2023年10月20日(金)に東京・シアター1010にてStory Rocking『ピーチ』~芥川龍之介「桃太郎」より~が開幕した。初日前には公開ゲネプロと取材会が行われ、安嶋秀生、小田将聖、細見大輔、久保田秀敏、ブラザートムが登壇した。
日本での五大昔話の一つとして、人気が高く、日本人のメンタリティに大きな影響を与えてきた「桃太郞」。とりわけ、1924年(大正13年)に芥川龍之介が独自の視点・哲学的な観点から再構築して書かれた短編小説「桃太郎」は、桃太郎が勇敢で正義の英雄のイメージからは程遠い存在で、反対に鬼を平和主義で人間を恐ろしい生き物と捉え、単純で痛快な「鬼退治」では終わらないものとしている。
本作は、その芥川版「桃太郎」をベースに、ロックコンサートとステージパフォーマンスを融合させた作品となっている。
出演は、少年忍者の安嶋が、舞台での単独初主演で主人公ピーチ(桃太郎)役を務める。そして、同じく少年忍者の小田が典型的な子分タイプでピーチの第一の家来レオナルド・ボヌッチ(犬)に、細見がボヌッチと犬猿の仲で優柔不断なルカ・モンチ(猿)に、久保田が頭の良さを誇る啓蒙主義者イワン・フェザンチ(雉)で出演。さらに、ブラザートムが、桃太郎が退治をしようとする鬼役で登場する。
演出は、近年ロックバンドの生演奏とリーディングを融合し高い評価を得る鈴木勝秀が上演台本・演出を務める。また音楽は、鈴木の盟友で幅広い音楽の嗜好と数多のアイデア、あらゆる楽器やノイズを駆使したサウンドメイキングで楽曲を生み出す大嶋吾郎がオリジナル・スコアによるロックバンドの生演奏で舞台を彩る。
取材会に際し、登壇者からそれぞれコメントが寄せられた。安嶋は、作品に関して「最初は出ているみんながちょっとおバカな感じで、にぎやかでワイワイしているんですけど、時が経つにつれて、だんだん不気味な雰囲気になって、鬼ヶ島へ攻めに行くというお話になっているんです」と説明し、見どころとして、「だけど、そのギャップが最初と最後では全然違うんですよ。最初は観ていて楽しい感じなんですけど、最後は『え!? なんでこうなったの??』みたいなモヤモヤが残って終わると思います。それが僕たちの狙いなので、ぜひ皆さん最後までモヤモヤしていただけると嬉しいです」と挙げた。
犬役の小田は「(猿を演じる)細見さんとの犬猿の仲というか、掛け合いのシーンで、楽しくふざけてやらさせてもらっています。シリアスなシーンも、ところどころ笑えるシーンもあるので、楽しんでいってください」と呼びかけた。
小田にコメントされた細見は、安嶋と小田について「若い2人が稽古場からすごくチームを引っ張ってくれていまして、舞台上にこの2人の若いエキスが充満しております。他の出演者はみんなその若さにあてられて、頑張って若返りたいと思っています(笑)」と称賛した。
目を引くド派手なメイクと衣装の久保田は「先ほどから、ふざけて楽しんでいるシーンもあると言っていましたが、私は見て分かるように誰よりも紳士で清楚な役でございます。一切ふざけてなんかおりません、しっかりと物語に生きて、ちゃんとメッセージを届けていけると思っております」とボケて、笑いを誘った。
一方で、ブラザートムは、安嶋のコメントに対して「今、言ったことは言っちゃいけないことじゃない? ストーリーが分かっちゃったんじゃん。大丈夫か?」とダメ出しをすると、安嶋もタジタジに。だが、その直後に「・・・という感じです!」とドッキリ風なコメントに、会場から笑いが起こった。
続けて、本作の音楽について「素晴らしいですね、本当に素晴らしいです。吾郎さんの作っている曲、詩から、何よりも芥川さんのリズムとかいうものが非常にあります」と褒め称えると、本作の魅力を「芥川さんの原作はその時代のものというものを描いていて、それを演出の方が舞台として作っていただいて、まんまのすごく面白い作品になっています」と語った。
最後に、安嶋は「ここまで一緒にこの舞台を作り上げてきたカンパニーの皆さん本当にありがとうございます」と感謝を述べ、「僕は外部の舞台のお仕事が初めてで、そして初主演でとても緊張しているんですけど、僕がこの業界に入って12年弱という今までの感謝の気持ち、そしてエンターテインメントをあらためて楽しんだぞという気持ちをこの舞台を通して見せれたらなと思います」と意気込んだ。
芥川の「桃太郎」は昔話のパロディーだが、執筆当時の大正時代に日本政府が中国を植民地化したことを訴える内容となっていると言われている。その芥川の視点に着目して、芥川版「桃太郎」をベースにパロディーとブラックなユーモアを散りばめた物語が展開される本作。
安嶋が“モヤモヤ”と称した芥川によるショッキングでセンセーショナルな内容に、キャラクターたちの造形と、「桃太郎」の童謡をロック風にアレンジしたテーマ曲を筆頭とした至極の生演奏によるロックサウンドがステージにさらなる熱を込め、ロックコンサート×ステージパフォーマンスを融合した“Story Rocking”という非常に魅力的な演劇作品を作り上げている。
そんな作品の中で、安嶋は、今までヒーローとして思われてきた桃太郎とは一転した利己的で独裁的なピーチという役柄を、色気あふれる演技と表情で魅せてくれる。小田は、犬の可愛らしさと無邪気でやんちゃな姿を振りまき、元気はつらつにステージ上を走り回る。さらに、本作では2人のダンスシーンも盛り込まれており、見どころの一つだ。
その若さあふれる2人を支えるのが細見と久保田。小田が“犬猿の仲”とアピールした細見との楽しい掛け合いに、久保田のインテリな役柄でありながらのハジケる怪演が作品をさらに盛り上げてくれる。そして、ブラザートムがその歌唱力とパフォーマンスで圧倒的な存在感を見せつける。
誰もが知る昔話をシニカルに、そしてメッセージ性を持たせてアレンジした芥川の思いを存分に感じさせる物語を、弾ける音楽と深化する演劇が融合した“Story Rocking”というパフォーマンスで描ききる、エンターテインメントな新感覚演劇となっている。
Story Rocking『ピーチ』~芥川龍之介「桃太郎」より~は、10月20日(金)から10月29日(日)まで東京・シアター1010、11月4日(土)・11月5日(日)に大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティにて上演。上演時間は約1時間45分(途中休憩なし)を予定。
(取材・文・撮影/櫻井宏充)
Story Rocking『ピーチ』~芥川龍之介「桃太郎」より~公演情報
上演スケジュール
【東京公演】2023年10月20日(金)~10月29日(日) シアター1010
【大阪公演】2023年11月4日(土)・11月5日(日) 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
スタッフ・キャスト
ピーチ(桃太郎):安嶋秀生
レオナルド・ボヌッチ(犬):小田将聖
ルカ・モンチ(猿):細見大輔
イワン・フェザンチ(雉):久保田秀敏
鬼:ブラザートム
【上演台本・演出】鈴木勝秀
【音楽】大嶋吾郎
公式サイト
【公式サイト】https://rocking-peach.com/
【公式X(Twitter)】@rocking_peach