2024年3月7日(木)より東京・日生劇場を皮切りに全国6ヵ所にて上演されるブロードウェイミュージカル『カム フロム アウェイ』。1月30日(火)にカナダ大使館にて、安蘭けい、石川禅、浦井健治、加藤和樹、咲妃みゆ、シルビア・グラブ、田代万里生、橋本さとし、濱田めぐみ、森公美子、柚希礼音、吉原光夫と12名のキャストが勢揃いし、製作発表記者会見が行われた。
チケットを購入し、抽選で選ばれた30名の観客が見つめる中、キャスト陣の楽しいトークに沸き、作品の深さに興味惹かれる製作発表記者会見となった。
9.11、アメリカ同時多発テロの勃発により、アメリカ国内の空港に向かうすべての旅客機が急遽、国外の空港にルート変更させられた。
受け入れ先のひとつとなったのが、カナダのNewfoundland島Gander空港。
本作は、この地で起きた心温まる奇跡の実話を基に、12人の出演者のみで100人近くの役を次々に演じ、人と人との繋がり、人種、国、宗教など全てを越えて助け合う人間の素晴らしさを描き、トニー賞、ローレンス・オリヴィエ賞など、数々の演劇賞を受賞した。
今回、日生劇場60周年イヤーを締めくくる作品として、日本のミュージカル界が誇る豪華12名のキャストが集結し、日本初演を作り上げる。
テキサスから来たバツイチの女性・ダイアンを演じる安蘭けい。「(観覧者へ)なかなか入ることができないカナダ大使館での製作発表ですが、リラックスして聞いていただきたいなと。あ、それは私たちね」と笑顔をのぞかせた後、「本作をNYで観て、日本で上演する機会があったら、ぜひ出演させて頂きたいと思っていたので、本当に嬉しい」と出演の喜びをあらわにした。
キャスト全員がメインの役だけでなく、他の役も演じるのだが、安蘭は「どうにか今はダイアンではないということを表現したいと声を変えたり、いろいろ挑戦したりして、今はやり過ぎだと言われるくらいやっています」と試行錯誤を語った。
「安蘭さんとのロマンス担当ニック役。それ以外に島民のシルビアさんが演じる動物愛護に命を燃やしている動物愛護協会のボニーという女性の尻に敷かれている旦那・ダグ役もやります」と、石川禅。
「この作品は13脚の椅子と3卓のテーブルのとてもシンプルな舞台で、それを動かすのも全て役者がやります。椅子は一個一個まったく違うデザインで、それは国籍の違う人が飛行機に乗り合わせたようでもあり、人種の違いを表しているようでもあり、ここにいる12名の個性豊かなキャストを表しているようでもあります。そのバラバラの椅子が二列縦隊に斜めに舞台に現れた瞬間に、飛行機の客室がたちあがる。一機の旅客機が舞台上に出現するんです。素晴らしい。魔術です、想像力です」とワクワクした表情を見せた。
浦井健治は、田代万里生演じるケビンJと恋人関係にあるケビンTを演じる。「稽古場がいろんな意味で豊かです。個性も豊かで、差し入れというものも豊かです(笑)。競い合っているくらい」と話すとキャスト陣は全員笑顔に。「毎日7~8時間稽古が毎日続いていて、それでも追いつかない」と苦労を述べるも「各国で上演されてきたものを初めて日本でやる。我々の個性を尊重しながら入っていく。なんて豊かなんだろうと思っています。その過程、一個一個の積み重ねが豊かだ」と、本作に参加できる幸せを語った。
筋金入りのニューヨーカー・ボブを演じるのは、加藤和樹。「毎日の稽古の中でのエピソードをお願いします」と振られ言葉につまると、キャストたちが笑い出した。吉原光夫からの「まだ稽古にあまり出ていないので、質問を変えた方がいいのでは」という声に「大丈夫ですよ!仲間に入れてくださいよ!」と立ち上がり、「二度とこのキャストでは再演できないだろうなという第一線で活躍している方々ばかりなので、そのエネルギーがひとつになった時には、どれくらいのエネルギーが出るんだろうかと。一人が笑うと皆が笑う。その笑いのエネルギーもすごい。それがいい感じで伝播していくと、作品が元々持っている力と相乗効果になって、とんでもない爆発力を生み出すのではないか」と稽古場で感じたことを伝えてくれた。
仕事熱心な地元テレビの新人リポーター・ジャニスを演じる咲妃みゆは「大きな悲しみ、苦しみ、憎しみを生み出してしまったのは人であって、でもその様々な苦しみを解きほぐしたのが、まさに人であったというのが、この物語の注目すべきポイントだと思います。本当にあった様々な出来事をそのままシンプルに皆様にお届けしているのがこの作品です。遠い国での出来事ではなく、どの場所もどの国もNewfoundland島になり得るんだと思って、この作品をご覧いただけたらと思っています」と熱い思いを語った。
シルビア・グラブも、ブロードウェイで本作を観て「オープニングから曲とか地響きなるもので鼓動が高まった。ものすごい人間臭い、いろんな人間が舞台上にいて、バンドの人たちも舞台上にいて、その鼓動を一緒に作っているので、楽しい作品だなと思っていたら、内容がわかった瞬間に、どーっと泣き出してしまった」と大感動したエピソードを明かす。本作の出演の依頼が来たときには、「どの役でもいい」「やる!やる!やる!」と思ったとのこと。
稽古場のエピソードとしては、「それぞれが譜面を手にした歌稽古で1曲をとりあえずやってみようとなった時には、あまりのボリュームにびっくり。やっぱりすごい人たちが集まってるんだと鳥肌が立って『この曲だけでも、この稽古場にいれて幸せだ』と思いました」と、キャストたちへ信頼と尊敬を表した。
田代万里生は「僕がやっているケビンJをはじめ、ほとんどの役が“実在した”ではなく、“現在、実在している”方をモデルにしています。実際にケビンJさんがいらっしゃいます。しかも他の役も実名で演じています。それも光栄なことです」と、この作品ならではの驚きの事実を語った。
プロデューサーからは「ケビンJもやってもらいたいけれど、もう一つのイスラム教徒のアリという役を、ぜひ万里生さんに演じていただきたい」と言われたそう。「僕もイスラム教の方とお付き合いがあって、日本の僕らとはまったく違う文化や感性を持っていらして、僕らには当たりまえのことがそうでなかったりします。お話を聞く度に世界は広いんだ、理解し合うためには互いをよく知らないといけないと痛感しています」と語った。
Ganderの町長を演じる橋本さとし。「稽古が大変だとか、作品が大変だとはあんまり言いたくはないんですけど、めっちゃ大変です。稽古場にすでに回転する本番さながらのステージのセットらしきものも組まれていて、そこに上がった時に、満点の星空のようなバミリ(床の目印)が貼られていて、その数に一瞬引いてしまいました」「でも、すごい信頼の置けるミュージカル演劇界の超人たちと一緒にやるのはどうかなと、すごい期待してたんですけど、意外とパニックっていたり迷子になっていたりして『みんな普通の人なんだ』と内心ちょっと安心しました」とのユーモアたっぷりな語り口に笑いが起きた。
だが「ミスしまくって精度を上げています。稽古場で恥をいっぱいかいて、本番のお客様の前では恥ずかしくないものをお見せしようと精進しながら精度を上げていってる最中です」と意気込みも十分。
濱田めぐみは、アメリカン航空初の女性機長を演じる。「ところどころ緊張感を持って切り込んでいく役にもなります。私の年齢では、カンパニーで一番上になることがそろそろ多いのですが、このカンパニーはたくさんの先輩方がいらして、その先輩方がなかなかのかわいいポンコツでいらしたりして(爆笑)、心の温まるカンパニーで幸せ」と、会場を笑いで包んだ。
さらに「9.11は、3.11の東北の地震や先日の北陸の地震とは起こった出来事は違うけれど、抱える辛さや苦しみは一緒なんだなと感じました」と語り、「咲妃みゆちゃんがおっしゃったような“人が人を癒していく”“人が起こしてしまったことを、人が愛を持って復興していく”ことが描かれるから、日本の方が観ても共感できる、受け取れるし持って帰れる作品だと思いました」と、日本で上演する意味を語った。
森公美子が演じるハンナの息子はマンハッタンの消防士。「結果はネガティブになるんですが『息子はそんな現場には行くはずはない、元気にいるはずだから、早く息子のもとに帰らなきゃ』という思いで演じて欲しいと言われた。ちょっと重い役です」と、思い起こしただけで涙ぐんでしまう。
「(町の人も演じて)メガネをかけてジャケットを着るとハンナになるんですが、このポンコツ(自分)がですね『今、誰(の役をやっているの)?』『今、町の人(役)?どこに行ったらいいの?』『誰か教えて』となって」と、泣き笑いながら苦労を明かしつつ、しかし最後は「昨日は私がおにぎりを、その前の日には瞳子さんがハンバーガーを(差し入れに)。私は痩せるつもりで来たのに、どんどん太っていくのが気になっている今日この頃です」と、楽しい話題で締め括った。
「地元のコミュニティーセンターの会長、Newfoundlandの地元のおばちゃんという感じのビューラー」を演じるのは、柚希礼音。「地元代表としてやらせていただくんですけれども、こんなすごいメンバーを仕切ったりできるだろうかと思って、稽古前も今もドキドキしているんです」と言う理由は、宝塚歌劇団雪組の先輩で、柚希が星組2番手時代にはトップスターだった安蘭けいの存在が大きいのかも?
「ビューラーは大きくて温かい人なんですけれども、アリとの関係では、イスラムの方に対してやはり偏見を持ってしまっているところがあったりする。そういう部分も乗り越えていきながら、大切に演じていきたいと思っております」と真摯に語った。
「製作発表が大嫌いなのですが」と発言して驚かせたのは、吉原光夫。ただ「(カナダ大使館のホールについて)こんな素敵過ぎるところでやれるとは思わなくて。初めて製作発表をしてよかったと思っています。ここでお芝居やらせてもらえないかな。星空が上(天井)にあるんですよ」と指摘すると、客席からも驚きの声が上がった。目の付けどころが違うのは、演出も手掛けることがある吉原だからだろうか。
「公美さんがおっしゃっていた、自分が誰を演じているのか分からなくなることは、笑い話になっていますが、この作品の意図でもあります。テロが起きたり、地震が起きたりすると、自分の居場所がなくなってしまう、自分の居場所に帰れなくなってしまう。そこが無くなったことで自分は誰なのか分からなくなる。誰かが亡くなって、なぜ自分が生きているのかが分からなくなってしまう。そんな時にGanderの人たちは軽い愛ではなく、人の思いを引き受けてくれる、寄り添ってくれることができたという実話です。すごく明るく人を受け入れる感じに僕は共感しました」と作品への思いを語った。
さらに、キャスト陣について「最初は嫌だったんです。『合わないのでは』とか『浦井とか、どういう人なんだろう』と思っていた」と明かし爆笑が起きたが、「マジで最高のメンバーです。みんなが何か傷ついて一個失って今の自分の立場にいるという、無条件でつながっている、ホントのいい稽古場です。必死に命削ってやっているので、是非楽しみにしてください」と自信ものぞかせた。
最後は、町長役の橋本の掛け声で、全員が揃ってジャンプ!床に降りる音をドスンと響かせて会見を締めた。
ブロードウェイミュージカル『カム フロム アウェイ』は、3月7日の日生劇場を皮切りに、大阪、愛知、福岡、熊本、群馬にて5月12日まで、休憩なしの100分で上演される。
(取材・文・撮影/犬塚志穂)
ブロードウェイミュージカル『カム フロム アウェイ』公演情報
上演スケジュール
【東京公演】2024年3月7日(木)~3月29日(金) 日生劇場
【大阪公演】2024年4月4日(木)~4月14日(日) SkyシアターMBS
【愛知公演】2024年4月19日(金)~4月21日(日) 愛知県芸術劇場 大ホール
【福岡公演】2024年4月26日(金)~4月28日(日) 久留米シティプラザ ザ・グランドホール
【熊本公演】2024年5月3日(金・祝)・5月4日(土) 熊本城ホール メインホール
【群馬公演】2024年5月11日(土)・5月12日(日) 高崎芸術劇場 大劇場
スタッフ・キャスト
【出演】(50音順)
安蘭けい
石川禅
浦井健治
加藤和樹
咲妃みゆ
シルビア・グラブ
田代万里生
橋本さとし
濱田めぐみ
森公美子
柚希礼音
吉原光夫
<スタンバイ>
上條駿
栗山絵美
湊陽奈
安福毅
【脚本・音楽・歌詞】アイリーン・サンコフ/デイヴィッド・ヘイン
【演出】クリストファー・アシュリー
【ミュージカルステージング】ケリー・ディヴァイン
【翻訳】常田景子
【訳詞】高橋亜子