2022年に東京と大阪で、藤ヶ谷太輔の主演舞台『野鴨-Vildanden-』の上演が決定した。本作は、“近代演劇の父”と称されるヘンリック・イプセンの代表作の一つで、演出は上村聡史が手掛ける。
イプセンはノルウェーの劇作家で、19世紀ヨーロッパで主流とされていたヴィクトリア朝的な価値観(行きすぎた厳格さや節制を美徳とする偽善的な社会観念)を批評し、悪に立ち向かう高潔さを描いた勧善懲悪が期待されていた当時の演劇に革命をもたらした人物。シェイクスピア以後、世界で最も盛んに上演されてきた劇作家とも言われ、そんな近代演劇の創設者が1884年に発表したのがこの『野鴨』である。
イプセンは、納屋を“嘘”、外の世界を“真実”、そして“野鴨”を我々人間に例えることで、自己欺瞞によって自らを守ろうとする人間の弱さや、独りよがりの正義を振りかざす愚かしさを表現している。
藤ヶ谷が演じるのは、理想を追い求め、真実こそが正義だと信じてやまない“正義病”のグレーゲルス。藤ヶ谷は、2018年の舞台『そして僕は途方に暮れる』以来、4年振りのストレートプレイ出演となる。
そして、妻と娘に恵まれ幸せに暮らしているグレーゲルスの幼馴染・ヤルマール役には忍成修吾、豪商ヴェルレと関係のあった過去を持つヤルマールの妻・ギーナ役を前田亜季、ヤルマールとギーナの娘・ヘドヴィク役を八幡みゆきが演じる。
さらに、エクダル老人と過去に確執があるグレーゲルスの父・豪商ヴェルレ役には大鷹明良、軍の元中尉という過去の栄光から一転、今は落ちぶれてしまったヤルマールの父・エクダル老人役には浅野和之が決定した。
発表にあたり、藤ヶ谷は「お芝居をすること、表現をすることが大好きなので、まずはそういった環境を与えてくださり、チャンスに巡り合えたことが嬉しいです。名作なので、もちろんプレッシャーもありますが、怖がらず飛び込んでいければ、と今は思っています」とコメントを寄せている。
『野鴨-Vildanden-』は、9月3日(土)から9月18日(日)まで東京・世田谷パブリックシアター、9月21日(水)から9月25日(日)まで兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールにて上演される。
コメント紹介
◆上村聡史(演出)
“近代演劇の父”と言われるイプセンの『野鴨』は、わかりやすく組み立てられた筋立てながらも、貧しさの中での幸福の意味や、信念と孤独の葛藤といった現代人にも通じるテーマが明快で、決して古びない物語性を感じます。また登場人物が、ある瞬間かなり大胆な行動を起こすあたりに劇的な魅力があり、それを演じる俳優の醍醐味を想像すると一層の面白さがあります。そしてその姿は、儚くも見えれば、笑えてしまうような場面が多々あり、『野鴨』は、まさにお芝居の宝石箱のような作品です。
イプセンが140年程前に創作した“グレーゲルス・ヴェルレ”というキャラクターも中々な人物で、今の時代にもある自粛警察やバッシングにも似た「独善的な正義」を、家族や親友、そして子供にまでふりかざし、三日間の物語時間を暴走します。その暴走は、まさしく心理ホラーといっても過言ではないくらいのスリリングさがあるでしょう。
そんなヤバい男を、藤ヶ谷太輔さんと共に創っていくのですが、藤ヶ谷さんの頭の回転の速さ、シャープな立ち姿、クールでありながらもユーモアに満ちた感性におおいに頼らせていただき、ただの“狂気”だけで片付けることのできない、今の私たちの中にある「執念」をしっかりと描いていきたいと思います。
◆藤ヶ谷太輔
お芝居をすること、表現をすることが大好きなので、まずはそういった環境を与えてくださり、チャンスに巡り合えたことが嬉しいです。名作なので、もちろんプレッシャーもありますが、怖がらず飛び込んでいければ、と今は思っています。
僕が演じるグレーゲルスは、“正義病”と言われるくらい正義感が強く、それが裏目に出てしまう役でもあります。彼の信じる正義が物語に大きく関わるのですが、きっと観てくださるお客さまもどこか他人事とは思えないと感じていただけるはずです。演出の上村さんは、以前作品を拝見したことがあり、空間の使い方や言葉の届け方がとても素敵な印象がございます。また、上村さんと一緒にお仕事をしたことがあるA.B.C-Zの河合郁人くんからは、お芝居を一緒に考えてくださる演出家さんだと伺いました。僕も先日お会いして色々とお話させていただく中で、すでにもう信頼を置いています。
この作品は、「真実」「嘘」「正義」がキーワードで、現代に通ずることがたくさんあります。お客さま自身にも観て、感じて、考えていただけることがたくさんあると思いますので、僕もしっかりそれを演じ届けられるように頑張ります。ぜひ、劇場にいらしてください。
『野鴨-Vildanden-』公演情報
上演スケジュール・チケット
【東京公演】2022年9月3日(土)~9月18日(日) 世田谷パブリックシアター
【兵庫公演】2022年9月21日(水)~9月25日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
<チケット一般販売>
【東京公演】7月23日(土)10:00~
【大阪公演】7月30日(土)10:00~
スタッフ・キャスト
【作】ヘンリック・イプセン
【訳】原千代海
【演出】上村聡史
【出演】
藤ヶ谷太輔 忍成修吾 前田亜季 八幡みゆき
伊達 暁 吉野実紗 山森大輔 齋藤明里 村上佳
大鷹明良 浅野和之
あらすじ
豪商ヴェルレの息子グレーゲルスは久しぶりに山にある工場から戻り、幸せな家庭生活を送っている親友ヤルマールに再会する。そこで父ヴェルレの使用人だったギーナが、ヤルマールの妻になっていることを知り、ある疑惑が芽生える。
グレーゲルスとヤルマール二人の父親は、かつて工場を共同経営していたが、ヤルマールの父エクダルがある事件の罪を一手にかぶり投獄され、家族は没落してしまった。また、ヤルマールの妻ギーナは、過去に父ヴェルレとただならぬ関係があり、その負い目から、父ヴェルレはヤルマール家に援助を与えていた。
そのささやかな家族の幸福は、嘘で塗り固められた土台の上に立っていた。
友に真実を告げて、真の幸福な家庭を手に入れてほしいと願うグレーゲルスだったが・・・。
【公式サイト】https://nogamo2022.com/
【公式Twitter】@nogamo2022