2021年8月30日(月)に東京・東京芸術劇場 プレイハウスにて、『Le Fils (ル・フィス)息子』が開幕した。本作は、フランスの若手劇作家フロリアン・ゼレールの『La Mere 母』『Le Pere 父』に続く「家族三部作」の一つで、思春期の絶望と不安に苛まれながら必死にもがく息子と、愛によって息子を救おうとする父親を描いた作品。岡本圭人と岡本健一という、実際の“親子”をキャスティングし、日本初上演される。
2018年にパリ・シャンゼリゼ劇場で初演され、フランス最高位の演劇賞モリエール賞で最優秀新人賞を受賞するなど、高い評価を受けた本作。2019年に『Le Pere 父』の上演も手掛け、『Le Fils 息子』の初演も手掛けたフランスの演出家ラディスラス・ショラーが、今回も綿密な演出で人間の本質を炙り出す。
初日前には、フォトコールで一部シーンが公開されたほか、岡本圭人、岡本健一、若村麻由美、演出のラディスラス・ショラーが登壇し、開幕に向けて意気込みなどを語った。
主人公は、17歳の少年ニコラ(岡本圭人)。彼は、両親の離別により家族がバラバラになってしまったことにショックを受け、何に対しても興味が持てなくなってしまった。嘘を重ねて学校にも行かず、目的もなく一人で過ごしていたところ、学校を退学になってしまう。
父親のピエール(岡本健一)は新しい家族と暮らしていたが、母親のアンヌ(若村麻由美)からニコラの様子がおかしいことを聞き、なんとか彼を救いたいと息子と向き合おうとする。
生活環境を変えることが、唯一自分を救う方法だと思ったニコラは、父親とその新たなパートナー・ソフィア(伊勢佳世)、歳の離れた小さな弟と一緒に暮らし、新しい生活をスタートさせるのだが・・・。
フォトコールでは、新しい環境で生まれた不和、実母への愛情と苦悩のはざま、血の繋がりはあれど“他者”である父親との激しいぶつかり合いなどから、物語終盤、ニコラの中で言葉にできない感情が膨れ上がっていく3つのシーンが公開された。シーンの切り替えは、舞台セットをパーテーションで仕切ることで部屋の様子が変化していくことで表現されている。シンプルゆえに、美術を手掛けたエドゥアール・ローグの手腕が光る。
ちなみに、ニコラの両親であるピエールとアンヌは離別しているが、フランスの離婚事情としては実際に離婚には至っておらず、新しい家族であるソフィアとの結婚は成立していないそう。これを念頭に入れて観ると、話の見え方が変わってくるかもしれない。
ニコラ役の岡本圭人は、これがストレートプレイ初舞台であり、単独初主演。2018年よりアメリカ最古の名門演劇学校アメリカン・アカデミー・オブ・ドラマティック・アーツで学び、築いてきた素地を初の経験で発揮している。
岡本健一は、愛によって息子を救おうとし、愛だけでは不十分であることに苦悩する父親役として、実の息子と舞台上で真正面からぶつかる。互いに“俳優”としてぶつかり合う親子の絆が、物語をより説得力を持って響かせていた。
会見で、演出のショラ―は「このような場面抜粋を披露する習慣は、フランスの演劇界にはない」と驚きながら、「私が日本でクリエイションするのは2回目となりますが、今回は特殊な環境下で行われました。Zoomでの稽古に始まり、稽古場に入れたのは(開幕の)2週間前のことでした。しかし、日本の俳優の皆さんは非常に優秀で、私を信頼し演出意図を100%実践してくれました。こういった方々と仕事をすることはとても幸せなことです」と、座組の結束力を讃えた。
「父と一緒に舞台に立つことが夢だった」という主演の岡本圭人は、「すごくドキドキしています。性格的に一つのことが終わると次に気持ちが向かってしまうので、初日を終えたあとにどんな景色が見えてくるのか、ワクワクしています」と、期待に胸を膨らませた。
それに対し、岡本健一は「昔から、圭人は『パパと舞台をやるのが夢』と言っていたので、早く叶えてやった方がいいんじゃないかなと。夢はどんどん昇華していった方がいいから」とコメント。
さらに「コロナ禍で、より家族で過ごす時間が増えていますよね。それはいいことでもあるけれど、病んでしまうこともある。そして、自分の気持ちを出せない子どもも増えていると聞きます。そういったことから、この作品を今、舞台上で皆さんにお届けすることは一つの使命のように感じていますし、本当の親子の話として伝えられるのはものすごい強みだとも思います」と加えた。
しかし、稽古場ではあくまでも俳優同士。二人を近くで見てきた若村は、「稽古場で、普段過ごしている時は、どうしても親子だと思えなかったんです。でも、ニコラとピエールになると、濃密な親子。俳優同士なんだなってつくづく感じました。アンヌの台詞の中に『あなたとパパは違う』という台詞があるんですが、実感を込めて言うことができました」と述べた。
演出のショラ―も、「率直にいいまして、稽古場では彼らが実の親子であることは忘れていました。その絆を感じ始めたのは、劇場での舞台稽古に入ってから。実の親子が演じることが、作品に+αを生むのだと、私自身も理解しました」という。
若村曰く、岡本健一は「すべてを引き回すようなパワー全開タイプ」で、岡本圭人は「ひたむきで純粋」。役者としての物語へのアプローチ方法にも違いを感じたという若村の言葉に、岡本圭人は「ジャニーズ事務所に入った時から『あなたとパパは違う』とずっと言われてきたので、(役として)若村さんからいただくあの言葉は、わかってくれる人がいたって、すごく心に響いています」と頷く。
ニコラに共感する部分が多いという岡本圭人。「ニコラが考えていること、父親に言いたいと思っていること、分かる部分が多くて。今、横にいるので言いづらいんですけど・・・(笑)。ピエールのニコラに対する接し方とか、実際に(父に)似ている部分があるのかなと思っていて・・・」と言ったものの、父の反応が気になったようで「これが親子共演のリスクかもしれない(笑)」と苦笑い。
一方で、「お前のことはこれから一俳優として見ていく、と稽古場で言ってくれたのは嬉しかったです。(父は)子どもの頃から尊敬する俳優でもあるので。あと・・・やっぱりかっこいいですよね」と尊敬と憧れを口にする場面も。「あとで家に帰ってから言えばいいじゃない(笑)」という父に、「家に帰ったら逆に言えないこともあるよ」と、親子ならではの会話が飛び交った。
作品作りを共にして、岡本健一も息子の成長を実感した様子。「演出のラッドに導いてもらってきましたが、その過程を毎日見ていると、芝居がどんどん変わっていくし、いろんな感情も見えてくる。それを見ていると、こちらもより気合が入りましたね。子どもの成長は早いと言いますが、大人も同じだけ時間が流れているわけだから、自分も成長しなきゃといつも以上に感じましたね」と稽古を振り返る。
親子の共演するにあたって何か決めたことはあるか?と問われると、「なんか俺いいこと言ってなかった?」と岡本健一。それに対して、岡本圭人は「いやいや、自分で言ったこと覚えておいてよ(笑)。結構ずっといいこと言ってたよ」と突っ込みながら、「稽古の途中から、朝は別々に稽古場に行って、帰りは一緒に帰るのがルーティーンになっていました。帰りは、役のこと取っ払って、実際の親子の会話として好きな音楽の話をしたりしました。今までの人生の中で、ここまで親子で関わることがなかったので、すごく素敵な時間を過ごさせてもらっています」と教えてくれた。
最後に、岡本圭人は「こういう状況の中、舞台に立てるということは本当に奇跡的なことだと思っているので、できる限り今できることをして、たくさんの方々にこの物語の素晴らしさ、生きる意味を感じていただけるよう、精一杯やっていきたいと思います」と締めくくった。
『Le Fils 息子』は、8月30日(月)から9月12日(日)まで東京・東京芸術劇場 プレイハウスにて上演後、北九州・高知・能登・新潟・宮崎・松本・兵庫を順延予定。
『Le Fils(ル・フィス) 息子』公演情報
上演スケジュール
【東京公演】2021年8月30日(月)~9月12日(日) 東京芸術劇場 プレイハウス
【北九州公演】2021年9月17日(金)~9月19日(日) 北九州芸術劇場 中劇場
【高知公演】2021年9月22日(水)~9月23日(木・祝) 高知市文化プラザ かるぽーと 大ホール
【能登公演】2021年9月26日(日) 能登演劇堂
【新潟公演】2021年9月29日(水)・9月30日(木) りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 劇場
【宮崎公演】2021年10月3日(日) メディキット県民文化センター(宮崎県立芸術劇場) 演劇ホール
【松本公演】2021年10月9日(土)・10月10日(日) まつもと市民芸術館 主ホール
【兵庫公演】2021年10月14日(木)~10月17日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
スタッフ・キャスト
【作】フロリアン・ゼレール
【翻訳】齋藤敦子
【演出】ラディスラス・ショラー
【出演】
岡本圭人 若村麻由美 伊勢佳世 浜田信也 木山廉彬 岡本健一
【公式サイト】https://lefils-theatre.jp
(取材・文・撮影/エンタステージ編集部 1号)