鈴木勝吾、企画協力で感じたもの作りの原点『ひりひりとひとり』インタビュー

2022年6月10日(金)より東京・よみうり大手町ホールにて、S-IST Stage『ひりひりとひとり』が開幕する。石丸さち子と東映という異色の組み合わせを実現したのは、本作の“企画協力”にも名を連ねた鈴木勝吾の存在だった。

鈴木が石丸と作品作りを希望し、馴染みのある東映と繋いだことで生まれた、新たな座組み。もともと2020年に上演予定だった作品が、ようやく形になる日がやってきた。待望の開幕を前に鈴木に話を聞くと、彼の言葉からは彼の哲学や、今、肌で感じる生々しい演劇・俳優の変化が感じ取れた。

(取材・文・撮影/エンタステージ編集部 1号)

鈴木勝吾の「企画協力」が生んだ東映×石丸さち子

――『ひりひりとひとり』、2年越しの上演がいよいよ叶いますね。

他の作品と比べるわけではないんですが、絶対に開幕に漕ぎ着けたいという気持ちが一際強かったので、各方面のご尽力とスケジュールが合って、新しい形にはなりましたが、今、単純にめちゃくちゃ嬉しいです。

――鈴木さんは、今回「企画協力」という立場でもいらっしゃるんですよね。これはどういったきっかけからだったんでしょうか?

さち子さんとは、『Color of Life』(2016年)から演出家と俳優という関係だけでなく、友人として繋がり続けていて。だからこそ「現場で会いたいね」とよく話していたんですが、なかなか機会が巡ってこなかったんです。じゃあ、いっそのこと自分たちでやることを決めて動いた方がいいんじゃないか?と。

どうやろうか考えていく中で、一緒に仕事をする機会が多かった東映の中村プロデューサーに「こういうことをやりたいのだけれど、可能だろうか」と相談しました。そうしたら、「具体的なことは置いておいて、話は聞くよ」と言ってくださって、今回の座組みの形になりました。

――積み重ねてきた時間が生んだご縁だったんですね。

やっぱりもの作りの原点って、そういうことなんだろうなって思いました。そういうことを感じられるのも、想いの種の段階から関わってきているからで。さち子さんと、東映さんと、新しいものを作ろうというのはすごく自然なことでした。劇団でもないし、ユニットでもない。商業演劇というベースの中で、想いが通い合っている人たちとああだこうだ言いながらもの作りできる機会にたどり着けたことは、本当に嬉しいことです。

――最初、東映と石丸さんのタッグと聞いた時は、「異色!」とびっくりしたんですよ。よくよく資料を拝見したら、「企画協力」に鈴木さんのお名前があって、腑に落ちました。

どういった形でも、僕はただ公演できることがとにかく嬉しかったですし、どの方向にも行ってもWin-Winな状態にできたらと思っていました。
いろんな経緯を辿ってこういう形になっただけなので。そもそも演劇に関わらずもの作りって、仲間がいて、一緒にやろうと団結して、お客さんがいてくれることで道が拓けると思うから。だから、新しい物事はある意味、これまでの繋がりから始まるものなのかもしれない。

自分が好きだと思う仲間と、新しいチャレンジをすること、可能性を探ることは、演劇のこれからのことを考えると往々にしてあっていい世の中になっていくんだと思うんです。既存のヒエラルヒーや価値観の中で待っているのではなく、悪い意味での既成概念を崩す。

上も下もなく、「僕はこの人たちと作品を作りたい」というクリエイティブな意思の疎通ができる中で、それぞれの立場で1つ作品を作ることについて考えられるのは、本当に良い時間でしたし、これから先、いろんな俳優といろんなクリエイターの間で増えていけばいいなと思うんです。

変わり始めた枠組み、俳優たちは今、一番ひりひりしていると思う

――鈴木さんの中で、能動的な考えが大きくなったのは、何かきっかけがあったんでしょうか。

時代が変わろうとしてるのを、肌で感じるんですよ。それはコロナがあったからかもしれないし、自分が33歳まで年齢を重ねてきたから感じるのかもしれないけど。でも、誰もが自分のやりたいことを自由に発信していけたり、枠組みとして前よりも囲い込みがなくなっていっていることは事実だし、演劇界も一つ新しい世代に塗り替わろうとしていることも確か。

傘を失った時に新しい傘を見つける力があるのかどうか、すごく試される時代になるんだなと思う。今、俳優たちは一番ひりひりしてるんじゃないかな。今のレールの上を走り続けるだけじゃダメだってみんな思ってるから、日々演じることをがんばりつつ、それでは足りないと壁にぶち当たってる。

そうやってもがく中で、周りにいてくれる人と手を取り合って、新しいことをやろうと一歩を踏み出せるか。今回の作品の内容とも繋がってくるんですが、新しいステージにすぐに繋がらなくても、いつか繋がると信じて続けられるか。そういうことは、すごく考えるようになりましたね。

――本作の物語ができるまでにも、鈴木さんのアイデアが活かされているんでしょうか。

さち子さんと僕、どっちにイニシアチブがあったとかはないです。もともとの関係値の中で「どんなものがやりたい?俳優の役だと嫌?」「嫌じゃないですよ」みたいな話はしていきましたが。だから、僕から「絶対こういうのをやりたい」みたいなことはなかったです。

違う解釈があっても、さち子さんの考え方が好きだから形にしたいと思うんです。そもそも僕は、俳優だから右向け右、演出家を言うままに具現化するのが俳優、みたいな価値観があまり好きじゃなくて。同じことを言われても、相手との関係値があるから首を縦に振れて、逆に、違うなと思っても実現してみたいと思える。この人と同じ景色を見たい。だから、そういうシンプルな考えでいられる時間はすごく心地よかったです。

――この『ひりひりとひとり』の台本を初めて読んだ時は、どうお感じになりましたか?

さち子さんの作品は、ご一緒した作品も、ほかの作品も、もちろん全部違う物語なんですけど、一貫してさち子さんの中にある色を感じるんです。言葉ではうまく表現しきれないんですが・・・。

僕、台本だけだとおもしろい作品になるのか分からないんですよ。読んだ時の印象って、自分の好みでしかないから。やりながら実感していこうというか、おもしろくしていこうと考えるだけ。その上で、さち子さんが書く言葉は「美しい」。とにかく読み物としてめちゃくちゃ美しいなと思いました。

人間はきれいところばっかりじゃない。そういうことも共有していける作品になれば

――鈴木さんが演じる「春男」は俳優という現実に近い役どころであり、心に複雑なものを内包した役ですね。

この前、先輩の谷口賢志さんと「圧倒的な矛盾は楽しんではいけないけれど、俳優としては挑戦しがいがあるし、一度はそういう役やってみたい」って話をしたんです。一方で、実際にそうである人たちの尊厳を守らなければならない苦しさはあります。そのとおりだと思ってやったことも、ある人にとっては違うようにうつるから、結局正解なんてないですし。だからこそ、演じがいがありますね。

――2020年の出演者から顔ぶれが変わりましたが、稽古場はいかがですか。

今回、ほとんどの方と初めてご一緒するんです。梅(梅津瑞樹)はミュージカル『薄桜鬼』で一緒にやったことがあったけど。あとは、2020年に(百名)ヒロキとこの作品のオンライン稽古をしたことがあるぐらいで。

初めてご一緒する方、違う土の匂いがする俳優と、どう一つの世界を作っていくかは、一番楽しみでした。その感覚を大事にしつつ、自分の土壌を精一杯耕して、風を吹かせなければという意識もあって。この作品は、自分の心の火から生まれたものなのだから、燃えるための風を起こさなければ、という想いで稽古場にいました。それもまた、心地いい時間でしたね。

――新しい取り組みの一歩、楽しみにしております。

人というのはすごく残酷なものなので、万人に受けることは決してないです。どんなものを作っても、人は受け入れやすいものを受け入れたいし、受け付けたくないものは受け付けないで生きていくものだから。

でも、邪魔な石ころも、きれいな石ころも一緒に転がっているんだよって提示していきたいんです。ものを人に見せる、見てもらう立場の人間としては、きれいなところだけ見せて終わりたくない。だって、人間はきれいところばっかりじゃない。そういうことも共有していける作品になればいいなと思っています。

もちろん、ひたすら楽しくてハッピーな作品もいいものです。でも、今回はそうでないものを見慣れてない人にこそ見てほしい。個人的には、この演劇を体験してほしいという原始的な願いがあります。こうして作品のお話ができる取材も、作品を深められるすごく貴重な時間でした。観ていただいたら衝撃を受けられるのか、こういうの待ってたよ!となるのか分かりませんが、劇場で観ることを選択していただけたらいいなと思っています。

 

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S-IST Stage『ひりひりとひとり』公演情報

上演スケジュール・チケット

2022年6月10日(金)~6月19日(日) 東京・よみうり大手町ホール

スタッフ・キャスト

【作・演出】石丸さち子
【音楽・演奏】森大輔

【出演】
鈴木勝吾、梅津瑞樹、牧浦乙葵、百名ヒロキ、周本絵梨香、塚本幸男

【公演特設サイト】https://www.s-ist-stage.com






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