宮澤エマ「未来に対する希望」へナビゲートしたい――WOWOW「トニー賞授賞式」生中継に向けて

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日本時間の2021年9月27日(月)に『第74回トニー賞授賞式』の開催が決定。これをWOWOWが独占生中継・ライブ配信する。約1年3ヶ月ぶりの「トニー賞」をナビゲートするのは、宮澤エマ(東京メインスタジオ)と井上芳雄(大阪サテライトスタジオ)。宮澤は、今回がナビゲーター初抜擢となる。

幼少期からブロードウェイに連れていってもらっていたという宮澤。自身の経験を交えながら、復活の「トニー賞」に期待することや、ナビゲーターという大役への意気込みなどを聞いた。

――初の「トニー賞授賞式」ナビゲーターに抜擢されたお気持ちを教えてください。

これまでは、井上芳雄さんをはじめ、ミュージカルを一緒にやってきた仲間たちが出ているのを観ている側だったので、まさか自分がナビゲーターをやる日が来るなんて!とすごくびっくりしましたし、嬉しかったです。

今回は、東京のスタジオだけでなく、大阪のスタジオにいらっしゃる芳雄さんと中継を繋いだり、いろんな意味で“エンターテインメント色”の強い回になりそうだとお聞きしています。今はまだ、生放送のドキドキよりワクワクが勝っていますが、これはきっと初めてだからですね(笑)。

――約1年3ヶ月ぶりのトニー賞開催ですから、いつも以上に期待に胸が高鳴りそうです。

本当にそうですよね。日本では幸いなことに舞台演劇を続けられている状況ではありますが、ブロードウェイでは長いことストップしてしまっていましたから、いつも以上にエモーショナルで意義深く、記念すべきトニー賞になるのではと思っています。

――宮澤さんご自身は、コロナ禍でどんなことを考えていらっしゃいましたか?

最初の緊急事態宣言が出た時は、ちょうど私は『ウエスト・サイド・ストーリー』Season2に出演していたのですが、「一昨日の、あのパフォーマンスが私の千秋楽だったんですか?」と言うぐらい、唐突にストップを迎えました。あの頃は、まだこんな事態になるとは想像もついておらず、「きっと春になったら落ち着いて、Season3は全部公演できるんだろうね」なんてうらやましがっていました。でも、結局Season3はゲネプロまでやったものの、一度も公演を行うことができませんでした。

エンターテインメントが全てストップし、“不要不急”が叫ばれる中で、「エンターテインメントの位置付け」について自問自答する日々でした。ステージ、ライティング、音楽、何よりも“お客様”がそこにいないと、私たちの仕事は全く成り立たないものなんだと、分かっていたことだけれど、ここまで痛感したことはなかったです。

再開できたあと、私自身はラッキーなことに『女の一生』『ウェイトレス』『日本の歴史』と全てやり通すことができているのですが、運が良かっただけで、今も「明日終わるかもしれない」という気持ちの中でパフォーマンスし続けています。それ故に、エンターテインメントが自分にとってどれだけ大切なものであるか再認識もできました。制限はありつつも演劇が戻ってきたことは希望であり、一刻も早くアフターコロナの世界で新たな演劇の喜びを見つけられる状況になればいいなと願っています。この1年半、いろんな心のアップダウンはあったんですが、今はそういう気持ちです。

――今回の「トニー賞」は、世界全体の演劇界にとっても一つの節目になりそうですね。

『ウェイトレス』では、アメリカのスタッフと一緒に作品作りをしていたのですが、彼ら、彼女たちはまったく演劇のない1年を過ごしていたので「あなたたちは本当にラッキーよ」「いかにお客様が舞台演劇を求めているのか、きっと感じるわ」と言っていたのが印象的でした。きっと、ブロードウェイも今回の「トニー賞」でエンターテインメントの力を讃えつつ、エネルギーをもらうことで先へと進めるんでしょうね。

――「第74回トニー賞」のノミネート作のラインナップを見て、どうお感じになられましたか?

残念ながら、今回のノミネート作は何一つ観ることは叶いませんでしたが、『ムーラン・ルージュ(Moulin Rouge)』は、もとになっている映画が大好きで。バズ・ラーマンが、既存の楽曲を使い、PV的な手法で表現していたミュージカルシーンを、実際の舞台演劇ではどうやったんだろう?と気になっていますし、どう評価されるのかすごく興味があります。

映画のサウンドトラックのためだけに、クリスティーナ・アギレラ、リル・キム、マイア、ピンク、4人のバージョンの「レディ・マーマレイド」が作られたんですけど、どうやら舞台ではこれが作品の中に登場しているらしいんですね。日本でも上演が決まっていますが、早く見てみたいです。

『スレイヴ・プレイ(Slave Play)』は、脚本家の方がアフリカ系アメリカ人の方で、もし“best play”を受賞すれば1987年以降の快挙だということで注目しています。また、12部門ノミネートされていますが、これは演劇としては史上最高のノミネーション数だそうです。いろんな意味で、エポックメイキングな作品になるんじゃないかなと思っています。

――宮澤さんは海外で過ごされていた時期もありますが、ブロードウェイとはどのような関わりを持ってこられましたか?

父がニューヨーク出身で、昨年他界した祖母がそちらにおりまして。その祖母が、舞台女優を夢見てアマチュアでやっていた人で、小さい頃からたくさんお芝居を観に連れて行ってくれたんです。物心がつく前から連れていってもらっていたのですが、正直、何だかよく分かっていなかったと思います(笑)。

祖母が『ライオンキング』に連れて行ってくれたことがあるんですが、小さい子どもには怖かったみたいで、途中で「帰る!」って泣き出してしまったそうで。祖母が「せっかく手に入れたチケットだから、お願い!一幕だけも観て!」って説得したという話を、よく冗談まじりに話してくれました。

それから、高校生の時にアメリカ全土からミュージカルや演劇を目指す子たちが集まるサマーキャンプに参加して、層の厚さにびっくりしたり。アメリカの大学に通っていた時も、よくブロードウェイに足を運んでいましたね。

――ミュージカル女優になることは、子どもの頃からの夢でした?

もともとは、舞台は特別なトレーニングを積んできた人たちが立つもの、遠い世界のご褒美だと思っていので、歌やお芝居が好きな気持ちを「自分がミュージカルに出る」という方向に結びつけて考えたことはなかったんです。だから、まさかミュージカルの舞台に立つ日が来るとは全く思っていませんでした。

――では、ミュージカルへの想いを深めた経験はありますか?

14歳頃にサットン・フォスターさんの『モダン・ミリー』でのパフォーマンスに激しい衝撃を受けて。歌い上げる彼女が、すごく自由に見えたんです。その衝撃が、自分の中に「ミュージカルとはこういうものだ」という意識を生んだ気がします。

でも、高校生で学生演劇をやった以降はやっぱり観る専門でした。不思議ですね。小さい頃からブロードウェイで演劇を観る機会に恵まれていたけれど、あの頃とはまた全然違う見方で、職業病みたいにミュージカルを観る日がくるとは・・・。『紳士のための愛と殺人の手引き』を祖母と観に行って、「すっごいソプラノ!あれ大変だね~」なんて話していたのに、まさかその役を自分がやることになろうとは(笑)。

――何事も、経験は宝ですね。

自分がミュージカルをやるようになってからは、一つでも多くのものを身に着けたいと、暇さえあれば動画とか見ちゃうんです。今は、YouTubeで海外作品の映像が見れたり、音楽が聞けたりしますから。最近では、『きみはいい人、チャーリー・ブラウン(You’re a good man Charlie Brown)』が1999年にトニー賞を受賞した時、クリスティン・チェノウェスさんがトニー賞で披露した素晴らしいパフォーマンスを見つけました。

YouTubeって怖いですね、次々に流れてくるから終わりがなくて。しかも、ブロードウェイの動画にはこれでもかっていうぐらい歌のうまい方が次々出てくるから・・・。最近のトニー賞はWOWOWさんが中継してくれますし、耳が至福を通り越して、いつまでも観ていられる沼ですね(笑)。

――宮澤さんがご出演された『ウェイトレス』も、ご覧になっていましたか?

2017年に、ニューヨークで観ました。その時、日本にもきっと来るだろうな、来てほしいなと思ったんですが、当時は一観客として思っていただけで。その後、出演した『ピピン』の日本語版で、『ウェイトレス』の演出も手掛けられているダイアン・パウルスさんとご一緒することになったんです。ダイアンさんに、「『ウェイトレス』がすごく好きだった」とお話したら、「あなた、ドーン(役名)にぴったりだと思う」って言ってくださって。ダイアンさん、リップサービス上手いな~と思っていたら、本当に実現したんです。ご縁をいただけて、とても嬉しかったです。

――トニー賞を受賞した作品がいつ日本で観られるのか、という点も気になるところですよね。

10年前くらいは、なかなか英語が理解できないとブロードウェイの様子が伝わってきづらかったんですが、今は知る手段がいろいろありますから、ミュージカルラバーの方々は日本での上演が決まる前から作品や楽曲のことを知ることができるようになってきましたよね。だから、プロデュースする側もどんどん新しいものを取り込もうというサイクルが生まれてきているのかも。

――今年のトニー賞は二部構成で、第二部のコンサートではブロードウェイのスターや過去の受賞者のパフォーマンスが見れるそうですから、古きも新しきも、改めてミュージカルの良さに触れられそうです。

アメリカには、アカデミー賞とかグラミー賞とかいろんな大きな賞がありますが、トニー賞は一番アットホームな場だと思うんですよね。ミュージカル界の第一線で活躍している人たちが、同窓会のように集まって、お互いを称え合うのは、素晴らしいことだと思います。

今年は、例年の「どの作品が賞を獲るの?」という楽しみとは少し趣が違うかもしれません。空白の時間をなかったことにせず、素晴らしいものをちゃんと評価しつつ、今年ならではの試みで、エンターテインメントの力、歌の力を届けてくれるんじゃないかなって期待しています。

――ナビゲーターとしては、どういう意識を持って当日臨みたいですか?

作品のディテールや、アメリカの演劇史において、この作品はどういう位置づけなのか、コロナ禍ということを抜きにしてこのパフォーマンスの何が素晴らしいのか、そういったことをしっかり伝えられたらいいです。そして、後半のパフォーマンス部分では、「生のエンターテインメントは素晴らしい!」と思わせてくれる瞬間がたくさんあると思うので、それを視聴者の方々と一緒に興奮しながら受け止めたい。

きっと今、舞台から離れざるを得ない方もいますよね。そういう皆さんにも、また劇場へ足を運ぶことへの期待感や、未来に対する希望を持ってもらえるようにナビゲートできたらと思っています。井上さんにいろいろアドバイスいただきながら、視聴者の皆さんが引かない程度に(笑)ナビゲートしていきたいと思います。

――大阪スタジオの井上芳雄さん、ゲストの海宝直人さんとの盛り上がりも楽しみにしております。

芳雄さんは、WOWOWさんの『グリーン&ブラックス』や、昨年末に行われたオンラインのミュージカルフェス『The Musical Day』でご一緒させていただいているんですが、実は舞台での共演はまだしたことがないんです。大先輩ながらいつもフランクな方なので、まるで一本共演したかのような気持ちでいるんですが。素顔が垣間見える瞬間を引き出せたらいいなと思いつつ、東京と大阪でスタジオが離れているので、自由すぎる芳雄さんだったらどうしようとドキドキしています(笑)。

海宝くんとは、私の初舞台だった『メリリー・ウィー・ロール・アロング』以降、ずっと仲良くしていて、今回も出演が決まった時「よろしく」ってLINEでメッセージをくれました。一緒に、トニー賞の素晴らしさを和気あいあいとお伝えできたら。

このほかにも、お久しぶりのあの方など、・・・日本のミュージカル界で活躍されている方が登場してくださいます。日本の番組としてのおもしろさも追求した企画が用意されているので、ぜひそこにも注目してほしいです。ブロードウェイの想いを受け止めて、スタジオの解釈を交えながら視聴者の皆さんに「日本人のためのトニー賞」としてお届けしたいと思います。

目次

『生中継!第74回トニー賞授賞式』

9月27日(月)9:00~(同時通訳) WOWOWプライム/WOWOWオンデマンド
出演:ナビゲーター:井上芳雄、宮澤エマ
「WOWOWミュージカルラウンジ」アンバサダー:海宝直人 ほか

『ライブ配信!第74回トニー賞授賞式 事前受賞の部』
9月27日(月)8:00~10:00(同時通訳) WOWOWオンデマンド
※スタジオパートはございません。

『トニー賞が帰ってくる!』
9月14日(火)ほか※無料放送 WOWOWライブ/WOWOWオンデマンド

『第74回トニー賞授賞式 字幕版』
10月2日(土)17:00~(字幕版)WOWOWライブ

【番組公式URL】https://www.wowow.co.jp/stage/tony/

第74回トニー賞 主な注目作品のノミネーション

【ミュージカル部門】
●「ジャグド・リトル・ピル」:12部門/15ノミネート
ミュージカル作品賞・主演女優賞・助演男優賞(2)・助演女優賞(3)・演出賞・脚本賞・装置デザイン賞・衣装デザイン賞・照明デザイン賞・音響デザイン賞・振付賞・オーケストラ編曲賞
●「ムーラン・ルージュ」:13部門/14ノミネート
ミュージカル作品賞・主演男優賞・主演女優賞・助演男優賞(2)・助演女優賞・演出賞・脚本賞・装置デザイン賞・衣装デザイン賞・照明デザイン賞・音響デザイン賞・振付賞・オーケストラ編曲賞
●「ティナ/ザ・ティナ・ターナー・ミュージカル」:12ノミネート
ミュージカル作品賞・主演女優賞・助演男優賞・助演女優賞・演出賞・脚本賞・装置デザイン賞・衣装デザイン賞・照明デザイン賞・音響デザイン賞・振付賞・オーケストラ編曲賞

【演劇部門】
●「グランド・ホライズンズ」:2ノミネート
演劇作品賞・助演女優賞
●「インヘリタンス」:9部門/10ノミネート
演劇作品賞・主演男優賞・助演男優賞(2)・助演女優賞・演出賞・衣装デザイン賞・照明デザイン賞・音響デザイン賞・オリジナル楽曲賞
●「シー・ウォール/ライフ」:3部門/4ノミネート
演劇作品賞・主演男優賞(2)・音響デザイン賞
●「スレイヴ・プレイ」:10部門/12ノミネート
演劇作品賞・主演女優賞・助演男優賞(2)・助演女優賞(2)・演出賞・装置デザイン賞・衣装デザイン賞・照明デザイン賞・音響デザイン賞・オリジナル楽曲賞
●「サウンド・インサイド」:6ノミネート
演劇作品賞・主演女優賞・演出賞・照明デザイン賞・音響デザイン賞・オリジナル楽曲

(取材・文/エンタステージ編集部 1号、写真/提供)

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この記事を書いた人

ひょんなことから演劇にハマり、いろんな方の芝居・演出を見たくてただだた客席に座り続けて〇年。年間250本ペースで観劇を続けていた結果、気がついたら「エンタステージ」に拾われていた成り上がり系編集部員です。舞台を作るすべての方にリスペクトを持って、いつまでも究極の観客であり続けたい。

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