舞台『華氏451度』吉沢悠インタビュー!舞台、演技にかける吉沢悠の現在とは?


舞台『華氏451度』が2018年9月28日(金)からKAAT神奈川芸術劇場にて上演される。本作の主演を務めるのは、3年ぶりの舞台出演となる吉沢悠。今回のインタビューでは、吉沢から舞台、演技にかける“現在”の想いを聞いた。

レイ・ブラッドベリのSF小説を原作とした舞台『華氏451度』。本の所持が禁止される近未来を舞台に、本の所持者を逮捕する「ファイアマン」の模範者・モンターグ(吉沢)が、クラリス(美波)という謎の女性に出会い、追われる身へと立場を変えていく。

普及の名作として色褪せない本作の演出を手がけるのはKAAT芸術監督の白井晃。また、上演台本を新生・阿佐ヶ谷スパイダースの始動で注目を集める長塚圭史が担当。本作の原作について、「昔の作品なんて思えない、現在形の物語」と語った。果たしてどんな現在形の世界が舞台で繰り広げられるのだろうか?

舞台『華氏451度』吉沢悠インタビュー

自分を変えられるひとは繊細な人だと思う

――舞台『TAKE FIVE』以来3年振りの舞台出演ですよね。現在の心境はいかがですか?

「3年も経ってたのか」というのが、率直な心境です。ただ、40才になる節目の1作目が『華氏451度』というのは感慨深いです。

――感慨深い、その理由はなんでしょう?

やっぱり、演出・白井晃さん、上演台本・長塚圭史さんという座組に参加できることですかね。白井さんとは過去に共演という形でご一緒したことがあるのですが、白井さんの演出を受けるのは初めてで。長塚さんの作品に参加するのも初めてですし、40才になっても、そういった初めて尽くしの座組に参加できるのはとても感慨深いです。それに、僕がモンターグという人物を演じられるということにも、正直驚いていて。

――どういうことですか?

僕が演じるモンターグは、書物の所持が禁止される世界で「ファイアマン」という所持者を逮捕して本を燃やす仕事に従事する、正義の塊のような人物。マッチョでスーパーマンみたいな人物をイメージしながら原作を読んでいたので「モンターグ、僕でいいの?」って(笑)。

――そんなそんな(笑)。

ただ、モンターグは物語の中で価値観が変化していく人物でもある。考え方や社会に対して疑問を持って、自分を変えられる人って繊細な人だと思うんです。そういった、モンターグの心の変化を丁寧に表現できたらと思っています。あとは、白井さんの演出でモンターグという人物をさらに深めていこうと思っています。

舞台『華氏451度』の現在的な魅力

――モンターグの人生を変えるきっかけとなる女性・クラリスを演じる美波さんの印象はいかがですか?

実はキャスティングを知る前から、クラリスは美波さんかもなって予想していたんです(笑)。

――何故、クラリスを演じられるのが美波さんだと思ったのでしょうか?

今回で美波さんと共演するのが3度目なのですが、美波さんは自分の世界観をちゃんと持っている人だし、表現に対してまっすぐ向き合っている。そういう核の部分とクラリスの真理をつく振る舞いが繋がるんです。

――なるほど。そもそも『華氏451度』はフランソワ・トリュフォー監督によって映画化(1966年)され、近々アメリカでドラマ映画としてリメイクされるなど、現在でも名作として名高いSF小説ですが、日本ではあまり馴染みのない方も多いと思います。

確かに。僕も舞台版が決まるまで原作を読んだことありませんでした。そもそも日本では温度の単位を「摂氏○度」っていうじゃないですか?だから、まず華氏という単位にピンときませんよね。ただ、原作を読んでみたら新刊だと言われても違和感がないほど現代的な作品でした。『華氏451度』は、1953年に出版された小説で、当時はテレビへの警告や皮肉として、書物の所持が禁止された社会が描かれています。

しかし、それって現代で言うところのインターネットの普及やSNSに置き換えられると思うんです。そう考えると、舞台化されるっていうのはちょうどいいタイミングなのかもしれません。そして、『華氏451度』の世界を白井さんと長塚さんはどう描くのかとても楽しみです。

原作はSFのおもしろさをイマジネーション豊かな言葉で紡ぎ、映画では映像表現として『華氏451度』が見事に昇華されています。では、舞台ではどうなるのか?肝心の火はどう表現して、場面どのように転換していくのか?お客様も、舞台ならではのエンターテイメント性を楽しみにしてきてくださると嬉しいです。

舞台『華氏451度』吉沢悠インタビュー_2

旅行に行くように演劇を楽しむ

――先日、吉沢さんが主演を務める映画『ライフ・オン・ザ・ロングボード 2nd Wave』(2019年春公開予定)がクランクアップされたと聞きました。舞台では『華氏451度』と主演作が続きますが、吉沢さんは映画と舞台では演技においてどんな違いがあると考えていますか?

基本的には同じなのですが、舞台は稽古期間を長く設けられるので、映画と演劇では準備していくものが違いますね。映画の場合は即興性が求められるので、なるべく役の知識や身体を準備していきます。演劇の場合も役に対して準備していくものは多くあるのですが、舞台は演出家の世界、そしてカンパニーの持ち味を深めていく共同作業になるので、制作に入るまでの気構えが違います。

演劇は海外旅行に行くような気持ちなんです。初めて行く旅行先って、多少なりとも不安じゃないですか?なので、前もって下調べをして、それに応じた荷物を持っていく。でもいざ行ってみると、まったく予想できないことが起きたりするんですよね(笑)。その点が演劇も同じだと思っています。

作品ごとに演出家、座組みの風習や文化があって、予想もしていなかったような世界観が繰り広げられる。演劇はそういった、風習や文化を自分のものにしていくのが楽しいんです。もちろん下準備があってこそ救われることはたくさんあるのですが、ある程度、隙間のある下準備が大切だと思っています。

――では、今回は白井晃という国に・・・。

初入国です(笑)。

――白井さんの座組というか、国について下調べはしていますか?

白井さんの作品に出演した経験のある俳優さんから話を聞いたりしているのですが、皆口を揃えて「いい国だよ」と言っています(笑)。なので、僕も稽古場でどっぷり白井国に浸りながら、自分にはなかった気持ちや身体表現を発見しようと思っています。

舞台『華氏451度』吉沢悠インタビュー_3

自分を縛らず現在(いま)を楽しんで、見聞を広げる

――40才という節目において、昔と現在では演技に対して、どのような変化があったのでしょうか?

20代のころは対外的な見られ方を意識することが多かったんですよね。でも今は、映画やドラマ、そして演劇でも、共同作業によって生み出される想像もしていなかった表現を楽しみたいと思っています。自分の想像できる範疇でしか物事を捉えなかったら、世界のほんの一部しか見えないしアウトプットできないということに、ある時気がついて。

旅行するように、そこにあるものを肌で感じて咀嚼して、その上で自分のあり方を考えるのが楽しいですよね。例えば『華氏451度』でも、ガイドブックを閉じて白井国ってどんなところなんだろうって見つめると、仕入れた情報とはまったく違う世界が見えてくると思うんです。そういった自分の世界を押し広げる刺激に対して、自分がどう対応していくか。それが今の僕の演技をする楽しみです。

――今後の活動のビジョンなどはありますか?

ビジョンというほどではないのですが、もっといろいろな世の中のことを知りたいと思っています。作品に携わるということは、それだけいろいろな人に会えるってことだと思うんです。最近になって今までご一緒したことのない同世代の映画監督さんや白井さんのような大先輩と仕事する機会が増えてきたんです。なので、出会いの機会をジャッジせず、いろんなことに挑戦したいと思っています。

――余談となりますが、本作になぞって吉沢さんにとって焼かれたくない本を教えてください。

なるほど~、難しい質問ですね(笑)。一つに絞るのは難しいけど、中村天風さんの本は焼かれたくないですね・・・。中村天風さんの本を読むと、これほど地に足をつけ、腹に力を入れ日々を過ごしていた人がいるんだって驚くんです。だから、グラつきそうな時やモヤっとしたきに読んでいると、背中を叩かれるような気持ちになれて。中村天風さんの本は焼かれたくないです!

――それでは最後に、舞台を楽しみにされているお客様に一言メッセージをください。

白井晃さんの演出作品なので、美しい世界が舞台上に現れると思います。そして、個性的な共演者の皆さんと一緒に力のある原作『華氏451度』を舞台として作り上げていくので、ぜひスケジュールを空けて劇場にお越しください!

舞台『華氏451度』吉沢悠インタビュー_4

◆公演情報
舞台『華氏451度』
【神奈川公演】9月28日(金)~10月14日(日) KAAT神奈川芸術劇場 ホール
【愛知公演】10月27日(土)10月28日(日) 穂の国とよはし芸術劇場 主ホール
【兵庫公演】11月3日(月)・11月4日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

【原作】レイ・ブラッドベリ
【上演台本】長塚圭史
【演出】白井晃

【出演】吉沢悠 美波 堀部圭亮 粟野史浩 土井ケイト 草村礼子/吹越満

(衣装提供:nest Robe CONFECT、45R)

(撮影/大宮ガスト)

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