加藤和樹アーティストデビュー15周年記念インタビュー「孤高の存在であるよりも、人の心に寄り添える歌を」

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2005年にミュージカル『テニスの王子様』の跡部景吾役で一躍脚光を浴び、翌2006年4月にはMini Album「Rough Diamond」でCDデビュー。その後はアーティスト・俳優・声優として精力的に活動を続けて来た加藤和樹が今年アーティストデビュー15周年を迎えた。

多くの2.5次元作品やストレートプレイに出演し、近年はグランドミュージカルで主演を務めるなど目覚ましい活躍を見せ、今年4月の第46回菊田一夫演劇賞・演劇賞の受賞で名実共に多くのミュージカルファンの注目を集める存在となった加藤。

15周年を迎えた現在の心境やこれまでの道のりを振り返っての想い、そして今後の音楽への向き合い方について、たっぷり語ってもらった。

(取材・文・撮影/近藤明子)

目次

人との出会いに生かされて 気が付けばここたどり着いていた

――改めて「アーティストデビュー15周年」と聞き、もうそんなに経ったのかとビックリしました。

僕自身は「気が付けばもう15年か」という感じなのですが、昔から知ってくださっている方たちはそう思うみたいですね(笑)。

――デビュー当時は、今のこの状況は想像していましたか?

いや、全く!当時は役者としてもアーティストとしてもゼロからのスタートだったので、毎日必死で「将来どうなりたいか」なんて考える余裕なんてありませんでした。憧れのアーティストの活躍を見ながら「早く自分もこういう場所でライブが出来るようになりたい」「全国をライブツアーで回れるようになりたい」と夢を膨らませていたけれど、なかなか思うようにはいかなくて・・・。

そんな中、デビュー2周年で日本武道館での単独ライブ(2008年4月28日「Kazuki Kato 2nd Anniversary Live”GIG”2008-SCRAP&BUILD-」)は大きな試練でしたね。自分でも「まだ日本武道館に立つには実力不足だ」というのは分かっていたけれど、「決まったのだから全力でやるしかない!」と腹をくくってステージに立ちましたが、正直悔しさが残るライブとなりました。まぁその悔しさがあったから「次はちゃんと実力をつけて、絶対にみんなをここに連れてくるんだ」という新たな目標ができたし、自分のやりたいライブのイメージが明確になるひとつのきっかけになりました。

今だから言えるけど、その頃は「辞めようかな」と思うこともあったんです。でも辞めなかった・・・というか“辞められなかった”のは、「辞めれば自由になれるのか?それは“自由”ではなく“無”じゃないか?」と思ったから。「応援してくれる人のためにも、逃げずに困難を乗り越えていくことが自分の生きる道だ」と信じるしかなかったんですよね。今思うと「人のせいにして言い訳するなよ」って感じですけど。

――こういう言い方が正しいか分かりませんが、ファンの応援が“枷(かせ)”であり“拠り所”でもあった?

そうですね。今は“枷”ではなく大切な“支え”となっていますが、どこかで期待の大きさを重く感じていたのかもしれないです。

――学生時代からバンド活動をしていると、自分たちでライブを作るのはどうしたらいいか、失敗や試行錯誤をしながら裏方の仕事を覚えていきますが、加藤さんはそうじゃなかったんですよね。

はい。だから最初の頃はライブで人前に立つのが恐怖でしたね。もちろん憧れていた場所なんですけど、自分にとって“未知”の場所だし音楽に対する知識も“無知”だったし・・・。それでもデビュー1~2年は必死な感じで失敗も許されるかもしれないけど、3年、4年、5年目となるともう新人扱いはされない。デビュー翌年の2007年から大島賢治さん(※元↑THE HIGH-LOWS↓のドラマー)がバンマスとして参加してくださったのですが、「ああしてみようか」「こうしてみようか」と言われたことに自分がトライをする形でライブの構造が分かって来たものの、まだまだ自分の意志で選べることは少なかった。

悔しいけれど、それは「分からない」から何が正しいのかを選べなかったんですよね。その後、2011年に「テニミュ」で共演した伊達幸志とユニット「JOKER」を結成してセッションする楽しさを教えてもらったことは、曲作りをするうえでも自分の中で大きな転機となりましたし、ライブメンバーのTHE DRASTICSとの出会いは何よりかけがえのないものです。15年が経って振り返った時に「遠回りしたな」「あの時、こうしておけば良かったな」と思うこともたくさんあるけれど、それも含めて“自分らしさ”だと思うんですよね。

――5周年のあたりになると、ライブでのパフォーマンスはもちろん、MCでも観客との「いじり」「いじられ」のコミュニケーションを楽しむようになって、トークにすごく「加藤和樹らしさ」が出てきたように感じます。

ファン=応援してくれる人ではなく、ライブという特別な空間で一緒に生きていく“仲間”という意識になったのが、ちょうどその頃なんですよ。みんな日々の生活の中で溜まったものを吐き出して、曲を通じて共有した気持ちを持ち帰って明日からの力に変えていく。「それは、もう仲間じゃん!」って俺は思ったんですね。もちろんアーティストが先頭に立って引っ張っていくことが大前提としてあるけれど、互いに成長していける関係性でもあるとライブやイベントと通じて感じるようになってからは、ますますみんなを愛おしく思うようになりました。

――それに気付けた出来事が具体的にあったりしましたか?

リリースイベントでファンの皆さんと直接触れ合う機会があったことが大きかったですね。それまでイベントは苦手だったんですけど、いつの間にか自分の原動力になっていました。学生だった子が久しぶりに会ったら「就職しました」「結婚しました」って報告してくれて「俺って親戚?」と思うようなこともありますけど(笑)。その近い距離感が自分にとってすごく心地が良いんですよ。

昔は「アーティストは孤高の存在でなければならない」というカッコつけたイメージが自分の中にあったけど、その一方で身近に感じてもらえる“心の拠り所”でありたいという気持ちが直接会話をすることで自分の中に生まれて来ました。トークに関しては、『ブギウギ★Night』や『ゴチャ・まぜっ!火曜日』などのインターネット番組やラジオ番組のレギュラーを持たせていただいたことで「その場で考えて発言する」というスキルが少しずつ身に付いて、ライブのMCにも生かされたんだと思います。

――役者とアーティスト活動を並行して行うのはなかなかハードだと思います。加藤さんの中では、どうバランスをとっているのでしょうか?

正直、スケジュールが詰まっていると「キツイな」と思う瞬間もありますが、今の自分にとってどちらも大切なものですからね。昔は取材で「アーティストなのか、役者なのか、どっちなの?」と聞かれて「どっちもだよ!」「やるからには両方両立させてやる」って、どこか意地になっていたけれど、今はどっちもあきらめないで良かったと思っています。

特に今年は菊田一夫演劇賞という名誉ある賞をいただいて、やり続けてきたことがちゃんと実ったことが心から嬉しかったし、だからこそ「音楽でも頑張ろう」と思えました。自分にとってはどちらも必要不可欠なものということに15年かけて気づけました。

――両方が作用しているというのは、歌の変化にも表れていますね。

確かに、ミュージカルをやっていなかったら、こんなに幅がある歌は歌えなかったと思うし、繊細な歌い方、気持ちの伝え方はミュージカルの影響がすごく大きいです。

――いわゆるロックの歌い方とミュージカルでは「使う声帯が違う」という話を聞くのですが、その点はどのように変えていったのでしょう?

声帯の違いというよりは、声帯の中の使う場所(ポジション)の違いですね。歌い方に合った筋肉を鍛えればいいっていうことです。

――「鍛えればいいだけ」って筋トレやるみたいに(笑)。それが難しいんでしょう?

まぁそうですね。僕もミュージカル『ロミオとジュリエット』の稽古が始まった頃は、まだミュージカルの声帯が出来ていなかったので、小池修一郎先生に「そんな歌じゃダメ」と言われて落ち込んだりしてましたね。今は自由にスイッチ(切り替え)が出来るようになりましたけど、とにかく周囲には歌の上手い人だらけなので、自分なんて全然まだまだ。そこは手を抜くことなくどこまでも追及し続けなければと思ってますが、技術で足りない分はハートでカバーするしかないので、常に“人の心に届く歌”を歌おうと心がけています。

20周年には40歳を超えているけど、いくつになっても挑戦は続く!

――デビューしてから自分で作詞・作曲もするようになり、今では歌に「加藤和樹節」みたいなものも感じられるようになりましたが、曲作りに対する姿勢、意識は、この15年でどう変化してきましたか?

そこは今でもあまり変わっていないです。その時々の自分のテーマを伝えるのに「難しい言葉は使わずなるべくストレートに」ってことを意識しているぐらいですね。ただ以前と大きく違うのは、コロナ禍の大変な状況で「果たして“何”が伝えられるのか?」ということ。今、次の作品に向けていろいろ試行錯誤している最中ですが、ありきたりな言葉ではないもので自分が感じている人とのつながりと感謝の気持ち、「ひとりじゃない」ということを伝えたい・・・。そこはブレずに伝えていきたいと思っています。

――最初の頃は、若さの勢いもあって「がんばろうぜ!」みたいなエールを贈る曲が多かったのが、だんだんと愛について、人との絆について、そして皆さんの背中を押してあげるような優しさと力強さを感じられる曲へと変化していってます。

それは僕自身が求めているものだし「自分がそうありたい」という意志の表れでもあります。歌詞を書く時には、自分にも当てはまるように書くっていうのが大前提なので。自分が共感できないものは人に共感してもらえるわけがないので、歌詞を書く時には嘘偽りのない言葉を紡ぎたいんです。

――話が変わりますが、最初にミュージカル『テニスの王子様』で初めて舞台に立って、そこからストレートプレイ、様々な2.5次元作品、そしてグランドミュージカルと活躍の場を広げています。ここ数年で、ライブに来るファン層も変わりましたか?

ミュージカルで知ってくださった方や声優の作品で僕のことを知ってくださった方にも興味を持っていただけるのは本当にうれしいし、ありがたいことですよね。普段ライブに来ないような方が会場に足を運んでくださるのは相当ハードルが高いと思いますが、まだ見たことのない世界を見せてあげられると思うので、ぜひ怖がらずに遊びに来て欲しいなと思います(笑)。

ちょっと心配だったのは、普段ミュージカルやホールでのコンサートに慣れている方が果たしてスタンディングのライブで大丈夫なのかなということ。ライブチームのスタッフとも「やっぱり椅子がある会場がいいのかな?」とか毎回相談を重ねていますが、「60代だけど私まだまだスタンディングでいけるから!一緒にがんばろうね!」と言ってくれるファンの方もいて「マジか!?元気だな」ってビックリしました。

すべての方の要望を叶えるようなライブを作ることは難しいけれど、タイプの違うライブをやる事で応援してくれる方々のニーズに合わせたライブは実現出来ると思うんですよね。スタンディングでいい汗をかきたい人は「Live “GIG”」、ラフな感じで歌とトークを楽しみたい人は「KK-STATION」、そして今回初の試みとして11月に行う「ピアノライブ」では今までとは違ったラグジュアリーな雰囲気のステージをお届けする予定なので、いろんな表情の僕に会いに来てほしいです。

――今までやって来たアコースティックライブではなく、今回あえてピアノライブにしようと思った理由を伺えますか?

きっかけは、アルバム「K.KベストセラーズII」です。DISC2ではフッキーさん(吹野クワガタ)とアコースティックスタイルのカバー曲を5曲収録したんですけど、それは15周年のタイミングでようやく実現できたとことで・・・もっと早いタイミングだったら、多分自分の表現者としての力が足りなくてカバー曲集は“出来なかった”と思うんです。15年の経験とミュージカルで培って来たものがあって初めて「今なら挑戦出来るかも」と思ったので、実際にライブでもピアノの生演奏で歌うという挑戦をすることになりました。

――まさに機が熟したタイミングだったんですね。

自分で決めたものの考えるだけでめちゃめちゃ緊張しますけどね(笑)。でも先日のリリースイベントで初めてファンの皆さんの前でフッキーさんのピアノをバックに歌ったら、そこで生まれる空気がレコーディングとも違う雰囲気だったんですよ。「これはライブでやる度に変わっていくものになりそうだ」とワクワクしました。今は楽しみでしょうがないです。

――コロナ禍の中で迎えたアーティストデビュー15周年ですが、様々な工夫を凝らしながらライブツアーも行いました。立ち止まらずに前に進む・・・当たり前のようで一番難しいことですよね。

「今は辞めた方がいいのでは?」という心配の声もありましたが、「とにかく歌を届ける!」という選択をしたことは間違ってはいなかったと思っています。もちろん細心の注意を払って感染症対策をしてくれたスタッフ、そして会場に来てくださった皆さんが「マスクは外さない」「声を出さずに拍手で応援」を徹底してくださったからこそ無事に終えることができたわけですけど。

構成に関しても「もっと話したい」「みんなの近くに行きたい」という気持ちだったけど、グッと我慢して・・・。ただ同じ空間に居られることが、もう尊いですから。でも声を出して叫びまくるライブの楽しさを知ってしまっている身としては、またその時が来ることを信じて今できることをする。ただそれだけです。

――ところで、これから先の“加藤和樹の音楽”はどう変わっていくのでしょう?

根本にある「メッセージを届けていきたい」という部分は変わりませんが、その伝え方・表現方法はコロナ過で音楽シーンがこれだけ大きく変わり始めているので、今までのようにはいかないだろうし、変えていかなければいけないと思っています。時代に合わせて伝え方を模索していかなければならないので、その方法は手探りな部分はありますけれど、それでも途切れることなくライブを行うこと、そして作品のリリースを続けていきたいです。とはいえ、自分一人の力で出来ることではないし、支えてくれるスタッフの方々がいてこそ自分はやりたいことが出来るので、どんなに大変だろうと自分が倒れるわけにはいかないなって思いますね(笑)。

――これだけ忙しいと、やっぱり体が資本ですよね。

20周年の時には、僕ももう40歳を超えているわけですし、いつまでも元気でいられるような体作りや健康管理をするのもこれからの課題になりますね。

――加藤さんは年々若返っている気がしますが・・・。

ようやく見た目に年齢が追いついたんですよ(笑)。昔は「加藤和樹、本当に20代?」っていじられていたし。

――失礼いたしました。(笑)。

いえいえ(笑)。でも、ここ数年でミュージカル業界でもどんどん若返りが進んでいますからね。勢いのある若手に対抗する意味でも、もっといろんな“武器”を持っていないとダメだなというのは、あっきーさん(中川晃教)さんや井上芳雄さんといった長く第一線で活躍されている先輩方を見るにつけ常に危機感を感じています。

それと同時に、これからは山口祐一郎さんや石丸幹二さんのように、年齢を重ねたからこそできる物語を支える役割を担う重要なポジションにチャレンジしていくため、さらに芝居の技術を磨いて、同時に長く過酷な公演にも耐えうる体力を維持していかなければと思っています。

――では最後に、ファンへメッセージをお願いします。

無事、アーティストデビュー15周年を迎えましたが、まだまだ自分のやるべき事、やらなければいけない事はいっぱいあります。これから先、20年、25年と新たな挑戦をしていくので、ぜひ楽しみについて来てください!

★Instagramに編集後記掲載中!記事内写真のアザーカットもあります。ぜひご覧ください。★

Information

「Kazuki Kato Piano Live Tour 2021」
【日程】
11月14日(日) 広島 Live Juke
【第一部】開場 12:30/開演 13:00 【第二部】開場 16:00/開演 16:30
11月16日(火) 札幌 ペニーレーン24
【第一部】開場 14:00/開演 14:30 【第二部】開場 17:30/開演 18:00
11月20日(土)仙台 LIVE DOME STARDUST
【第一部】開場 12:30/開演 13:00【第二部】開場 16:00/開演 16:30
11月24日(水) 新潟 GIOIA MIA
【第一部】開場 14:00/開演 14:30 【第二部】開場 17:30/開演 18:00
11月27日(土) 会場 松山 MONK
【第一部】開場 13:00/開演 13:30 【第二部】開場 16:30/開演 17:00
12月02日(木) 名古屋 ボトムライン
【第一部】開場 14:00/開演 14:30 【第二部】開場 17:30/開演 18:00
12月11日(土) 福岡 Gate’s 7
【第一部】開場 13:00/開演 13:30 【第二部】開場 16:30/開演 17:00
12月19日(日) 心斎橋 JANUS
【第一部】開場 12:30/開演 13:00 【第二部】開場 16:00/開演 16:30
詳細はFCサイト(https://fan.pia.jp/katokazuki-fc/)にてご確認ください。

「Petit VOICEFUL WORLD TOUR 2021」
※このイベントはFC会員限定のイベントとなります。
※申し込み詳細はFCサイト(https://fan.pia.jp/katokazuki-fc/)をご覧ください。
【日程】
11月13日(土) 広島 Live space Reed 開場 15:30/ 開演 16:00
11月17日(水) 札幌 SPiCE 開場 17:30/開演 18:00
11月19日(金) 仙台 darwin 開場 17:30 /開演 18:00
11月23日(祝火) 新潟 GOLDEN PIGS RED 開場 14:30/ 開演 15:00
11月28日(日) 松山 サロンキティ 開場 14:30 /開演 15:00
12月03日(金) 名古屋 CLUB QUATTRO 開場 17:15 /開演 18:00
12月12日(日) 福岡 DRUM LOGOS 開場 14:15 /開演 15:00
12月18日(土) 梅田 Banana Hall 開場 15:15/開演 16:00
12月30日(木) 新宿 FACE【第一部】開場 11:30/開演 12:30【第二部】開場 16:00/開演 17:00

Kazuki Kato Live “GIG” Tour 2021-REbirth-
【日程】
12月09日(木) 川崎 CLUB CITTA’ 開場 17:00/開演 18:00
12月13日(月) 福岡 DRUM LOGOS 開場 17:00/ 開演 18:00
12月15日(水) 岡山 CRAZYMAMA KINGDOM 開場 17:00 /開演 18:00
12月16日(木) 心斎橋 BIG CAT 開場 17:00/ 開演 18:00
12月23日(木) 豊洲 PIT 開場 17:00/ 開演 18:00

◆チケット一般発売日
一般発売:2021年10月16日(土)10:00~

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この記事を書いた人

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