2023年6⽉5日(月)に、ミュージカル『FACTORY GIRLS ~私が描く物語~』が3年半ぶりの再上演の幕を開けた。開幕に先立ち取材会が行われ、出演する柚希礼音、ソニン、実咲凜音、清水くるみ、平野綾、水田航生と脚本・歌詞・演出を手掛けた板垣恭一が登壇した。
本作は、19世紀半ばに、全米でベストセラーとなったルーシー・ラーコムの回想記「A New England Girlhood(ニューイングランドでの少女時代)を原作に、アメリカ北部で女性の権利を求めて労働運動を率いた実在の女性サラ・バグリーとハリエット・ファーリーが、劣悪な環境の工場で働かされていた女性たちと労働環境の工場を求め、世を動かし闘う姿を描いたヒューマン・ストーリー。
アメリカのブロードウェイで活躍する新進気鋭の作曲家コンビ、クレイトン・アイロンズ&ショーン・マホニーが作った原案をもとに、板垣を中心とした日本のクリエイティブチームが、日本発のオリジナルミュージカルに仕上げた。2019年の初演では、読売演劇大賞作品賞を受賞。この度、一部新キャストを迎えて再演を果たす。
柚希は「まずは、初演から3年半経ち、こうして再演できることを心から嬉しく思っております。初演メンバーに、再演からの新メンバーも加わって、それぞれが過ごした時間の分、さらに深い作品になっております。私自身は、毎日稽古をしながら作品からパワーをもらい、励まされ、背中を押してもらってきました。そのパワーはきっとお客様にも届くと思いますので、多くの方に観ていただきたいです」と口火を切った。
ソニンは「今、柚希さんのコメント聞きながら、ちょっと泣けてきました。前回、我々が初演を終えた後にコロナ禍に突入し、今回(再上演の)稽古中にマスクが外れました。この間にいろんなことを乗り越えて、(本作のスタッフ・キャストという)家族のみんなにもう1回会えて、初日を迎えられたんだと思うと、感慨深くなっちゃいました」と瞳を潤ませた。
続けて「初演と変わらず、再演も誰も前進することを止めず、毎日毎日、試行錯誤しながら再演バージョンを新しく作り上げてきました。紡績工場のお話ですけども、みんなの太い糸が重なり合って、今日、お客様を交えて布になっていくんだろうなと(柚希、思わず「上手い!」と合いの手)。初演からさらにパワーアップしたものを皆さんにお届けできると、私は確信しております」と力強く話した。
実咲は「お稽古場から今日まで、あっという間でした。お稽古場から、ちえ(柚希)さんはいつも誰よりも早く稽古場に入って発声をされていて、ソニンさんも毎回、誰よりも役のことを考えてお稽古場で挑戦されている。そんな背中を見てきました。本当に良いチームワークでのお稽古を経て、今日を迎えられたと感じています。初演から時間も経って、2度目の挑戦の役になりますけれども、アビゲイルという役はすごく共感できる部分が多くて、さらに大好きになっていると実感しています」と、溢れんばかりに意気込む。
清水は「ソニン先輩がすごく素晴らしいことを言ってくださったので、少しですが」と前置きして「私は再演というものに出るのが初めてなので、思い入れもあります。お客さんの反応がどうなるのかと、すごくワクワクしています。新しいャストも加わり、新しい作品になっていると思うので、皆さんぜひ観に来てほしいです!」と笑顔いっぱいに語った。
今回から出演する平野は「稽古場の熱量が毎日ものすごくて。カンパニーは作品が終わると、『じゃ、次の現場でまた会えたら』という感じで一気に解散になるものですけれど、『解散したくないな』と(公演が)始まる前から思ってしまうような、家族のような感覚で一緒に取り組んできた作品です」と、初演からの参加組と変わらぬ思い入れを感じさせた。
同じく今回から参加の水田も、見どころを「すべてファクトリーガールズだと思っております。それぞれが、それぞれの道を生き抜こうとしている生きる力を、ぜひとも劇場で見て感じていただければ嬉しいです」と紹介。
「女性陣に圧倒されいるか?」と問われると、「もちろん圧倒はされておりますけども、一体感と言いますか、boys、girlsの分け隔てなく、スタッフさん、キャスト含め、1つのカンパニーとして本当に一致団結していると思うので、そこは圧倒されて蚊帳の外から見ているという感覚ではなく、共に作っているという感じです」と力強く答えた水田だったが、ソニンから「真面目なこともしゃべるのね」と突っ込まれ、笑いが起こる一幕も。
さらに、水田は「僕は再演から(の参加)なのですが、ソニンさんとお芝居のこともいろいろお話しましたし、皆さんの素敵なところたくさん知っているので、すべてはブログに書きたいなと思います!」と宣言し、また笑いが起こしていた。
脚本・歌詞・演出を手掛けた板垣が強調したのは「このミュージカルはオリジナルミュージカルです」ということ。「楽曲はクレイトン・アイロンズとショーン・マホニーというアメリカの方が作っておりますが、脚本は僕が話を作って書いたオリジナルです。その上で、見どころが2つございます。一つは、人間ドラマを書いたこと。女性が主人公ではありますが、現代を生きる我々にも関係ある労働問題、差別の問題、貧困の問題などを書きました。もう一つは、オリジナルの再演なので、好き勝手にブラッシュアップができることです。振付も全部作り変えましたし、舞台美術も違うので人の動きも違います。新しいメンバーも入ったので、全く新しいものを改めて作ったというのが、もう1つの見どころでございます」と述べ、作品への確かな自信を感じさせた。
キャストの変化については「初演から出演している柚希さん、ソニンさん、実咲さん、(清水)くるみちゃんは3年以上の時を経て、人として明らかに重みが増していて、それが反映されやすい舞台なんだと噛み締めております。ありていの言葉ですが、ドラマに深みが増したし、重みもついたと思っております。そして、新しいメンバーの(平野)綾ちゃんはアイデアといろんな技術を持っていて、新しい風が吹かせてくれました。すごく頼りにしています。航生くんは『こんなに綺麗にプリンス役をやるヤツがいるのか』と思う素晴らしい演技ぶりです。ソニンさんと2人のシーンが多くあるのですが、僕が航生くんに見とれていてソニンさんに怒られるという事態が起きております(笑)」と絶賛。
もう一人、絶賛されたのが新キャストの寺西拓人。「演じるシェイマス役は、移民でダークサイドも背負わないといけない。初期には爽やかなシェイマスをやってくれて、爽やかすぎると悩んだ私が寺西くんに『屈折してみようか』と言ったら、翌日からちゃんと屈折キャラを作ってきてくれた。『この人、できる!』と思いました。いろいろな新しい発見があった稽古場でした」と話す様子からは、キャスト陣への厚い信頼が感じられた。
女性達がペン(文章)でメッセージを発信していくことが一つのテーマとなっている本作にちなんで、「今、誰かに伝えたいことは?」を聞かれると、水田が「僕は舞台に出る時、スタイルや髪型などをよく相談する方がいるんです。柚希さんです」と明かし、「今日の僕の髪型はどうですか?」と、その場で柚希に尋ねた。
振り返って水田を見つめた柚希に「ちょっと直さなあかんわ」と言われると、水田は「すぐにシャワーを浴びて(ゲネプロに)臨みたいなと思います!」と即答。日々、柚希にチェックを受けた水田のスタイルも楽しみどころだ。
一方、清水が「ソニン先輩がかわいい!ということです。ほんとになんでも完璧にこなす方ですけれど、いつもチャーミングな部分があってかわいい。そこが初演の時には探れなかった部分で、今、とっても慕わせていただいています」と言うと、ソニンは「劇中では慕ってくれる役なのですけど、現実世界ではちょっといじられてます(笑)。そんな時間も愛おしいです」と答えていた。
そして、実咲は「舞台稽古を拝見していて、ちえさんは一番奥の台の上に立っていても存在感がある。どこにいても光っています」と柚希の目をじっと見つめて伝えていた。
最後に、ソニンは「この作品の舞台となっている時代(19世紀半ば)は、女性には発言する権利すらありませんでした。工場の女性たちが書いた寄稿集が有名になったというのは、実話です。寄稿集を通じて発信することは重要なことで、それに伴うリスクも物語の中に描かれています。多くの方がSNSなどで発信できる現代にも通じるメッセージが詰まっているので、お客様にたくさんのものが伝わるといいなと思っております」と観客へのメッセージを述べた。
そして、「早くお客様にお会いしたい。闘志がメラメラと燃えております!」と気合十分の柚希。「ポスターなどを見ると女性が強そうとよく言われるのですけれども、女性が男性を責めているお話ではなく、女性も人間としての人権を求めて戦っていくお話です。今を生きる皆様にもいろいろ刺さるところがあると思っております。すごくハッピーエンドで終わるわけではないかもしれませんが、また明日からがんばろうと思える作品になっていると思いますので、ぜひ多くの方に観ていただきたいです」と呼びかけ、取材会を終えた。
板垣が語っていたように、オリジナル・ミュージカルであることの柔軟さを武器に、時代に合わせてさらにブラッシュアップした内容が胸に迫る。キャッチーな音楽に乗せて届けられるのは、可憐さの中に折れない芯を持った女性たちの叫び。
今も、女性だけでなく、踏みにじられてきた立場の人たちが懸命に声を上げている。変わらない現状に、日々を諦めてしまいそうな心を奮い立たせてくれるような、そんな勇気をくれる。「私の人生は私のために」。
ミュージカル『FACTORY GIRLS ~私が描く物語~』は、6月5日(月)から6月13日(火)まで東京・国際フォーラム ホールCにて上演。その後、福岡・大阪を巡演する。上演時間は、第1幕85分、休憩20分、第2幕75分の計3時間を予定。
(取材・文/犬塚志穂、編集・写真/エンタステージ 編集部1号)
ミュージカル『FACTORY GIRLS〜私が描く物語〜』公演情報
上演スケジュール
【東京公演】2023年6月5日(月)~6月13日(火) 東京国際フォーラム ホールC
【福岡公演】2023年6月24日(土)・6月25日(日) キャナルシティ劇場
【大阪公演】2023年6月29日(木)~7月2日(日) COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール
スタッフ・キャスト
【作詞・作曲】クレイトン・アイロンズ&ショーン・マホニー
【脚本・歌詞・演出】板垣恭一
【出演】
柚希礼音 ソニン/実咲凜音 清水くるみ・平野 綾/水田航生 寺西拓人
松原凜子 谷口ゆうな 能條愛未/原田優一・戸井勝海/春風ひとみ ほか
公式サイト
【公式サイト】http://musical-fg.com/
【公式Twitter】@factorygirlsjp