芸術交流センター)