世界的に有名な物語、『ピーターパン』のその後をモチーフに描かれている、2010年に初演、女性のみのキャストで三度上演されてきた人気ガールズミュージカル『フライングパイレーツ』が、今回“featuring GUY’S”として男性キャストを迎えて新たなステージを披露する。今回追加された、男性俳優だからこそできる臨場感あふれるアクションシーンにも期待だ。ピーターパン役の猪野広樹とフック船長役の村上幸平に公演に向けての意気込みを聞いた。
――これまで女性のみのキャストで上演されてきた作品に、featuring GUY’Sとして初参加するわけですが、出演が決まった時の感想から聞かせていただけますか?
猪野:お話をいただいて、前回公演のDVDを見た時に、これをどう男性でやるのか最初は少し不安でした。でも、稽古を始めてみて、アクションとかすごくかっこいいし、自分にとっても、新たに得るものがある舞台になるんじゃないかと今は感じてます。例えば、アクションだったりお芝居だったり、新しい可能性が自分の中で広がっています。それをいつも応援してくれてる皆さんに見てもらって、その人たちが少しでも前向きな気持ちになってくれたらいいなと。もちろんこれまでに『フライングパイレーツ』を観てくださった方々にも、僕たち男性キャストが加わったことでさらにかっこいい、面白いと思ってほしいですね。これまで観に来る人は男性が多かったと思うんですけど、その男性の皆さんも巻き込んで、一緒に作品を作っていけたらと思ってます。
村上:・・・えっと、心境からまとめまで、全部言っちゃった、だいぶ言っちゃったね(爆笑)。
猪野:あっ、ああっ、すみません!! 僕、こういう取材、苦手なんです・・・。今の僕の話、なしにしてください!
村上:こうなったら、この後はプライベートの話をしてよ(笑)
猪野:いやいやいや・・・幸平さん!(焦)。すみません、ここから始めましょう!
村上:ははは(笑)、大丈夫だよ。出演が決まった時の話だよね?
猪野:はい・・・幸平さんはいかがですか?
村上:僕は、フック船長役を演じられることがとっても嬉しくって。フックって、誰もが知ってる有名な悪役だと思うし、僕も小さい頃『ピーターパン』を見て、フックは悪役なんだけど、心惹かれる部分はあって、役者になってやっぱり一度は演じてみたいと思ってた役。今回、オファーをいただいてとても嬉しかったです。
前代未聞! 前半はがっかりなピーターパン?!
――今回の作品は、皆が知ってる『ピーターパン』のその後のストーリーを描いているんですよね。ピーターパンたちのいるネバーランドは、子どもの国ではなく、フック船長が築いた経済大国になっているという。
猪野:はい。フック船長は、商社の社長になってます。僕はその商社の係長なんです。仕事ができなくて、常にクビがかかってる。ここでクビにされたら生きていけないと、ひたすらフックにゴマをするような人になってる。ピーターパンはかわいそうなんです。皆さんが考えているようなピーターパンとフックの関係ではないところがこの作品ならではですね。その上ピーターパンはティンカーベルと結婚しているんですけど、そのからみのシーンは面白いかと思います。
村上:そうそう(笑)。
猪野:ですよね(笑)。2人のシーンはホント面白いですよ。あだちあさみさんがティンカーベル役なんですけど、あの方は本番でも、アドリブでいろいろぶっこんでくると思うんです。僕もそれに負けないようにしないと。ティンカーベルとのやり取りを見てほんわかした気分になってほしいです。
――村上さんは、今回のストーリーについての感想はいかがですか?
村上:僕たちの知ってる『ピーターパン』の続きの話ってスタンスなのが、すごく面白いと思う。僕の役に関していえば、ピーターパンは大人になったことで、変わったものがあると思うんですけど、フックはもともと大人でしたから、あの時もいまも、ブレてないんですよね。僕は今回、僕自身が小さい頃から憧れているフック船長をそのままやれると思って、すごく楽しみなんです。ダメなピーターパンを、めっちゃいじめてあげようかなと。
猪野:こえ~(笑)。
村上:台本に書いてない部分をふくらますよ! 前半は皆さんにがっかりなピーターパンになるかもしれないな~。
――稽古場は、演出の貞方祥さんと意見交換しながら、かなりスピーディーな稽古になっているようですね。
猪野:そうですね。稽古始まってから間もないんですけど、最後までさらっているし。演出家の貞方さんも、アクション監督の翁長さんも、「こうしたいんですけど」って言えば、「じゃ、それ入れてみようか」って言ってくれる。非常にやりやすい現場です。居心地もいいですし。
村上:そうだね、この作品自体は、すでに3回公演されているので、男性キャストは初めてですけど、作品の形は出来てるんだよね。これまでがあって、それを踏まえてのベストが貞方さんをはじめとする稽古場にはあるんですよ。そこに僕らは早く追いつかなきゃ行けないっていう思いで臨んでいます。追いついたら、そこから自分らしさを出していけたら良いなと思います。
――自分らしさを出していきたいということですが、いろんな方が演じてきたフック船長を、村上さんはどんなふうに演じようと思っていますか?
村上:フック船長の魅力は、“ギャップ”だと思うんです。悪なんですけど、ちょっとうっかりしてる部分があったりとか、そういうギャップ。強いんだけど、ワニが苦手で驚いてしまうお茶目な部分とかもそうですよね。そういったところを、僕らしく表現できたらなと思います。
――猪野さんは、ピーターパンをどう演じようと思っていますか?イメージとかありますか?
猪野:この作品でいえば、これまで女性が演じてきたピーターパンを男の僕が演じることだけでも作品の印象が変わると思う。男の僕が演じるからこそできる、この作品の中でのピーターパンというキャラの魅力をたくさん見つけて引き寄せたい。これまでのこの作品で演じられてきたピーターパンをなぞらないようにしたいです。
――自分の中で、ここはピーターパンに生かせそう、みたいな部分はありますか?
猪野:僕、ネクラなんですよね・・・。
村上:そうなの? 何やってるの? 家にいるの?
猪野:家でずっとゲームしてます。そういう意味では、物語前半のピーターパンに近いかもしれない(笑)。
村上:それじゃ、家からゲームのコントローラー持ってきたら?
猪野:あ、それいい! ゲームしている感じを生かしたらいいんだ!
村上:「それじゃあ仕事できないよな」って雰囲気でるんじゃない。ダメだな~みたいな。
猪野:「あっ、またゲーム負けちゃった。仕事したくない」みたいな(笑)。
村上:いいよ~。ちょっとそれ稽古でやってみたらどう?
猪野:じゃ、ゲーム機を用意してもらって・・・。
村上:それは自分で持ってくるの!(笑)
猪野:そのほかにも活かせる部分あるかな・・・。そうだ! ここぞという時に、「やるぞ!」って思った時のエネルギーかな。物語の終盤で、ピーターパンらしい姿になるんですけど、そこの部分で覚悟を決める感じは活かせそうだな。
ドラマティックなアクションシーンに注目!
――クライマックスのピーターパンとフック船長の対決シーン、かなり見応えのあるシーンになると聞いています。
村上:もうだいたいアクションは固まりましたね。非常に、なかなかドラマティックですよ。
猪野:うん、かっこいい!
村上:ただのアクションで、戦ってる感じではなくて、ちゃんと“ストーリーが見えるアクション”というか。心情が乗っかってるアクションになってると思います。
猪野:わりと男臭い、ですよね。
村上:熱いですよ~。熱過ぎるがゆえに、対立してるのに仲良くなっちゃう感じ? なんか通じあっちゃって、みたいな(笑)。
猪野:ですね。オーラスのアクションやってる時、幸平さんの目を見ると楽しそうで、「おれも楽しい!」ってなっちゃってます。
村上:その通じ合っちゃう感じも感じてもらえたら。この場面だけでも1本作品ができそうですよ(笑)。
――クライマックスシーン、期待しちゃいます。でも、ここだけでなく、全編通してアクションシーン満載なんですよね。
村上:そうですね。僕ら男性陣が出ることで、これまでよりそこがぐっとボリュームアップされていますね。
――これまでもアクションや殺陣はやられてきてると思いますが、苦労していることはありますか?
村上:フックとサーベルを生かしたアクションをつけていただきました。やったことのある日本刀とは違うアクションなので、いろいろと勝手が違って苦労してますね。それが出来ればかなりかっこいいんですよ・・・もっと稽古します(笑)。
猪野:僕もやったことないナイフです。めちゃめちゃ短いナイフで、ほぼボディアクションみたいな感じなんです。まだ、相手の動きを待ってるときの構えが、長い刀を扱ってるような、日本刀の構えになっちゃうので(笑)。帯がないのに腰に手を置いちゃうとか。これからの残りの稽古で対応していきたいですよね。
――さらに、歌もあると聞いています。
村上:そう、歌も5、6曲あるんじゃないかな。その中には僕のテーマソングもあるので、ただ歌うだけじゃなくて、フックの心情で歌うことを意識したいと思います。
猪野:歌もセリフ、って言われるじゃないですか。上手く歌うには、僕は限界あるんで(笑)。
村上:僕ら役者ですからね(笑)。・・・ダンスもそんな感じで。
猪野:そうそう。
――アクションが得意な二人だったら、ダンスもお手のものですよね?
猪野:・・・ダンスは苦手です。
村上:僕も、全然だめ。
猪野:振りを覚えるのがいつも遅いんです。だからいつも公園で自主練習しています。
村上:なんだろ、ダンスに関する引き出しがないんだよね。
猪野:そう! 自分が何の動きしているかわからなくなる。
――体を動かす意味では、アクションを覚えるのもダンスを覚えるのも通じているイメージを持っていましたが・・・。
村上:それがちょっと違うんですよ。
猪野:僕もそう思ってたんです。なんで殺陣は覚えられるのに、ダンスは覚えられないんだ、って。不思議です。
――二人がダンスが苦手という共通点が見つかったところで、今回初共演ですが、初めて会った時のお互いの印象から、稽古を一緒にやってきて変わりましたか?
猪野:初めて会ったときは、最初、「あ、怖い人来た!」って感じで。
村上:なんでだよ!
猪野:オーラに負けてしまってました。でも、稽古が始まったら、めちゃめちゃ優しいんですよ。何においても優しくしてくれますし。「この場面、もう一回いいですか?」ってお願いしたら、「いいよいいよ、やろう!」ってつき合ってくださって。ほんと、“兄貴”っす。あと今は、ザリガニです。
村上:え?
猪野:ザリガニ、ってイメージ(笑)。そのせいかもしれないですけど、めっちゃ頭いいイメージがあるんですよね。幸平さんご本人が、すごく真面目な人だと思いますし・・・。※村上はIAA(世界ザリガニ学会)学会員としても知られている。
村上:いやぁ~今の言葉全部書いてくださいね! ラーメンおごるわ!
猪野:よっしゃ!!
――村上さんは、猪野さんの印象はいかがでした?
村上:いやーキラキラしてますよね!
猪野:ネクラですよ。
村上:いやいや、目がキラキラしてる! 初めて会ったときから、まぶしかった。なんか、俺が失ってしまったものを持ってる、いまの俺にはこの輝きはないな・・・みたいな(笑)。年齢が倍近く下ですから。すごく一生懸命で真面目、この姿勢は改めて忘れないようにしないと、と思い出させてくれる。
猪野:そんなそんな。僕こそ、幸平さん、稽古場でずっと台本読んで集中してる姿を見て、「やべ、俺もやらなきゃ」ってなってます。
村上:僕わりと、真面目なんですよ(笑)。
――では、この機会にお互いなにか聞いてみたいことありますか?
猪野:いろいろあるんだけど…プライベートなこととか。幸平さんの好きな女性のタイプは?
村上:俺の仕事を応援してくれる人かな(照)。タイプは?
猪野:僕ですか? お姉さん気質の方がいいです。俺きちっとしてない人なんで、「ダメだぞ」「ごめんなさい」みたいな(笑)。
村上:あと、ゲーム一緒にやってくれる人だろ?
猪野:そうです! あと、サッカーを一緒に見てくれる人!
村上:それ良いな! 一緒に見てくれる人。サッカー好きなんだ?
猪野:はい。ユニフォーム着て。飽きないで一緒に見続けられる人がいいです。
村上:なるほど、俺もそれは納得。猪野くんは、ラーメンは好き?
猪野:魚介とんこつの、つけめんが好きです。
村上:じゃ、こんど美味しいとこ連れて行ってあげるよ。
猪野:やったー!
――ラーメンで、二人の関係は深まりそうですね! 最後に、改めて今回の作品に向けての意気込みをお願いします。
猪野:どのシーンにも意味があって、そこにはそれぞれの思いがある。稽古場で1つ1つのシーンを皆で相談しながらちゃんと作って、自分なりのピーターパンを作っていきたいです。アクションシーンも、めちゃめちゃスピード感ある、派手なものになると思う。一気にひきこまれると思うし、爽快感もあると思う。期待して来ていただけたらうれしいです。
村上:今までも悪役はやってきましたが、今回のフック船長は、ファンの方も期待してくれてると思うので、自分の中にあるものだけで表現するんじゃなくて、なにか新しいものを見せられたら。また、ファンタジー作品なので、観に来ていただいたお客さんに夢の国を体験していただいて、キラキラしたものを持って帰っていただけたらなと思います。お楽しみに!
◇猪野広樹(いの・ひろき)プロフィール◇
1992年9月11日生まれ、神奈川県出身。2009年、ドラマ『猿ロック』でデビュー。ドラマ、舞台、CMで活躍中。最近の主な舞台出演作に、ミュージカル『薄桜鬼』、『最後のサムライ』など。11月14日(土)より、東京、大阪、宮城で上演される、ハイパープロジェクション演劇『ハイキュー!!』に出演。
◇村上幸平(むらかみ・こうへい)プロフィール◇
1976年6月1日生まれ、東京都出身。1995年よりモデル活動をスタート。「第7回ジュノン・スーパーボーイコンテスト」で審査員特別賞を受賞。2003年、ドラマ『仮面ライダー555』の仮面ライダーカイザ/草加雅人役で注目され、以降ドラマ、映画、舞台で活躍。最近の舞台出演作に、SOLID STARプロデュースVol.4『三ツ星に願いを!』、『百千さん家のあやかし王子』など。
『フライングパイレーツ ネバーランド漂流記―featuring GUY’S』
◇あらすじ◇
進学校に通う女子高生・水野曜の夢は、ネバーランドに行って子どもの頃に会ったピーターパンと再会すること。ある放課後、曜と友人の純、舞子、奈々は近くの海岸の小舟で「海賊ごっこ」をして遊んでいると、曜たちを乗せたまま小舟は空高く舞い上がる。このまま夢の国ネバーランドへ向かうことを確信する彼女たち。予想通り、ネバーランドにたどりつくが、もはやそこは子どもの国ではなく、海賊のフック船長が築き上げた経済大国に変貌していたのだった。そして、大人になったピーターパンは、フックが経営する商社でサラリーマンとして働いており、平穏な生活を壊されたくないと曜に関わることを避けるのだった。フックの悪巧みを知った曜は、ひとりでフックたち海賊に戦いを挑むが――。
2015年9月18日(金)~23日(水) 東京・新宿LIVE
作・演出:貞方祥
出演:小田島渚、猪野広樹、村上幸平、服部翼、あだちあさみ、永田浩司、小野瀬みらい、芦原優愛、伊藤千恵子、小原春香 ほか