いとうあさこを筆頭にした個性派揃いの劇団“山田ジャパン”の次回公演『ソリティアが無くなったらこの世は終わり』が、2016年5月11日(水)より東京・CBGKシブゲキ!!にて上演される。本作は、主宰の山田能龍が作・演出を手がけ、2010年に初演され、オールドファンから再演を熱望されていた作品。出演者には、劇団員のほか、5年振りの山田ジャパン出演となるいしだ壱成や、山田が兼ねてから出演を熱望していた与座よしあきなどが集結。脚本も大幅にリライトし、パワーアップした再演について、山田、いしだ、与座の三人に話を聞いた。
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「山田さんは人としても演出家としてもスピッてる」(いしだ)
――いしださんは山田ジャパンに5年ぶりの客演、与座さんは山田ジャパン初参加となるわけですが、それぞれの出演の経緯を教えてください。
山田:いしださんに関しては、2011年に上演した『いいえヴィンテージです。』という作品に出演していただいた時の縁が大前提にあります。その公演では直前に東日本大震災があって、世間の風潮も相まってなんでも“不謹慎”に見えてしまうという事態が起きたんですよね。もちろん、僕たちもメンバーそれぞれの哲学をすり合わせながら上演に関して深く検討を重ねまして。その上で、なんとか自分たちの納得できる公演を打つことができた。だから、メンバー同士の絆が特に深まった公演だったんですよ。
なので、公演が終わってからもいしださんとはSNS上などで年に一度くらいのペースで連絡を取るなど“甘噛み”をして関係が途絶えないようにしていたんです。この再演が決まった時、いしださんのことが思い浮かんで、ダメ元でオファーをしたところ、本当に忙しいスケジュールなのにもかかわらず快諾いただきました。
いしだ:実は、僕も山田さんは気になる存在でして(笑)。Twitterなどでもつい山田さんのタイムラインを追っちゃったり、リプライしてちょっかいを出したりしていました。
――お互い気になる存在なんですね。いしださんにとって山田さんのどういうところが魅力ですか?
いしだ:そうですね・・・やけにスピリチュアルなところ、ですかね(笑)。
一同:はっはっはっは(笑)。
山田:自覚はありませんが(笑)。そういうのを“スピッてる”って言うんですよね?
いしだ:はい、山田さんはいつもスピってます(笑)。
――与座さんも、その山田さんの“スピッてる”感じ、わかりますか?
与座:僕の体調にもよりますけど・・・、感じますね(笑)。
――いしださんのおっしゃる“スピってる”というのは、もう少し詳しくお聞きするとどういう感じなんでしょうか?
いしだ:言葉がすごく的確だったり。オーラとか持っている空気がどんどん研ぎ澄まされているような感じがするんですよ。本人は自覚していないみたいなんですけど。
山田:これお芝居の取材だよね(笑)?
いしだ:いやいや、演出家としての手腕とリンクする能力ですから。
――与座さんの出演の経緯も教えてください。
山田:与座さんに関しては僕がずっとファンで・・・、絶えず甘噛みしてたんです。お会いする度に「与座さん出てくださいよ」って言ってたんですけど、「もちろん~」とか言ってすぐ忘れちゃうんですよ。
与座:ハハハ(笑)。
山田:今回、いしださんと全く対になる役として、与座さんに出演していただけたらめちゃめちゃ面白いだろうと確信して、甘噛みではなく、思いっきりかぶりつきのオファーをしたんです。それで、念願叶って出演していただけることになりました。
――与座さんは、山田ジャパンに対してどのような印象をお持ちでしたか?
与座:僕と同じ事務所のいとうあさこが山田ジャパンの劇団員なので、彼女から山田さんのことをちょくちょく聞いていたんですよ。お会いする度に、山田さんは作家としても、人としてもアップデートされている感じがあって。なんというか・・・ミルフィーユ状に重なっていく魅力を感じていました。
今回は、ガブッと噛みつかれて、山田さんの熱が移ってしまいました(笑)。
「演じていると学生の頃の自分が出たり入ったりする」(与座)
――本作はソリティアを黙々とやり続ける主人公・前田幸二(前やん)とその周りの人間が複雑に絡み合っていくお話だと聞いているのですが、物語についてもう少し突っ込んでお聞かせください。
山田:大きなガイドラインとしては、15才で自らこの世を去った人の存在が、波紋となって周りの人へ影響を及ぼしていく・・・というお話です。実は、これは僕が若いころ体験したことがベースとなっているんです。
中学生の頃、仲の良かった友達が自殺してしまいまして。そんな彼は、自殺に至るまでの心情が記されたノートを残していたんです。それを読むと、最初は「死にたい」とか「生きていても意味ない」とか、不安定な感情が記されているんですけど、だんだんと死ぬことが「かっこいいこと」として記されるようになっていって。読み進めるにつれて、死そのものが、倫理的な「死」とは別もののように感じられるようになっていくんです。
『ソリティアが無くなったらこの世は終わり』という物語はそういった自身の経験をベースに、自殺した15才のノートに魅せられて「手っ取り早く死ぬことが一番クールなことなんじゃないか」って心情を持つようになった男の人生を描いた“コメディ”となっています。
――なるほど・・・。与座さん山田JAPANに初出演ですが、本作に対してどのような印象を持ちましたか?
与座:僕は15才で死を選んだハマチという役なのですが、感覚的には自分と近いところがあるように感じました。実は僕も小学生の頃、「死」を自分と近いところに身を置いていて。「死」を体験として味わってみたいという興味があったんです。だから、稽古をしながら当時の自分が出たり入ったりしている感じがします。
山田:与座さんのコメディ力が半端なくて。死生観にまつわる要となるシーンも与座さんのセリフや表情を見ていると確実に意図をすくってくださっている感じがある。だから、「死」に関しての距離が生っぽく感じるんですよね。
――いしださんは与座さんに対してどのように思われますか?
いしだ:与座さんは岩のような…。
一同:(笑)!
山田:それ見た目でしょ(笑)?
いしだ:見た目ではなく(笑)。不動の存在感があるってことです。今回の役が、与座さんにしかできない役になっていると感じるんです。だから、与座さん演じるハマチという役の余韻が、舞台上ですごく色濃く残るんです。
――与座さんは、いしださんに対してどのような印象をお持ちですか?
与座:いしださんはすごい俳優ですよ!稽古2日目くらいに、台本の終盤部分を僕といしださんと山田さんの3人だけで読み合わせしたことがあったんです。その時、いしださんが力強く引っ張ってくれて。「助かる~!」って思いました(笑)。
山田:とある企画のために、ラストの場面を映像に納める必要があって。乱暴な稽古だったんですけど、いしださんは一発でハマった感じがあった。
それで、「ああ、この芝居はもう大丈夫だ」という確信を持てたんです。あとは練っていくだけだって。
――初演時の2010年からこの6年間の間で、いろんなことが大きく変わったと思うのですが、脚本はどのぐらい書き直されたのでしょうか?
山田:大きな違いのポイントは、2点あります。ひとつは、ソリティアの扱いが変わったこと。初演時の2010年ではソリティアはデスクトップパソコンにセットアップされているもので、暇すぎる人がパソコンに向かって時間を潰すゲームだったんです。でも今はスマートフォンが普及して、ソリティアの扱われ方が違ってきましたよね。
もうひとつは、登場人物の年齢設定です。初演時、前やんは“未来が見えない34才”として描いたんです。でも、今作では僕の実年齢と同じ40才に設定し直しまして。だから、未来に対しての恐怖心が初演とは全く違うものになっていると思います。今思うと34才って、40才に比べれば全然大丈夫じゃんって感じますね。
「誰が見ても代入できる“X”がある」(山田)
――いしださんと与座さんから見た、本作の見どころを教えてください。
与座:いしださん…、お願いします!
山田:考える時間を作るな(笑)!
いしだ:ええと(笑)。一見重々しいテーマなんですけど、つぶさにコメディの要素が含まれているところですかね。
――いしださんのコメディシーンもたくさんあるんですか?
山田:めちゃめちゃありますよ。
いしだ:・・・がんばります!
――与座さんはいかがでしょうか?
与座:僕も、随所に散りばめられる“笑い”が見どころだと思います。シリアスな場面でも笑える箇所があって。笑いって、実は日常の延長にある気がするんです。だから全体を見渡した時に、自分の実生活に帰ってくるような、ドスンと響く味わいが生まれるというか。
――舞台作品としての笑いではなく、あくまで現実としての笑いがあるんですね。まもなく本番を迎えますが、現在の稽古場の雰囲気はいかがですか?
山田:いい雰囲気ですね。20才くらいから40才くらいまでの俳優が中学二年生、中学三年生を演じるという結構メチャクチャな状況になっているんですけど、世代を超えてコミュニケーションが取れていて。風通しの良い感じがあります。
いしだ:僕が感じるのは、笑いに対しての厳粛な雰囲気です。ばかばかしいことに異常なまでにストイックで(笑)。
与座:確かにそれはある。稽古場にいると、笑いがより磨かれていく面白さがあるんです。もちろんシリアスなシーンは、より迫力を持って磨かれていくのですが。出演者みんな個性派なのに、誰も埋もれず光りまくってますね。
――それでは最後に山田さんから本作へかける意気込みを聞かせてください。
山田:今作は僕にしては下ネタが控え目であったりするんですけど、気軽に来てくださったら嬉しいなって。僕の作品は、どうしても笑い無くして描けないし、図らずとも人の傷や闇も出てしまう。『ソリティアが無くなったらこの世は終わり』は特に、そういった笑いと闇がリアリティを持って共存している舞台だと思っています。
だからこそ、刺激的な舞台にはなっていると思います。痛みと人間の大雑把な生命力が入っているので、誰が見ても代入できる“X”があるはず。でも、まあ基本的には、笑いに来てください!
◆山田ジャパン『ソリティアが無くなったらこの世は終わり』公演情報
2016年5月11日(水)~5月15日(日) 東京・CBGKシブゲキ!!
◆プロフィール
山田能龍(やまだよしたつ)
1976年4月8日生まれ、大阪府出身。2008年6月、日本演出者協会主催の若手演出家コンクール2007優秀賞受賞メンバーを中心に、『ゲーセン下ル』にて山田ジャパンを旗揚げ。以後、山田ジャパン全作品の脚本・演出を手がける。劇団、外部問わず数多くの舞台をプロデュースする傍ら、TVドラマや映画への執筆も行う。近年はアーティストのライブツアーやPVの演出、ラジオ番組の立ち上げ・構成、また2015年には初の映画監督を務めるなど活躍の場を広げ、多方面から注目を集めている。
いしだ壱成(いしだいっせい)
1974年12月7日生まれ、東京都出身。1992年にTVドラマ『悲しいほどお天気』(CX)にてデビュー。その後、『放課後』(CX)、『ひとつ屋根の下』(CX)、『未成年』(TBS)など、ドラマ、映画の話題作に次々と出演。舞台では、『スーパーダンガンロンパ2 THE STAGE ~さよなら絶望学園~』(2015年)といった2.5次元作品から劇団公演まで幅広い作品に出演している。
与座よしあき(よざよしあき)
1976年10月1日生まれ、沖縄県出身。お笑いコンビ「ホーム・チーム」として活動も2010年をもって解散、ピン芸人になる。俳優としても評価が高く、コミカルな演技と個性的な容姿に定評がある。TVドラマ『ムコ殿』(CX)や連続テレビ小説『ちゅらさん』、『どんど晴れ』(以上、NHK)、映画『涙そうそう』、『UDON』、『69 sixty nine』『曲がれ!スプーン』など多数の作品に出演。舞台は、『ボクの妻と結婚してください。』(2014年)、
SOLID STARプロデュース『三ツ星に願いを!』(2015年)、『ヨビコ―!!~You be cool!~』(2016年)など。アクションと三線(沖縄三味線)が得意。