現在、新国立劇場で上演中の鄭義信・三部作。一作目の『焼肉ドラゴン』に続き、4月6日(水)より『たとえば野に咲く花のように』が幕を開ける。4人の男女を中心に、愛するものに愛されない人々の恋を描く本作。朝鮮戦争を背景にしつつ、人はいつの時代も恋をし、生きていく——。
物語の中心となる、二人の対照的な女性を演じる、ともさかりえと村川絵梨に話を聞いた。
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満喜とあかね―正反対の女性を演じる二人
――稽古は2月の中旬から始まったそうですね。どんな雰囲気ですか?
村川:和気あいあいとしています。みんなでホンワカと笑ってますね。
ともさか:そうですね。稽古場での過ごし方って役者さんによって全然違うんですけど、それぞれの得意なことや苦手なことをお互いに笑いあえる、風通しがよくて、いい稽古場だなと思います。
――お二人の役についてお聞きしたいです。どちらも恋する女性ですが、正反対のタイプですよね。
ともさか:ええ。満喜(まき)は、祖国を捨てて日本で暮らす朝鮮人です。戦地から帰ってこない恋人への思いを6年も抱えながら生きています。山口馬木也さん演じる康雄に何度も言い寄よられても、帰らない恋人のことをずっと思っている。
村川:カッコ良いですよね。芯が強くて、ミステリアスで、とても素敵です。
ともさか:でもなんだか笑えてきちゃうんですよね。カッコつけてると面白くなっちゃって(笑)。きっと私と満喜はまったく似てないんでしょうね。私なら恋人が6年も帰ってこなかったら、さっさと次の人にいっちゃいそう。でも、置かれた状況と時代が違うと待つのかなあ。今の私たちには、恋人が戦地に行くなんて想像がつかないですよね。満喜は6年経っても帰ってこない彼にまだ愛があるのか・・・あまりセリフが多い役ではないので、今、自分の中で想像を組み立てているところです。
村川:私の演じるあかねは、満喜とはまったくの真逆なんです。満喜は言葉数が少なくてすごく芯が強い人だけど、あかねは反対。とてもよく喋るんですけど、芯が弱い。婚約者の康雄さんに過去に救ってもらったことがあり、ずっと執着していて、康雄が満喜を好きになっても、婚約を破棄されても、康雄を愛して愛してやまないんです。お酒にも依存しちゃうし、何かに縋らないと生きていけない。男性から見たら絶対彼女にしたくないタイプだと思います(笑)。はたからみたら真っ直ぐに見えるけど、すごく脆い。弱い部分があるから逆に強気になってしまう儚さを持っているんです。私はあかねとは真逆のタイプなので、あかねみたいになりたいって憧れることもあります(笑)。
――お二人とも、役とご自身は似ていないと感じているんですね。お互いの印象などはどうですか?
村川:そうですね。ともさかさんはずっとテレビで見ていて、すごく強いイメージがあったんですけど、ご本人はホワンとしていて吸い寄せられてく感じがします。満喜とは違いますね。
ともさか:絵梨ちゃんも、あかねと違ってお姉さんキャラだよね。みんなが甘えたくなるような包容力があるんですよ。
村川:急にみなさんに「姐さん」とか言われて、本当にビックリですよ!
ともさか:絵梨ちゃんがお酒を飲んでるところを見ると、「ホントすみませんでした。ついていきます!」っていう気持ちになる(笑)。
村川:そのネタをいつも言われる!別にお酒は強くないんですけど(笑)。
ともさか:お酒を飲んでる姿がカッコイイんですよ。会う前の絵梨ちゃんはもっと甘いイメージだったので、いい意味で裏切られました。存在しているだけで可愛いから、あかねとして嫌な事や意地悪を言っても、なんか可愛いくて憎めないような、根っからの愛らしさがある。今、稽古場で隣の席に座っているんですけど、すぐ絵梨ちゃんに触りたくなっちゃうんです。
村川:(ともさかが)いつも猫みたいに触ってくるので、ドキドキしちゃうんですよ~!ともさかさんは普段がホワ~ンとしてるのに、舞台に立つと佇んでるだけで雰囲気があって、ともさかさんの周りからいろんな色が出てるように見えるんです。あと、芝居が始まるとピシッ!と切り替わるところがカッコイイ。「スイッチが入るの早っ!」って思います。
ともさか:そう見える?自分では割と時間がかかっちゃうタイプだと思ってるんだけど・・・。ダメ出しをもらった時とか、自分の中で消化して、じゃあやってみようとなるまでに時間が必要なんです。でも絵梨ちゃんは「こうやってみて」って言われたことに対してすぐ対応できるからすごい。いろんな事をキャッチする力に長けてるんだと思う。
どうにでもなれるという自由な感じがして、先の展開はわかっているんだけど、次に絵梨ちゃん何やってくれるんだろう?って楽しめちゃう。特にあかねはちょっと有り得ないような事ばっかりしでかしますしね(笑)。
山口馬木也は不思議な人?!
――鈴木裕美さんの演出はどのような感じですか?
村川:学校の授業みたい。久々に学生みたいな気持ちで「個別に指されたらどうしよう・・・」って思っています(笑)
ともさか:裕美さんの中には「この役はこうあってほしい」という、その役の核になる部分のイメージが明確にある。こういう演技をしてほしい、とかは絶対におっしゃらないですけど、台本に書いてある何気ないセリフの裏側に隠されているものを、宝探しみたいに見つけていく作業を繰り返しています。でも自分の中でイメージできる事なんてたかが知れている。そんな時に裕美さんが、私が想像もしていなかったポイントからアドバイスをくださるので、日々「なるほど」と思いながら気持ちを整理しています。裕美さんの演出を受けていると「演劇やってるな」ってしみじみと感じます。
村川:裕美さんはよく、「感情を引き裂いて」っておっしゃいますよね。多くの登場人物がそれぞれ複雑な事情を抱えているから、演じている自分の感情が引き裂かれるほどの葛藤がないと、あかねはただの勝気なわがままなおてんば娘になっちゃう。
ともさか:「引き裂かれる」とか「真逆の事であって欲しい」ってよく言われます。どのキャラクターも、陽気に振る舞っていてもしんどかったりして、切ないんです。
――お二人が演じる女性の間にいる康雄を演じられるのが、山口馬木也さんですね。
村川:馬木也さん・・・不思議な人ですよね(しみじみと)。
ともさか:謎過ぎて、いまだにちょっと分からない(笑)。稽古場でも一番の注目株だよね。みんながいつも馬木也さんの動向を気にしながら稽古してる感じ。お会いする前は、馬木也さんってすごくスマートで、今回演じる康雄のようなダークなイメージがあったんだけど・・・実際はとにかくチャーミングで面白いんですよ。ヘビーなシーンでもニヤニヤしちゃうようなことを馬木也さんがするので、みんな和ませてもらってます。
村川:そこに演出の(鈴木)裕美さんがすぐツッコむんですよね!
ともさか:瞬殺だよね。
村川:傷が痛くて呻くシーンで、馬木也さんが「うぅ・・・」と唸ると、すかさず裕美さんに「いや、そんな痛くないでしょ!」ってツッコまれて、みんな大爆笑(笑)。
ともさか:あれは面白かったね(笑)。
村川:あと、満喜に話しかけるシーンでちょっと甘えた感じを出したら、「それ違うでしょ!」って言われてて。その後に馬木也さんと話したら、「でもオレ末っ子だから、つい甘えちゃうんだよね~」なんて言ってました(笑)。
鄭義信三部作、それぞれが描く「愛」
――鄭義信さんの三部作のひとつとして上演されることについては意識されていますか?
ともさか:三部作の1作目である『焼肉ドラゴン』を観に行った時に、『たとえば野に咲く花のように』にもあるフレーズが出てきたんです。だから、作品のテイストは違っても、鄭さんの言いたい事や投げかけたい事は作品に根づいているなと感じました。特に私の演じる満喜は、『焼肉ドラゴン』で描かれる家族と同じく祖国を捨ててきたというバックボーンがあり、すごく意識してしまいました。それでなくても、『たとえば野に咲く花のように』はもともとギリシャ悲劇『アンドロマケ』をベースにしていて戦後の日本の雰囲気とは違うので、難しいなと感じていたんです。
でも、裕美さんが「自分も含めて、みんな鄭さんの三部作ってことを意識してしまってたけど、一人一人の役者が一つ一つのキャラクターと向き合って、舞台上でそのように生きる、ということに誠実になれれば、別に意識しなくてもいい!」というようなことをおっしゃって、私も「ああ、そうだな」と腑に落ちました。
――鄭さんはこの作品については何か言っていましたか?
ともさか:本読みの日に稽古場に来て下さったので、その時に少しお話しさせていただきました。
村川:作品については「お任せします」と言ってくださいました。裕美さんがおっしゃったように、あんまり意識しなくていいよ、という感じでしたね。
――三部作とはいえ、『焼肉ドラゴン』とも『パーマ屋スミレ』ともまたテーマが違いますよね。
村川:『焼肉ドラゴン』と同じくテーマは「愛」ですが、また違うかたちの「愛」ですね。『焼肉ドラゴン』は家族の愛や葛藤で。
ともさか:この作品は「恋愛」ですよね。若い世代の人にとっては、朝鮮戦争や在日コリアンの方の気持ちはピンとこない人もいらっしゃると思うんですけど、描いているのは恋の物語です。私だってもちろん戦争も知らないし、自分の生活からは完全にかけ離れたものだと思うけど、鄭さんの作品を観るとなんかすごく知ってるような気持ちになる。描かれているのは当たり前の人の営みだから、観ていて感情移入したり、なぜか泣けてしまったり、苦しくなったりしちゃうのかな。
村川:『焼肉ドラゴン』もそうですよね。「共感したか?」と言われたら、共感して泣いたわけではない気がします。そこに生きる役者さんの熱量に感動して、なんか泣いちゃったなぁ。
ともさか:鄭さんの作品に出てくる人たちって、みんな可愛くて愛おしいんだよね。
村川:みんながいろいろな事情を抱えながら全力でぶつかっているエネルギーがありますよね。しかも今回は新国立の小劇場なので、お客さんとの距離も近くてリアリティを感じられると思います。舞台の醍醐味、緊張感、笑い、切なさ・・・全部が盛りだくさんです。しかも、“恋愛”って誰もが共感しやすいテーマなので、舞台を観に来て良かったって気持ちになってもらえる作品になるなんじゃないかな。
ともさか:『たとえば野に咲く花のように』は時代設定が1950年代なので、なかなか感情移入しにくいのではないかと思われる方もいるかもしれないですけど、基本は恋の話なので、気付けば誰かに共感できたり、思いを馳せたりできる作品です。戦争って遠い昔の事のようだけど、その時代にもこうやって普通に人を愛したり、当然だけど人の生活があったんだなと実感します。その人々の営みの中に鄭さんのいろんなメッセージが隠されているので、一緒に体感していただけたらいいなと思います。
◆プロフィール
ともさかりえ(満喜役)
1992年、12歳でCMデビュー。95年、ドラマ『金田一少年の事件簿』深雪役で注目を浴び、以降、ドラマ、舞台、映画、CMなど幅広く活躍。主な舞台は『トランス』『SLAP STICKS』『ヴァージニアウルフなんてこわくない?』『まどろみ』『ネジと紙幣-based on 女殺油地獄-』『黴菌』『鎌塚氏、放り投げる』『鎌塚氏、振り下ろす』『虹とマーブル』『祝女』など。
村川絵梨(あかね役)
2002年にダンス&ボーカルユニット「BOYSTYLE」で歌手デビュー。2004年、映画『ロード88〜出会い路、四国へ』で初主演。2005年にはNHK連続テレビ小説『風のハルカ』ヒロインに選ばれ注目を集める。以降、映画、テレビ、CMなどで活躍。主な舞台は『歌姫』『ラスト・ファイヴ・イヤーズ』『朗読劇 私の頭の中の消しゴム』『醒めながら見る夢』『今ひとたびの修羅』など。
◆鄭義信 三部作 Vol.2『たとえば野に咲く花のように』公演情報
2016年4月6日(木)~4月24日(日) 東京・新国立劇場 小劇場 THE PIT
作:鄭義信
演出:鈴木裕美
出演:ともさかりえ、山口馬木也、村川絵梨、石田卓也、ほか