2026年5月から7月にかけて、東京、大阪、愛知で上演中の『レッドブック~私は私を語るひと~』。女性が自由に物語を語ることすら許されなかった時代を舞台に、自分自身を語ることの尊さと、理解できないものを知ろうとする想像力の大切さを描く本作の魅力を、舞台美術や楽曲、登場人物たちの姿を通してレポートする。

「私は誰なのか?」から始まる物語
ミュージカル『レッドブック~私は私を語るひと~』は、女性作家たちによるロマンス小説雑誌「レッドブック」に着想を得たしたオリジナルミュージカル。主人公アンナが、自らの言葉で物語を書くことを通して「自分らしく生きること」と向き合っていく姿を描く。咲妃みゆ、小関裕太、花乃まりあ、田代万里生ら実力派キャストが集結し、文学や表現の自由をテーマにした物語を彩っている。

「私は誰なのか?」
その根源的な問いから幕を開ける『レッドブック~私は私を語るひと~』は、自分自身を語ることの尊さと、理解できないものを知ろうとする想像力の大切さを描いた作品だ。
舞台はロンドン。
紳士淑女、そして“その他大勢”として生きる人々が暮らす社会のなかで、咲妃みゆ演じるアンナは常に疎外感を抱えているキャラクターだ。「女のくせに」という価値観が当たり前の時代のなかで、彼女は周囲と馴染めず、自らを“変わり者”だと言われながら生きている。咲妃の持つ可憐さとまっすぐな存在感は、アンナの孤独や不器用さを際立たせる。一方で、投獄されるという過酷な状況にあっても「悲しいときはセクシーな夢を想像する」と語る場面では、彼女の内に秘めた自由な感性や妖艶さものぞかせていた。
自分の言葉で物語を書くという夢
そんなアンナの人生を大きく動かすのが、小関裕太演じるブラウンとの出会いである。ブラウンは真面目すぎるほど“紳士”という理想に強く憧れるキャラクター。同じく“紳士”に憧れを抱く双子の兄弟、ジャック(中桐聖弥)、アンディ(加藤大悟)と共に歌う「紳士の流儀」では、その過剰なまでの憧れがユーモラスに描かれ、作品に軽やかな彩りを添える。

しかし彼の魅力はそこだけではない。
アンナをタイピストとして雇うことになったブラウンが、アンナを追い出したい一心で口にした「この世のものにはそれぞれ存在する理由と長所がある。君はきっと奇跡を起こす人だ。」という言葉。その言葉は、長らく自分の価値を見出せずにいたアンナの背中を押し、やがて“自分の物語を書く”という夢へと繋がっていく。
女性が自由に物語を書ける場所があると知ったアンナが辿り着くローレライの丘も、本作を象徴する場所だ。社会から理解されなくとも、自らの言葉で物語を書き続ける女性たちが集うこの場所には、「ありのままの自分を描く」という創作の喜びが満ちている。花乃まりあ演じるドロシーは、その中心でメンバーたちを包み込む存在として大きな安心感を与えていた。

「愛は天気のように」―変化を受け入れるということ
本作の楽曲のなかでも特に印象的なのが「愛は天気のように」である。離婚裁判を前に「なぜ愛は変わってしまうのか」と悩むブラウンに対し、アンナは愛とは天気のように移ろい続けるものだと歌う。咲妃と小関の柔らかな歌声は穏やかな陽だまりのような温かさを持ち、観劇後も耳に残る。この楽曲は単なるラブソングではなく、変化を受け入れることの大切さを示す、作品の重要なテーマそのものだ。
そして第一幕ラストを飾る「罪な女」。ブラウンによってレッドブックが地面に叩きつけられたことをきっかけに、アンナは自分が本当に守りたかったものと向き合う。レッドブックは単なる本ではない。それは彼女にとっての愛であり、自分自身そのものだった。「非難と嘲笑すべてにキスを」と歌いながらタイピングを続けるアンナの姿には、他者の評価に屈しない強さが宿る。咲妃が体現する芯の通った女性像が最も鮮やかに輝く瞬間だった。
レッドブックが問いかける表現の自由

象徴的なのは、タイトルにもなっている“レッドブック”という存在である。女性作家たちによるロマンス作品が集められた雑誌でありながら、その赤裸々な言葉ゆえに危険視され、裁かれる対象となる。
舞台美術では、灰色の本が並ぶ巨大な本棚をモチーフにした美術が様々な表情を見せてくれる。そのなかでひときわ目立つ鮮やかな赤い本は、社会が“悪影響”と決めつけるものの正体を問いかける。
また、田代万里生演じるローレライの存在も忘れ難い。
かつて“ローレライ”という女性が抱いた「女性が自由に表現できる城をつくりたい」という願い。その意思を継ぎ、自らローレライとなってローレライの丘を築き上げたその人生は、本作のもうひとつの希望の物語でもある。
人々はそれぞれのペンを握り、白い紙の上に自分だけの城を築いていく。その姿は、女性たちが自由に表現できる未来への希望そのものだった。
田代はその複雑な背景を持つ人物をコミカルかつチャーミングに演じ、この作品に太陽のような明るさをもたらしていた。一方で、エハラマサヒロ演じる評論家ジョンソンも印象的だった。価値観を押し付け、他者を裁こうとする姿には嫌悪感を覚える。しかし、その滑稽さや人間臭さゆえにどこか憎みきれない。ローレライが太陽ならば、ジョンソンはその光を遮る雲のような存在と言えるだろう。
「第二の誰か」ではなく「第一の自分」へ
本作が描くのは、「変」という言葉によって描かれる偏見と、それを乗り越えるための想像力である。理解できないものを排除するのではなく、知ろうとすること。相手を思うことと理解することの違いに気づき、ブラウンは学びながら変化していく。そして作品が手渡すのは「第二の誰かではなく、第一の自分になる」というメッセージだ。
終盤、アンナは自らの言葉で語り続けることを選ぶ。真っ赤な照明のなかでタイピングをし続けるその姿は、自分自身であり続ける覚悟と、これからも物語を紡ぎ続ける未来を象徴していた。
愛は天気のように移ろうかもしれない。それでも、自分の言葉で語り続ける限り、物語は終わらない。『レッドブック~私は私を語るひと~』は、そんな力強い肯定を観客へ手渡してくれる作品だった。
ミュージカル『レッドブック~私は私を語るひと~』は東京、大阪公演を経て7月4日(土)から7月5日(日)まで愛知・御園座にて上演される。
(文・きのね/【舞台写真】撮影:田中亜紀)
ミュージカル『レッドブック~私は私を語るひと~』公演情報
| 公演情報 | |
|---|---|
| タイトル | ミュージカル『レッドブック~私は私を語るひと~』 |
| 公演期間・会場 | 【東京公演】 2026年5月16日(土)~5月31日(日) 東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場) 【大阪公演】 2026年6月27日(土)~6月30日(火) 森ノ宮ピロティホール 【愛知公演】 2026年7月4日(土)~7月5日(日) 御園座 |
| スタッフ | 脚本:ハン・ジョンソク 作曲:イ・ソニョン 演出・上演台本・訳詞:小林香 音楽監督:桑原まこ |
| キャスト | アンナ役:咲妃みゆ ブラウン役:小関裕太 ドロシー役:花乃まりあ ジョンソン役:エハラマサヒロ ジャック役:中桐聖弥 アンディ役:加藤大悟 ローレライ役:田代万里生 ほか |
| チケット情報 | 【東京公演】 平日:S席14,000円/A席9,000円/B席6,000円 休日:S席15,000円/A席9,500円/B席6,500円 一般発売日:2026年3月1日(日) 【大阪公演】 平日:13,500円 休日:14,500円 一般発売日:2026年4月18日(土) 【愛知公演】 |
| 公式サイト | https://redbookjp.com |
| 公式SNS | @redbook_jp |


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