白井晃、芸術表現が「恒常的に同期している場所でありたい」2018年度 KAAT神奈川芸術劇場ラインアップ発表


2018年2月7日(水)に神奈川・KAAT神奈川芸術劇場にて、同劇場の2018年度ラインナップ発表会が行われた。会の前半では新年度のスタートを切る舞台『バリーターク』の制作発表会が行われたが、後半では、今年度の上演作品を手掛ける松井周、松原俊太郎、森山開次、長塚圭史、杉原邦生、木ノ下裕一がKAAT神奈川芸術劇場の芸術監督・白井晃と共に登壇した。

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まずは白井が「これまでも何度も口にしてきましたが・・・」という前置き付きで、「KAATはこの劇場でしか出来ないこと、東京の劇場では出来ないことをやっていきたいと思っています。東京の、民間の劇場ではなかなか思い切ったことが出来ない、そう感じていたからです。そしてKAATは先鋭的でありたい。我々は常に新しい物に取り込まれ、いつしかそれが“普通”になってしまうことがよくあります。それ故に、我々が“普通”と思っていることから少し離れて“普通を見直す”こと、これこそが先鋭的と思っており、そういった作品を今後も作っていきたいです。また、KAATは、演劇のみならず、現代美術、音楽、立体表現であるダンスなどが“恒常的に同期している場所”でありたいし、そういうプログラムを目指していきたいと願っています」と語った。

以下、白井の口から時系列に沿って2018年度のラインナップが紹介され、クリエイターから自身が手掛ける作品について説明があった。

【KAAT×世田谷パブリックシアター『バリーターク』※日本初演】
日時:4月14日(土)~5月6日(日)
会場:大スタジオ
作:エンダ・ウォルシュ
演出:白井晃
出演:草なぎ剛、松尾諭、小林勝也

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【KAAT×サンプル『グッド・デス・バイブレーション考』】
日時:5月中旬
会場:中スタジオ
作・演出:松井周
出演:戸川純、野津あおい、稲継美保、板橋駿谷、松井周

◆松井周
僕は「楢山節考」という作品が好きなんです。日本文学の中ではいつまでも心にひっかかって自分のベースとして考えている作品です。以前台湾で仕事をした時、台湾では子育てが始まるとすぐに介護も始まる・・・それが問題となっていました。それは、日本も同じだと思います。この作品は近未来の話なんですが、近未来で(「楢山節考」のように)親を捨てに行くということがあるとしたらそれは「安楽死」の話になるのでは?と考えました。安楽死という観念がある中でどう生きていくか、安楽死に直面する貧困家庭の話を描きたいと思いました。実際に安楽死がブームになるとしたら、これまでになかった死生観が生まれるんじゃないかなと思っています。

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【KAAT×地点『山山』】
日時:6月6日(水)~6月16日(土)
会場:中スタジオ
作:松原俊太郎
演出:三浦基

◆松原俊太郎
舞台『忘れる日本人』を作った後、次に何を作ろうかと思っていたのですが『忘れる日本人』が海の話だったので「次は山だろう」と言われて(笑)。山が二つ並ぶとかわいらしく、そこからイメージを膨らませていくと「~したいのはやまやまですが」という決まり文句がモチーフとして使えるなと。そしてアメリカの作家・ハーマン・メルヴィルの『バートルビー』の主人公の決まり文句が「~できれば○○したいのですが」。何かにつけてそう答えをし、でも何もしないという「受動的抵抗」をする姿も使えそうだと感じ、『山山』に関するそれらのモチーフを集めていくとおもしろいものが書けそうだな、と思いました。かつては美しかった山と汚染物質の山の狭間で暮らす家族たちの新たな抵抗の声を生き様を今描いているところです。

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【KAATキッズ・プログラム2018『不思議の国のアリス』】
日時:7月中旬
会場:中スタジオ
原作:ルイス・キャロル
テキスト:三浦直之
演出・振付:森山開次
出演:森山開次、辻本知彦、島地保武、下司尚実、引間文佳、まりあ

◆森山開次
『不思議の国のアリス』を全国の子どもたち、そして大人たちに向けて再演することが出来、嬉しく思っています。私たちダンサーはたった6人ですが、それぞれ個性溢れる強者たちで、クリエイションしている間も私自身、高揚を抑えることができないくらいでした。僕たちの最高のパフォーマンスを子どもたちの前で見せる、それを子どもたちが真剣に見入っているという姿に感動しました。作品のテキストを劇団ロロの三浦さんに紡いでいただき、へんてこりんな世界を身体と言葉で綴っている作品となっています。昨年よりパワーアップしていきたいと思います。

【KAATキッズ・プログラム2018『グレーテルとヘンゼル』】
日時:8月
会場:大スタジオ
脚本:スザンヌ・ルボー
演出:ジェルヴェ・ゴドロ

【KAATキッズ・プログラム2018『ホワイト WHITE』(スコットランド)】
日時:8月
会場:大スタジオ
出演:キャサリン・ウィールズ劇団

【KAATキッズ・プログラム2018『ニュー オーナー NEW OWNER』(オーストラリア)】
日時:8月
会場:大スタジオ
作・演出:ティム・ライス、アリエル・グレイ
出演:ザ・ラスト・グレート・ハント

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【『華氏451度』】
日時:9月~10月
会場:ホール
原作:レイ・ブラッドベリ
上演台本:長塚圭史
演出:白井晃

◆白井晃
近代文学の読み直しという視点で舞台化したい、その一環として本作を選びました。言論統制や情報操作ということが取り正されている中で・・・そういう内容の作品『1984』をやろうと当初考えていたんです。そうしたら新国立劇場さんで一足先にやることが発表されまして(笑)。もう一つ同じテーマの作品でやりたかった『華氏451度』に目を向けたところ、長塚さんが「これは前から僕がやってみたかった作品です。僕が書かずして誰が書く!?」と言ってくださったので、ぜひ!とお願いしました。

◆長塚圭史
僕が別の打ち合わせをしている時に、白井さんが『華氏451度』をやりたいという話を小耳に挟み「冗談じゃない!待ってくれ!僕に書かせてくれ!」と主張して(笑)。昨年6月にKAATに籠って上演台本を書きました。僕は白井さんが演出する上演台本を書く時は一週間ほど拉致されるんです。一週間、二人で籠って白井さんの目の前でずーっと僕が本を書き続けるというすごく気持ち悪い時間を過ごしました(笑)。一本の小説を少人数制の戯曲に仕上げ、ちょっとした仕掛けも入れておもしろくなっていると思います。

【ウースター・グループ『タウンホール事件』-クリス・ヘジタスとD・A・ベネベイガーによる映画『タウン・ブラッディ・ホール』に基づく-(アメリカ)】
日時:9月下旬
会場:大スタジオ
演出:エリザベス・ルコンプト
出演:エンヴァー・チャカルタシュ、アリ・フリアコス、ギャレス・ホブス、グレッグ・マーテン、エリン・マリン、スコット・シェパード、モーラ・ティアニー、ケイト・ヴァルク

【KAAT DANCE SERIES 2018『A O SHOW』(アー・オー・ショー)(ベトナム)】
日時:10月
会場:ホール
演出:トゥアン・レー
出演:ルーン・プロダクション

【KAAT DANCE SERIES 2018『Cross Transit 2』(仮)】
日時:10月
会場:大スタジオ
演出・構成・振付・出演:北村明子
出演・振付:清家悠圭、柴一平、西山友貴、川合ロン、加賀田フェレナ、チー・ラタナ(カンボジア)、ルルク・アリ(インドネシア)
出演(予定):阿部好江(鼓童)

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【KAAT DANCE SERIES 2018 伊藤郁女・森山未來『新作』】
日時:11月1日(木)~11月4日(日)
会場:大スタジオ
演出:伊藤郁女
振付・テキスト・出演:伊藤郁女・森山未來

◆伊藤郁女(コメント映像にて)
今回、三島由紀夫の「美しい星」をベースに作っています。この物語は家族皆が宇宙人だと思って生活している設定なのですが、その中で宇宙人同士が「人間を救う意味があるのか、地球を救う意味があるのか」と話をする場面があるのですが、その場面を膨らまして作品を作りたいと思います。

◆森山未來(コメント映像にて)
(伊藤)郁女ちゃんとの付き合いは、もう6、7年くらいになります。フランスで活動する郁女ちゃんと、フラフラしている僕という宇宙人と呼べなくもない二人がどうやってこの地球の中でサバイブしていくのか(笑)、切磋琢磨しながら今、作っています。

【KAAT DANCE SERIES 2018×Dance Dance Dance @YOKOHAMA 2018 バレエ・ロレーヌ公演(フランス)】
日時:9月16日(日)・9月17日(月・祝)
会場:ホール

【KAAT DANCE SERIES 2018×Dance Dance Dance @YOKOHAMA 2018 マチュラン・ボルズ公演(フランス)】
日時:9月22日(土)~9月24日(月・休)
会場:大スタジオ

【KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『セールスマンの死』】
日時:11月
会場:ホール
作:アーサー・ミラー
演出:長塚圭史

◆長塚圭史
本作は時間の流れも特殊で、一人の男が帰宅してから自殺するまでの2日間を描いています。その2日間の中に彼の人生、彼の家族のすべてが集約されていて、その手法から圧倒されます。これほど優れた戯曲はほかにないと思います。本当のことを言うと恐ろしくてやりたくない作品でもあるんですが、僕がとても信頼する俳優さんが主演を務めてくださることが決まり(後日発表)、であるならば、このタイミングしかないだろうと思い決意しました。堅苦しいものを想像される方もいるかと思いますが、戯曲の手法そのほか、非常に現代的で時間が錯綜しているのに明瞭明快で、それでいて分かりやすいところにまったく収まらない作品です。

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【KAAT EXHIBITION 2018 「潜像」】
KAAT EXHIBITION 2018 さわひらき展「潜像の語り手」
日時:11月11日(日)~12月9日(日)
会場:中スタジオ

KAAT EXHIBITION 2018 島地保武『新作』パフォーマンス
日時:11月中旬
会場:大スタジオ
振付・出演:島地保武

◆さわひらき(コメント映像にて)
普段は映像と空間を使ったビデオインスタレーションを主に発表しています。テーマの「潜像」ですが、これをどのように空間で表現できるかを中心に考えていこうと思います。またパフォーマンスとのコラボは私もしたことがなく、自分にとっても大きなチャレンジだと思って楽しみに取り組もうと思います。

【三宅純コンサート『The here and after』】
日時:11月23日(金・祝)
会場:ホール
出演:三宅純

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【KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『オイディプス王』】
日時:12月
会場:大スタジオ
作:ソフォクレス
演出:杉原邦生

◆杉原邦生
一昨年、松井周さんとこのKAATで『ルーツ』という作品を作らせていただきました。白井さんの熱意とKAATスタッフのクリエイションに触れ、この劇場となら僕も挑戦が出来るかもと考え、いつかやってみたいと思っていたギリシャ悲劇、中でも『オイディプス王』をやってみようと思いました。今回オイディプス王は、若者にしようと考えています。この人物は大御所の俳優さんが演じ、妻であり母であるイオカステも大御所の女優さんが演じるケースが多いのですが、その二人の近親相姦を想像するとなかなかハードだな、と感じまして(笑)。その違和感を解消したいと思ったんです。また青年王が堕ちていく様を鮮烈に描きたいなと。コロス以外の7役を3人の俳優で振り分けて上演し、コロスも一群衆ではなく一人一人の個性が見えるようにしたいですね。この舞台を観終わった後、お客さんが皆オイディプス王のように思わず目をつぶしたくなるような、それでいてその先に希望や光が見えてくる作品に仕上げられたらと思います。

【KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『出口なし』】
日時:2019年1月
会場:中スタジオ(予定)
原作:J.P.サルトル
構成・演出:白井晃
出演:首藤康之、中村恩恵、ほか

【KAAT×まつもと市民芸術館『冬のキャバレー 危機一髪』】
日時:2019年1月~2月
会場:大スタジオ(予定)
作:ソーントン・ワイルダー
演出:串田和美

◆串田和美(FAXにて)
今、私はKAATで3月から上演する『白い病気』の稽古で頭がいっぱいなのですが、このラインナップ発表会にタイトル未定の『新作』と出すのはどうも格好悪いと思い頭をひねっていたところ、まさにこれぞ『危機一髪』だなとひらめきました。『危機一髪』とは『わが町』を書いたソーントン・ワイルダーのぶっ飛んだ作品、白井さんがKAATのテーマにしているアンチリアリズムを形にしたような作品です。これで行きたいと思いますので、タイトルは『冬のキャバレー 危機一髪』と発表してください。

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【KAAT×ロームシアター京都×穂の国とよはし芸術劇場 木ノ下歌舞伎『糸井版 摂州合邦辻』(仮)】
日時:2019年3月14日(木)~3月17日(日)
会場:大スタジオ
作:菅専助、若竹笛躬
補綴・監修:木ノ下裕一
上演台本・演出・音楽:糸井幸之介

◆木ノ下裕一
木ノ下歌舞伎が今回お招きした糸井さんは、劇作に加え歌、音楽をも作る方です。『妙ージカル』と称して作品を手掛けていらっしゃいますが、僕から見るとむしろそれは『本流』だと思います。西洋的なミュージカルより日本の歌物・・・『伊勢物語』のような和歌と普通の言葉が交互に入ってくる作品や、義太夫のようにナレーションに当たる「地の文」と台詞に当たる「語り」と歌である「節」という3つで構成されている音曲のロジックに近いと感じています。その糸井さんと今回組んで作る本作ですが、ものすごく端折って紹介しますと、ある母が義理の息子に恋をして、追いかけまわし、挙句には息子に毒を盛る、実はそれはお家騒動に巻き込まれそうになる義理の息子を助けようと仕組んだ継母なりの自己犠牲を描いた話です。

【KAAT DANCE SERIES 2018 提携公演『いきのね』】
日時:2019年2月
会場:ホール
振付・演出:山田うん
出演:Co.山田うん

【芸術監督トーク『SHIRAI’s CAFE』】
日時:年間3回予定
会場:アトリウム
出演:白井晃、ゲスト1名

【TPAM -国際舞台芸術ミーティングin 横浜 2019】
日時:2019年2月9日(土)~17日(日)
会場:全館

このほか、提携公演として、Rock Musical『5DAYS 辺境のロミオとジュリエット』、横浜ポートシアター『さらばアメリカ!』、地点『忘れる日本人』、東京デスロック+第12言語演劇スタジオ『カルメギ』、阿佐ヶ谷スパイダース『MAKOTO』、時々自動『コンサート・リハーサル』が上演される。

(取材・文・撮影/エンタステージ編集部)

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